擺渡人(摆渡人、2016年、香港・中国)

気がつけば香港からいわゆる賀歳片(旧正月コメディ映画)というのが消えてしまった。と、思ったら、しれっとウォン・カーウァイが作ってました。舞台は上海だけど

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ネタバレなしのつもりですが、私のことなので要注意。前回に引き続き、地味に金城武祭り状態。これは昨年クリスマスシーズンに公開された作品。

いつの間にか、香港からいわゆる賀歳片(旧正月コメディ映画)というのが消えてしまいました。いや、その時期に公開する大作映画はちゃんとありますが、キャストをオールスターズで固めてカメオ出演者がこれみよがしに豪華で、内容なんかなんもないようなバカバカしいコメディ映画としての賀歳片。

と、思ったら、公開は残念ながら旧正月ではなかったものの、太陽暦の正月向けにしれっと、プロデューサー王家衛(ウォン・カーウァイ)が作っておりました。主演はトニー・レオンと金城武。共演は陳奕迅(イーソン・チャン)、アンジェラ・ベイビー。

数年前、『桃(タオ)さんのしあわせ』『グランド・マスター』『ドラゴン×マッハ!』などでプロデューサーを務めた陳永雄(ジェフリー・チャン)にインタビューした際に、中国で製作される映画の本数があまりに多過ぎて、主役を張る俳優はもちろん、監督から脚本家、作曲家、スタッフ全般、ポスターをデザインするデザイナーに至るまで慢性的に人手不足である現状をうかがいました。

その影響でしょうか。今、気なる新作をつらつら眺めると初監督作品がやたら目につきます。大抵は、助監督、俳優や編集者、カメラマン、もしくはCMディレクターとしてキャリアを積んできた人達なんですが、なかには映像とは無縁だった人の初監督作品というのもあったりします。

その多くが作家で、今作も中国の作家・張嘉佳(チャン・ジャージャー)の同名短編小説を原作者が脚本も担当したという初監督作。しかもプロデューサーはウォン・カーウァイ。

とりあえず、トニー・レオンだしここはやはり広東語で。と思ったら、この広東語バージョンは普通話と会話するタイプでした。というか、ほとんど普通話だった。

映画はヒットしましたが、内容のあまりのバカバカしさに観客は目が点になったようです(笑)。え~、あの、トニー・レオンと金城武にこんなアホな事をさせられる人がいるのがいいじゃあありませんの。さすがカーウァイさん。特に金城くんのキャラはかなりキテる。しばらく「モウモーウ―――!!!」という彼の絶叫が耳から離れませんでしたよ。天下の二枚目ですが、こういうことさせたくなるんだろうな~。昔はヘンテコなことも2人してたよねぇ、と懐かしいやら楽しいやら。

で、この作品の中盤にご機嫌なアクションシーンがあります。アクション監督は谷垣健治さん。ちょっとだけどお手伝いするんだと、やる前は仰ってましたが、案の定、気がつけばガッツリ撮らされたそうで。ですよねー、なんか想像できましたよ。

ウォン・カーウァイに会った?と尋ねたら(興味津津)、アクション撮影に関しては張監督というよりほとんどカーウァイ監督しか見なかったというお言葉。ほんの少しのつもりだったのに「どんどんやっちゃって!」とリクエストされ長くなって・・・と、それも容易に想像がつく(笑)。

さて、そのアクションシーンですが、超派手楽しいそしてタケシー!トニィィィー!エモい!カワイイ!みーんな縦横無尽に暴れ回ってるぞ。特に、このハンサム2人のアップショットがブサカワイイのがよかった。ツインズの時に「アイドルのアクションはアップをブサ可愛く撮るのがポイント」と谷垣さんが言ってたのを思い出しました。うふふ、カテゴリーはアイドル。

途中、トニーと対峙したナース衣裳のお姉さん。彼女の足元のアップもあいまって「お、グランド・マスター?」と脊髄反射したら、お顔もよく似てるぞ?調べたらなんと金樓でトニー葉問と戦った八卦掌の遣い手を演じた周小飛(チョウ・シャオフェイ)その人だったのでした。うお、めっちゃ小技の効いたキャスティング。
↓この金城君にアームロック決めてるのが周小飛
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彼女、『ソード・オブ・デスティニー』でも、お玉で悪人をシバキ上げた茶店の女将として出演し、劇中ミシェール・ヨーのスタントダブルもつとめました。あの素晴らしい動きです、一度仕事をしたら袁和平(ユエン・ウーピン)もカーウァイ監督ももう一度使いたくなるでしょうね。覚えたっと。

にしても、ジャーマンスープレックスをかますトニー・レオンが見られるとは!一瞬たりとも想像したことなかったよう。ありがとう、谷垣さん!大乱闘では色んな人のブルース・リーもプロレス技も踵落としも無影脚も出てくるよ。んで、なぜか音楽がスラムダンク。なーぜーだー。アニメ、スラムダンクは中国大陸でも人気だったそうなので1980年生まれの張監督にとっては青春の1曲なんでしょうか。いや、アクション監督がニホンジーンだから、なんて身も蓋もない理由だったとしても驚かない、それぐらい昔の香港映画はアホだった(誉めてる)。

多分、谷垣さんが撮ったシーンはかなり使われていそう。楽しかった。けどスラムダンクとアクションのリズムが合ってなかったような気がして残念ですよ・・・。試しにThe Prodigyを適当に流して見てみたらシンクロ感が出て一段とよかったわ。

↓このタケーシのコブラツイスト咆哮は是非とも入れて欲しかった
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これ以外にも、作品には多くの香港台湾大陸の有名曲が使われております。そのあたりも香港賀歳片っぽいね、BEYONDも数曲。まったく詳しくないけど、これは絶対古惑仔!と閃いた陳栄光作曲・イーキン・チョイ歌の古惑仔シリーズのテーマとか(調べたら、『新・欲望の街Ⅰ 古惑仔 疾風、再び』の 甘心替代你 という主題歌でした)。もちろんイーソンもルハンも歌うよ~。

なかでも、トニーが美女バーテンダーを口説くときにかかる曲がね。そこで使う?みたいな。この口説き方、死ぬほどかわいかったなぁ、まるで90年代のチャウ・シンチー。こんなのも絵になるんですねトニーさん。その口説かれる羨ましい美女はスーパーモデルの杜鵑(杜鹃・ドゥ・ジュアン)素晴らしく綺麗。ラスト近くの2人のショットと彼のナレーションはしびれますから。トニー・レオンファンは絶対に見てください。

一方金城武くんのお相手は台湾美女の張榕容(サンドリーナ・ピンナ)。彼女の事は初めて見たけれど、フランスとのハーフらしいのですがとってもキュートでね、いっぺんで好きになっちゃった。張榮吉(チャン・ロンジー)監督の2011年作『光にふれる』にも出演して賞を獲ったそうです。この金城サンドリーナのカップルがまためっちゃいいの。思わず本気と書いてマジと読むこと間違いなし。

鹿晗(ルハン)、李宇春(クリス・リー)、李璨琛(サム・リー)や台湾の重鎮俳優などゲストも多数。お、そういえば、葉太太の熊黛林(リン・ホン)もアンジェラ・ベイビーの恋敵の役で登場しておりました。葉問以外の彼女はいつもキワモノ扱いでなんだか不憫。『イップ・マン 継承』すごく良かったし、たまにはまともな役をやらせてやってくれ。この2人の女の勝負が酒飲みバトルだったんですが・・・・正直ただお酒を飲むだけなので絵は似てくるし、ラウンド9までやる必要はあっ(略

でも笑いもそういう苦笑も一緒にあるのが賀歳片(私の中ではすっかり賀歳片枠)という気もするから、ま、いっか!武くんの唇も見事に腫れてたしね!

電影 擺渡人 香港預告
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喜歓你(香港・中国 2017年)

一言でたとえると出前一丁映画。香港で出前一丁が国民食といってもいいほど人気なのは知っていました。が、実は大陸にもその余波が及び、すごい人気となってることまでは知らなかった!ネタバレなし

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普通話、簡体字字幕で観賞。かわいい映画でした。ある有名ホテルチェーンの御曹司の金城武。食道楽の彼は食に関して度が過ぎるほどシビア。その彼が買収を目論む上海の高級ホテルで唯一気に入った料理人が周冬雨(チョウ・ドンユイ)。しかしこの2人、すでに最悪の初対面を済ませており・・・というボーイミーツガールもの。

監督は1982年生まれの許宏宇(デレック・ハイー)。業界では編集として経験を積んできました。エディターとして関わったのは『ウォーロード/男たちの誓い』『孫文の義士団』『捜査官X』『カンフー・ジャングル』『スキップ・トレース』『修羅の剣士』など。金像奨や金馬奨でノミネートもされておりますが、監督としては今作が第一作目。

ヒロインは 、デビュー作である張芸謀(チャン・イーモウ)監督『サンザシの樹の下で』で数々の映画新人賞を総ナメにし、 曾国祥(デレク・ツァン)監督の『七月与安生』では台湾金馬奨の主演女優賞に輝いた、いまや若手演技派女優の筆頭である周冬雨(チョウ・ドンユイ)。

サンザシのイメージが先立つとベタな清純派かと思いますが、短いキャリアながらも多くの作品に恵まれ、そのほとんどを違う監督違うタイプの役で渡り歩いてきただけあって、実にそつがない。

普通アイドル的な若手女優なら絶対しないブサ顔も厭わず、勢いでスクリーンの向こうからグイグイ迫ってくる。今後どんな女優になるのかと想像したら、ちょっと空恐ろしいくらいです。

そして、その彼女のお相手となるのが、歳の差18となる我らが金城武。最初この2人のラブコメディと聞き「うーむ」と不安に思ったのですが、そこは金城くんと長いおつきあいのプロデューサー、ピーター・チャン。私のドストライクであるキャラクターをあてました。

高級スーツに身を包んだ髭メガネ男子でやんす。まるで捜査官Xのシュウさんが現代に蘇ったかのような変人キャラが楽しい。これって、まんまシュウさんだよね?ね?ね?大好き。

トランクに大量の出前一丁を隠し持っている彼は、睡眠障害なのか夜中に起きて自らの作り方で出前一丁をこしらえる。

それは、
・100度に沸騰したお湯を沸かし
・麺を色の変わるか変わらないかのアルデンテにゆでる(武は3分ゆでていた)
・その麺を湯切りし素早く冷水で〆る
・水切りした麺をどんぶりにあけ、ネギ粉末のスープの素、オイルを混ぜ、撹拌
・そこに作り方にある八分目の量のお湯を加えふたをして3分待つ。
・コツは絶対に時間を守ること
というこだわりよう。

実は偶然この作品を観る前に、雷に打たれたようにどうしても出前一丁が食べたくなって近所のスーパー2件を回ったのですが、5食パックはあるのにバラ売りはなし。仕方なくなぜか「マルちゃんの3分ゆでて簡単 スープワンタン」を買ったばかりでした。

香港と言えば出前一丁、出前一丁と言えば香港。ご存知の通り、香港でのインスタントラーメンシェア60%を誇るその味は広く親しまれ、茶餐庁で必ずといっていいほどメニューにある。しかし大陸にも数年前からその余波が及び、人気となってることまでは知らなかった。

これだけじゃなく、ヒロインが高級ホテルの料理人というだけあって、目にも鮮やかな料理がふんだんに登場するので確実にお腹が空きます。絶対に夜中に見ちゃだめ。グルメや流行りものを下品にならず上手く取り入れた軽い作風に思わず頬も緩んでしまう。

劇中、高曉松(高晓松、ガオ・シャオソン)という、政治や国際情勢などを辛辣に解説するネット番組で人気の文化人が、トレードマークの扇子を手に登場。彼からインタビューを受ける主人公がぬいぐるみを手に挨拶するショットがあります。中国のインタビュー動画をご覧になる方ならよく目にするだろう光景。なぜか大陸では、番組のキャッチにゲストにマスコットを持たせ挨拶させることが多く、笑ってしまいました。河豚だしね。

↓河豚がこの映画ではちょっとしたキーポイントに
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↓参考写真(武のを検索したけど見当たらなかったの、ごめんよ)
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とにかく、周冬雨がノリにノッてるオーラ全開でキラキラしておりました。そして震えがくるほど男前武くんの変人ぶりと食べるシーンを同時に堪能することもできたのであります、かわいかったし、金城ファンなら悶絶するほど素敵な台詞やシーンもあるよ!
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香港や大陸で大人気の出前一丁、台湾でも人気かと思いきや、当然売ってはいるでしょうけど、そこまででもなさそうな雰囲気。まして香港のように、ちょっとしたお店のメニューとしてあるのは珍しいみたいで、あっても港式のお店で出す程度のようです。

さて、時間をきっちり守り、少しでも超過したら箸もつけない、そんな男は果たしてこの映画で出前一丁を食べることが出来るのか?それは見てのお楽しみ。

《喜歡你》(This Is Not What I Expected) 予告

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異聞 始皇帝謀殺(原題:秦頌、1996年・香港中国)

姜文の不憫さ大爆発。渋くてひねった包装紙に惑わされがちですが、基本この人の役は清濁併せ持ちつつも、不憫さがあふれてナンボ。

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日本語字幕版は手に入りにくく、簡体字字幕で観た。監督は『麻花(マーホア)売りの女』、2003年テレビドラマ『天龍八部』、2005年テレビドラマ『楊貴妃』の周曉文(チョウ・シャオウェン)。

1996年作、姜文33歳。だいぶふっくらしており弟の姜武(チアン・ウー)にそっくり。姜文の出演作はパッとみ、声で年代を測ることが出来るのが面白い。この時はまだ声が若いです。このあと煙草のせいなのか年輪がそうさせるのか、あのスーパーヴォイスに徐々に変化するわけですね。共演はその後ドSなチアン先生に監督作でいろんな方面でいじめられる葛優(グォ・ヨウ)。2人はこれが初共演だったそうです。年齢は葛優の方が6歳上だったのか。

葛優は二枚目俳優と言い難い風貌ですが、もともと喜劇で知名度を獲得し大陸では大変な人気者。受賞歴やCM出演も多い中国を代表する俳優のひとりです。

彼の喜劇を数観ていないので、私の中のイメージだと超演技派。そういえば以前彼の出演作を初めて観たつもりでいたら、結構観ていてびっくりしたことがありました。今なら判る。最初に観たのは『さらば、我が愛 覇王別姫』の袁四爺。

原題は『秦頌』でチアン先生が秦の始皇帝(贏政)。葛優は、贏政の乳兄弟で筑(古代中国の五絃の琴の原型のような楽器)の名手、高漸離。

政が幼いころあわや斬首寸前という時に死の恐怖から救ったのは幼なじみ高漸離が奏でる筑の音色と歌でした。いよいよ秦に帰国という日、少年政は高を竹馬の友として連れて向かうのですが、道中ちょっとした隙に従者が高を捨てていってしまいます。

やがて、政は泰の王となり、高漸離は燕で著名な楽師として成長しました。燕といえば始皇帝暗殺に一番近かった男荊軻がおりますが、この暗殺が未遂に終わり激怒した政は燕を滅ぼし燕の民を奴隷として苦役につかせます。

今や秦王の政は、そのなかから高を捜しだし宮廷で楽師として泰の国家「秦頌」を作曲させようとします。が、燕に対する非道なふるまいに高漸離は首を縦に振らず、ハンストして死のうと試みるわけですね。その彼の反抗を懐柔しようと一役買ったのが政の愛娘。しかし、いつしか2人は愛し合うようになり・・・。

第一印象。チアン先生、またまた清濁併せ持ちつつ不憫なことよのう。
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天下の始皇帝に不憫というのもなんですけど、本当にそうなんだから仕方ない。かつて目前に迫る死という極限で触れた高の音楽は、足の不自由な自分の娘以外、誰一人として信用しない泰王にとって何より欲したもの。再三高漸離をその筑を聴かせよと泰に招いても「聴きたければ、向こうが来ればよい」と芸術家らしい傲慢さで断わり続けておりました。

粛清と恐怖政治で知られた泰王でしたが、その高の態度に激昂することもなく、燕を滅ぼした後、正式に楽師として迎えることにしたわけです。

しかし当の高漸離は自分を支えて欲しいという泰王の要望を、友情を仇で返すがごときに(なにしろ自ら死罪になるつもりで溺愛する娘と通じてしまう)断わるのです。

家臣が姫を手籠にした男を断罪してもなお、なんやかやと言いくるめて結局かばう政。なんて不憫なんだ!お前は高漸離をそんなに愛しているのか?と半ばあきれてしまうほど。一方で、国歌を作ってくれなきゃ燕の奴隷の首を片っ端から切るという強迫ぶり。なんですか決して報われないその歪んだ愛情。それだけに不憫さが一層際立ちます。

圧倒的存在感と俺様鬼畜監督ぶりからピンとこなかったりしますが、実は彼、結果的に報われない思いを抱えた不憫なキャラが多かったりする。そういや、『三国志英傑伝』でも曹操はそういう男であったよなと。いわば、あの映画の曹操のプロトタイプの人物像としても見てとれる不憫さ。(しかも曹操のくせに女っ気がまったくないし)

いや、『太陽の少年』『鬼が来た!』『さらば復讐の狼たちよ』『弾丸と共に去りぬ』など自分の観た姜文映画の多くがビターエンドであったことを考えると、ある意味「不憫」は姜文のキーワードみたいなものかもしれません。なるほど、ローグ・ワンでチアルートの相方として、あのような最期を演じる役者を選んだには理由があったのだと、彼をキャスティングした人の慧眼に感服するしかありません。(ローグ・ワンに関して言えば、チアルートとベイズは本来あるべき場所、フォースに還ったある意味ハッピーエンドと個人的に解釈しておりますけど)

一方、そんな始皇帝の気持ちを汲み取らず無下にし、殺すなら殺せとふるまう葛優の無表情が怖い。本当にいい俳優です。しかしこれは言わせてもらう。張芸謀(チャン・イーモウ)の『活きる』も見ましたが、彼の現時点でのベストアクトは陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『運命の子』じゃないかなぁ。対峙する王学圻(ワン・シュエチー)との緊張感がすさまじかった。次点で『覇王別姫』。

秦の始皇帝といえば、多くの俳優が演じそのキャラも多様。主だったところでも陳道明(チェン・ダオミン)、李雪健(リー・シュエチェン)、張豊毅(チャン・フォンイー、この人は荊軻と始皇帝両方やってる)など、果ては大映歴史超大作の勝新太郎まで。
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自分としては『HERO』 に登場した誰にも理解されない孤高の存在としての始皇帝が、陳道明の男前度とともに一番印象に残っております。
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近年では邵兵(シャオ・ピン)も荊軻のドラマで始皇帝を演じているそうで、彼だとどういった皇帝になっているのか、ちょっと観てみたい。

さて、本作のキーパーソンである姫役は許晴(シュイ・チン)。めっちゃ若くて可愛い。ドニーさんの『導火線』で馬軍の上司だった女性。導火線では特別出演でしたが、馮小剛(フォン・シャオガン)監督が俳優として主演した2015年の『老炮兒』で主演女優賞を獲ったりしてバリバリの現役大物女優として活躍中です。

実はこの『異聞 始皇帝謀殺』のストーリーを基にしたオペラ『The First Emperor』(中国語タイトル:秦始皇)というのも作られておりまして。さっきその全曲を聴き終えたばかり。

ニューヨークメトロポリタンオペラから依頼を受け譚盾(タン・ドゥン)が作曲。泰王をプラシド・ドミンゴが演じました。その2006年初演時の監督を張藝謀(チャン・イーモウ)が担当、衣裳はワダエミ氏。物語のベースは今作ですが、『HERO』の音楽監督衣裳がそろい踏みしたというオペラでやんす。
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The First Emperor – Metropolitan Opera
Tan Dun | The First Emperor
MET Opera on DVD – The First Emperor – Placido Domingo
秦始皇 (歌劇)中文wikipedia

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スプリット(2017年・米)

色んなところがスプリットしておりました。ネタバレ感想もスプリットしてるよ。

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冒頭さっさと女子3人が誘拐されるスピーディーさにまず好感を持ちました。
あとはマカヴォイさんの演技を口をポカンと開けて見守るのみです。彼の演技はめちゃくちゃ見応えがありました。それとともに誘拐される少女の1人ケイシー役のアニヤ・テイラー=ジョイの不安げでありながら何かを諦観したようなまなざしが素晴らしく良かった。とてもいい女優さんです。

ただ幼児虐待ものが大の苦手なので、最初の狩猟回想シーンから不穏な空気を感じてしまいずっと胸の奥にぞわぞわしたものを抱えて落ち着かないこと、落ち着かないこと。自分にとって今作で一番サスペンスフルだったのは一連のこの回想シーンでした。

マカヴォイは23人の人格を持つと聞いた時点で、ある程度想像できたので覚悟していたけれど、ケイシーの方は心構えが出来ていなかったよ。その要素はものがたりの展開に重要な意味を持つために回避不可能だったのでしょうが、途中彼女がシャツを脱いで胸の谷間がよく見えるTシャツ姿になるのが自分には非常にノイズになりました。

24人目に関しては、映画界でヒーローものがこれほど主流になるならこれもアリじゃん?と妙な爽快感が。あれがよくてこれを白けると言ってしまってはアメコミなんかそもそもどうするんだって話ですわね。

ケイシーのことばかりで恐縮ですが、パトカーで「保護者の叔父さんが来てるわよ」と聞かされたあと、沈黙が続き、婦警を見つめる彼女の眼からは様々な感情が渦巻いていることが伝わってきました。せめて、言葉を発するために息継ぎをした瞬間でカットを変えてくれればよかったのに。

まぁ、あの衣裳を着たケイシーという役を、ご丁寧にあのようなアングルで撮る監督には、それは無理な注文でしょうか。

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ラ・ラ・ランド(2016年・米)

ラストはシェルブールの雨傘だったLaLaLand。こんな眩しい映画は久しぶり。

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↑大陸版ポスター

子供のころからミュージカル映画が大好きでした。一番のお気に入りはフレッド・アステア。私の子供時代はビデオもなかったので、年末年始の夜中に放送される往年のMGMミュージカルを偶然観るくらいしか視聴方法がない。その時期になると、新聞のテレビ欄で必死にミュージカルのタイトルを捜したものです。

本作の監督は31歳のデミアン・チャゼル。彼の年齢や才能に驚くとともに、一方でその若さこそが、素晴らしいこのミュージカルを生みだしたのだとも感じました。

彼が過去の名作をどれほど愛し繰り返し観たかが、画面の隅々から音のひとつひとつから伝わってきます。そして瑞々しい感性で、愛情たっぷりに夢を追う恋人たちを描いた。そこにあったのは私の目を潤ませたまばゆい作品の持つ若さと情熱。

また主役の2人の歌と踊りに本職のシンガーやダンサーレベルの高クオリティ(いや、それでも凄かったんですけどね)を求めなかったことが本当に有難かった。例えるなら本物の格闘家がアクション映画に向いてるかどうかと同じようなことかと。(←重度のアクション映画脳)その見極めに、監督のミュージカル映画に対する愛情と同じくらいの映画に対する俯瞰的思考を感じて、ごっっっつ感心いたしました。

もしその点で本職クオリティを求めてしまっていたら、ひょっとすると、観ながら私は元ネタになった多くの作品と比べてしまい、これほど楽しめなかったやもしれません。心から楽しかった。ありがとう・・・!

素晴らしいオリジナル楽曲の数々で、私が一番好きだったのはこれ。

最後に。またすぐドニー・イェンの話になって恐縮ですが。
ドニー葉問の連消帶打は、フレッド・アステアのタップダンスだからね!

関連スレ
バンド・ワゴン(1953年・米)-フレッド・アステア

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まだ書くことがあった『イップ・マン 継承』 – ドニー・イェン 甄子丹

公開初日に立川シネマシティの極上爆音に行ってきました。めっちゃよかったわ。信じられないほどのいい音と、大きなスクリーン。そして座席のひとつひとつに小さなライトの灯る素敵な劇場。

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とはいえ、ここに来るのは『マッド・マックス 怒りのデスロード』と『ローグ・ワン』に続いて3度目。今回のイップ・マンが一番印象が深い気がするのは、選んだ席が良かったのか、最近音響設備を少し変えたせいなのか、それとも贔屓目なのでしょうか。劇場の支配人がイップ・マンをお好きだとかで、この上映が実現したとうかがっております。いや、本当に上映してくださってありがとうございました。

話は少し遠回りしますが、

実は私、香港での公開時に唯一上映していた3Dをマカオで観ています。数ある巨大カジノリゾートのひとつ、ギャラクシーマカオ(Galaxy Macau)の中にあるUA銀河影院(UA Galaxy Cinemas)は10あるスクリーンがすべて3Dという成金仕様。

そこの、料金設定が250HKDというバカ高いわずか30席ほどしかないシアター1「豪華貴賓影院 (Director’s Club)」で1度、そして2度目を300席ほどの130HKDの3Dシアター6で観賞。

同じ映画なのに2つの環境ではまったく別物に見えて驚きました。普通の3Dだと、3D効果はほとんどなく、画面は暗くて「なっとらん!」と激怒するレベルだったのに対し、そのバカ高い30席弱のシアターだと奥行きもバッチリ目が覚めるほどの映像だったのです。

日本でも普通の3DとIMAX3Dの違いというのは感じたことがありますが、一方がIMAXでもないのにあれの比じゃなかった。

高額な方だと、背景の奥行きが効果的で一層美術の素晴らしさが際立ちました。どころか、開いた窓から入る風に揺れるカーテンが、妻永成の愛にあふれた静謐な心情に寄り添うように映って見えて最高。

アクションもやはり3D仕様で、対タイソンや詠春対詠春のラストバトルは圧巻。「これは3Dのための演出なんだろうな」と思っていた部分はもちろん、なかでも八斬刀ファイトが大迫力、見違えるようでしたよ。ウーピン先生、そのショットは3Dを意識したんすね!と心の中で拍手喝采。

加えてそれまで観たなかでも音響がぶったまげるほど素晴らしく、音楽だけでなくSEのよさが鳥肌モノでした。2005年、『SPL 狼よ静かに死ね』で、谷垣さんが香港映画のサウンドエフェクトのあまりのショボさにわざわざ日本の柴崎憲治さんに依頼してから10年、ここまで香港映画も進化いたしました。ほんと払った料金だけはあったのです。

が、100ドル安くなると、同じ3Dのはずなのに画面は暗く奥行きもへったくれもない。どのくらい画面が暗かったかというと、何度も何度も な ん ど も 自分のメガネと3Dメガネを拭いてしまったくらい暗かった。それは「2Dで観た方がマシ、金返せ」と思うほどのレベル。また、サウンドの差も大きすぎて話にならない。正直、これでは大陸以外のどの国でも3D公開しないわけだわ!と思った位です。なぜ同じReal Dであれほどまでの差が出たのか、未だに謎。

が・・・しかし、あのマカオでの250HKDの音と遜色ない音響が、この立川シネマシティ、シネマツー・bスタジオにはありました。素晴らしい。そしてスクリーンの大きさや座席の快適さ、劇場の持つ独特の個性は、香港のシネコンで観た2Dを凌駕しているといっても過言ではありません。しかも、爆音とそうでないスクリーンすら、当然差はあったものの、特に何ら不足はなかったという。

すごい、すごいよ立川シネマシティ!いや、前から凄いとは思ってたけど、ここまで実感したのは初めてだよ、シネマシティ!でっかいスクリーンとすんばらしい音響で上映してくれて、ほんっっっとありがとう!シネマシティ!!

そんなシネマシティに惚れこんで何度か通いました。すると、香港で観て感じた葉問と張天志のアクションの違いがどこからくるのか今更気がついたりして、まったくです。やれやれ、遅いよ。
 
初見時、私はその差がどこからくるのかよくわからず、単純にアクション監督のユエン・ウーピンとの相性であると乱暴に書いたと思いますが、何度目かでこれはキャラクターの違いがそうさせていると思いたちました。

葉問は今回、一度も我を忘れたような闘いをすることはありません。学校に火をつけたり子供を誘拐した奴らに対してですら、極端に言うと「おしおき」レベル。タイソン戦はかなり苦戦を強いられましたが、それでも『序章』のカラテ10人のあの殺気とはまったく違う。「貴在中和,不爭之爭」争わぬために戦う、この殺気立たない闘いこそが我々が目にしてきた葉問の本来の姿であります。

一方、マックス・チャン演じる張天志は、常にトドメを刺しにゆく本気モードです。この本気には同門の葉問に対する憧れや妬みが絡みあった上昇志向がダダ漏れしております。相手が誰であれ、当てた拳は肉を抉り内臓の奥深くまでダメージを与え、中段に蹴りだした足は「敵」を遠くの壁まで吹っ飛ばす。いわば触ったら最後、「殺ってやるぜ!」という気迫がフルスロットル。

何度か観てやっとそこに気がついたという、私ってバカ。バカバカバカ。

この感情の差で、より強いエモーショナルなマックス・チャンの動きに観る者が惹きつけられるのは当然でした。単純にアクション監督との相性なんかではなく、ものがたりのキャラクターの違いがそうさせていたのであります。

ほえええ、それをきちんとふまえてコレオグラフしたウーピン先生もすごいし、その差を「演技」としてアクションで表現したドニーさんとマックスも、ほんとすごいよ。

東京立川のシネマシティは5月18日まで上映。すでに日に一度、しかも朝一番という厳しいスケジュールになってしまいましたが、お近くの方は是非。

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イップ・マン 継承 日本公開記念小ネタその2 ‐川井憲次さんトークショウ

『イップ・マン継承』の公開記念・川井憲次トークショウが新宿武蔵野館で行われました。及ばずながら私もお手伝いいたしました。ありがたいことにチケットは数時間で売り切れたそう。来て下さったみなさまに感謝でございます

まずは、毎回恒例武蔵野館の飾り付け。今回の継承は以前にもまして力が入ってます。
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これは前・新宿武蔵野館支配人の最後の作品だそうで・・・すごく愛情を感じます。ありがとうございました!
↓このキャッチがね・・・泣かせるざんすよ。
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↑左はアタマ欠けちゃったけど「甄功夫、聖地凱旋!刮目して見よ!」

そしてエレベーターが3機とも葉問!
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今回のパンフレットには、くれい響さんが取材構成した川井憲次さんのすんばらしいインタビューがすでに掲載されており、正直それを読むだけで充分すぎるほど。どころか、今回宣伝さんがかなり頑張った成果で、複数の媒体に川井さんのインタビューが載っていて、ぶっちゃけ、私ごときが質問したいなーと思っていたことは全て先達がきちんと尋ねており、もう訊くことないじゃんか!と焦りました。とほほ。

で、そのレポートをと思ったら、なんと世の中にはすごいものがあるもので【全起こし】をしているサイトがあったのでこちらを。全起こしか・・・途中から興奮して日本語が変になっとるよ自分。

そのうえ抱挙礼がどうもなっとらん!!(反省)

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いやいやいや、継承のサウンドトラック発売して欲しい!レイモンド・ウォンちゃんと作ってくれぇ。

また、当日が丁度川井憲次さんのお誕生日で、それをファンの皆さんと一緒にお祝いできたことがとても幸運でした。

川井さん、お誕生日おめでとうございました!!!!

トークショーの最後にはドニーさんからファンへのメッセージも。その衝撃の内容は上に記した【全起こし】記事で確認せよ。

↓ネットにあがった川井憲次氏インタビューの数々、正直どれもかなりの読み応え。すばらしい。
『イップ・マン 継承』:川井憲次が迫力のバトルシーンを盛り上げる音楽の秘密を解説

世界が認める川井憲次、仕事が早くて完璧!なスゴ腕に驚かされる

『イップ・マン 継承』川井憲次インタビュー

宣伝担当のS嬢のお話では、客層が今までと全然違う!とのこと。「やっぱローグ・ワンですかね~うれし~」と2人して手を取り合って喜んでしまいました。

しかし、初日から人の入ってる劇場とそうでもないところの温度差があって、それを心配しているとのお話でした。レンタルやネットで1,2をご覧になっても、まだ公開すら知らない方もいらっしゃるかもしれません。お近くの方はお誘いあわせのうえ、是非。
公式サイト劇場一覧
GWはトレーディングカードプレゼントもあるよ!!

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イップ・マン 継承、日本公開記念小ネタその1-ドニー・イェン

祝・日本公開。私もパンフに寄稿させていただきましたが、あそこに書ききれなかったものをこちらに。ネタバレ注意。映画には夢も大切。あまり撮影の技術的裏話を知るのが好きじゃない人も注意。とはいえ、ドニーさん本人が喋っちゃってるんだけどね、とりあえずぬるく凤凰娱乐でのインタビューの概要

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洋泉社から出てる「映画秘宝」6月号と「映画秘宝EX 激闘!アジアン・アクション映画大進撃」読みました?とてもよかった!

秘宝の方は谷垣さんが、継承公開記念ということでロングインタビューがありました。継承だけでなく、ローグ・ワンやトリプルXのことも喋っていて、この2作のアクションを作るにあたり、ドニーさんがどう工夫したかについてのお話がめっちゃくっちゃ面白かったです。ただし継承のネタバレ三昧だったので未見の方は注意。

アジアン・アクションの方はドニーさんにかなりのページを割いていて、とっても興味深かった。ウィルソン・イップ監督のロングインタビュー(ただしこれも継承のネタバレあり)が秀逸。マックス・チャンのインタビューもあるよ。あ、知野二郎さんが書かれた記事もありました。香港台湾中国だけにとどまらず、韓国東南アジア中東までと非常に嬉しい内容、色々知らないことばかりで勉強になるわ~。なんといってもライター皆さん全員の熱量が素晴らしい。どのページも開く度にニコニコ笑顔になってしまいます、必読。

さて、いよいよ今日から公開の『イップ・マン 継承』ですが、今回そのパンフレットにコラムを書かせていただきました。一部700円、よかったら手にとってくださると嬉しいです。その中で書けなかったことがいくつか残っているので、こちらに残しておきたいと思います。

※参考文献・なにか決定的に違うところに気がついたらご面倒ですが、ご一報ください。
甄子丹:《叶问3》在港票房超过成龙李连杰,我已感恩

・CGIブルース・リーについて。

実はクランクインとともに、今作に登場するブルース・リーはCGIで登場させるという発表がありました。その直後、家族が設立したブルース・リー財団が反対を表明。結局プロデューサーであるレイモンド・ウォンは財団の許可を得ることができず、その案はボツに。

しかし、ドニーさんとウィルソン・イップ監督はこのCGIブルース・リーがうまくいくのかどうか、当初から不安を感じていたようです。

「我々はそれが非常に高額になること、そしてうまくいかないことを心配していた。技術的には可能だけど、とても危ないことだと監督と僕は思っていたんだ」

CGIブルース・リーがなくなって実は2人とも本音ではホッとしたんですね。で、CGIがなくなったので、監督はブルース・リーのシーンを全面カットしようと考えたようです。しかしそれを残すことにしたのはドニーさんでした。

「CGIの構想時は出番はもっと多かったんだ。けど全部なくしてしまうとセールスポイントがなくなってしまう。(すでにブルース登場を発表している限り)それでは観客が納得しないだろうと監督を説得して脚本から2つの場面を残しました。あのシーンは僕が残したんだよ!(多分ドヤ顔)」

・ブルース・リーを陳国坤(チャン・クォックワン)が演じたことについて

ここでちょっと陳国坤の説明をば。彼は子供のころからの熱狂的なブルース・リー信者で物真似が上手く、それがきっかけで映画界に入った俳優です。彼がブルース・リーを演じ、中国で高視聴率をあげた連続テレビドラマ『ブルース・リー伝説』の製作総指揮は、娘シャノン・リーがつとめたというお墨付き。

「彼はとてもブルースに似ている。もともと監督がモーションキャプチャーに陳国坤を起用する予定だったんだ。みんなはブルース・リーを見たいと思っているし最近のブルースのイメージと言えば陳国坤、他の俳優がやっても違うと感じるでしょう」

一方、その陳国坤さんは継承出演をこんな風に言ってます

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・台詞もたくさん考えたドニーさん。

武館で話し合う葉問、鄭則仕(ケント・チャン)、梁家仁(レオン・カーヤン)ら3人。この場面で「すべては現在の為でなく、将来の、子供達の為」という内容の台詞はドニーさんが加えたそうです。梁家仁のリアクションはすべて自然に出たもので、「あれは僕が考えたのさ!」と威張ってました。

・詠春拳や劇中のアクションについて

インタビュアーが「実戦では詠春はボクシングに負けてばかりですよね?」という質問をし、それに対するドニーさんの答え。

「まず最初に、僕には僕の観点がある。しかしそれについては評論する気はありません。武術界での交際に影響を及ぼすからね。次に、それは我々の映画には関係ないと思う」と話しました。

が、ブルースが詠春拳を学んだ後、サンフランシスコに渡り多くの対戦を経て詠春拳の弱点を知ったことを語ったうえで、自分のマーシャルアーツへの信仰は映画を観ればすぐわかる、現代アクションをね、と付け加えています。そして、僕は詠春を中心に据えた映画を撮影してるんだ、詠春撮れなくなっちゃうよ、わかってるでしょ、と。いやいやいや、それ喋ってるのと同じだから(汗)。相変わらず率直なお人すぎます。

インタビュアーはまたこんな質問もしました。「タイソンのパンチは強力で、葉問はそれをくらってもまだ起き上がれるのでしょうか?」

「確かに誇張はしてあるよ、けど僕にとっては観客に美しく見えればOKなんだ。サモハンが撮ったシーン、1対10も円卓の戦いも素晴らしかった、パート3はどうすればいい?プレッシャーは本当に大きかった。悪くないよ、最低限観客を満足させられるものになった。マックスとのエンディングのファイトは、確実に素晴らしい。これは難易度が高いんだ。以前のような憤怒ではない内面の感情があり、今までの撮影とは違っていて難しかったよ」

また、劇中、相手の目を攻撃する動きが2度登場します。葉問がタイソンの目を擦り、ラストではマックスが葉問の目を突く。この目を擦るか突くかの違いは、ユエン・ウーピンが考えたマックスの残忍さ、キャラクターの違いを表現するものでした。

この葉問の目を突くシークエンスのネタバレをドニーさんがしております。

「我々はあそこをどう撮るか悩んでいたんだ。誰が大胆に(僕の)目を突くことなんかできる?そこで自分でやると八爺(ユエン・ウーピン)に言ったんだよ、あの目を突いたのは実は僕の手。1、2、3!アッ!(シーンを再現、自らの目に指を刺す)・・・見たことないよね?おかしすぎる!(爆笑)」

そう、後出しジャンケンみたいになっちゃいますが・・・あの指の形がドニーさんに似てるなぁとずっと思っておりました。アクション映画の撮影手法として、キックが顔や首に当たるアップのショットを手に靴をはかせて撮る、とか、殴る手のダミーを作って同じようにアップを撮るというのは昔からよくあることですが、あまりにも見事なカメラワークにイマイチ自信が持てなかった。(あ、今気がついた。葉問の右肩から腕をポスプロで一旦消してそのあと別の角度の腕を足せば簡単なのかも?)

これを聞いてスッキリです。だってどう考えても、思いっっ切りあんなことをドニーさんに一発で決められる人はいないでしょう。何度も繰り返して失敗したらどうすんだよ!ひぃー。私がスタントマンなら死んでもやりたくない、そんなこと。(色んな意味で)恐ろしい。

そのあとの決着のワンインチパンチはウーピン先生のデザイン。ワンインチパンチ(寸拳、寸勁)は詠春にもありますが、ブルース・リーで一躍有名になりました。ウーピンさんは「伝統的な功夫映画では一手が勝敗を分ける鍵になるんだ」と言ったそうで。彼はこういう決着の付け方がとてもうまいんだ、とドニーさんは師匠を語っています。そして「八爺は金像奨(の最佳動作設計)を獲るべきだ」と続けました(結果は・・・獲らなかったけど)。

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↑シットスピンみたいな、このポーズもドニーさん考案。本作のタイソンとのコレオグラフはノンクレジットながらドニーさん。

最後に。これは必見、『イップ・マン 継承』マックス・チャンインタビュー動画

興味深いのはドニーさんの鼻梁を傷つけてしまった後の話。

「当然、すごく心配したけれど、撮影中は不安を抱くと余計危ないので再開後は遠慮しなかった。師匠たちに挑むシーンも、躊躇すれば撮り直しで相手は何度も蹴られる羽目になる。まず正確に、次に激しく。それこそ1発で済む。だから躊躇しない」

さすが元スタントマン、袁家班。マックス・チャンは根っからのアクションマンでござる!!

ドニー・イェンアクション監督作『かちこみ!ドラゴン・タイガーゲート』では、ニコラス・ツェーがインタビューで、スタントマンを思い切り蹴れなくてNGを何十回と出し、とうとう翌日に持ちこしてしまった時の話をしていました。その際に彼がスタントマンから言われた言葉が「思い切り蹴れば痛いのも一度で済む」。

もちろん、思い切りしているつもりの顔面へのキックにOKがでなかった心やさしいニコラスの気持ちはとってもよくわかります。けれどアクションを作るドニーさんにとって、何が一番いいのかは別次元なのでしょう、ニコラスほどのキャリアと根性が座った俳優ですら迷う。

しかし、そのリミッターを外すことで初めて彼が見せたことのないアクションが出来上がる。まして武打星同士なら痛いかゆいも当り前。「ごめん~!!!」と大騒ぎするのは余程の時でしょう。

メイキングでちょっと痛そうな顔をしてたからって、やれ「虐待だ」「いじめるためにわざとやってる」とか「叩いた方がなんで直後にあんな平気な顔してられんの?」なんて、何の事情も厳しさも知らずにやみくもに大騒ぎする大陸の人気俳優らのモンスターファンは、心してこのマックス様のお言葉を聞くがよいのぢゃ!

参考文献
甄子丹:《叶问3》在港票房超过成龙李连杰,我已感恩
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ついでに、「昂坪(NGONG PING)360」に乗って葉問體驗館にも行ってみた
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ハードコア(Hardcore Henry、2016年・露米)

初日に行った。観た。もうね、死ぬほどおもしろい。正直、これを読むより、参考にした公式サイトとGIZMODOジャパンの記事を読めば充分な気がしますが、一応記録として。

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この映画がシネコンでちゃんと終日かかったことに感激。
そもそもは全世界で再生回数1.2億を記録したという、ロシアのパンクバンドBiting Elbows(バイティング・エルボーズ)の”Bad Motherfucker”のミュージックビデオから端を発したプロジェクト。ビデオを監督したのが今作の監督でもある、バンドを率いるイリヤ・ナイシュラー。

加えて映画プロジェクト初期からクラウドファンディングサイトでキャンペーンを張り、短いクリップを製作して一部で絶大なる支持と資金を集めた話題作。そのおかげでシネコンだったのかな。なんにせよ、遠出しないで済んだのは助かりました。

イメージとしては武蔵野館とかで日にナイト1回って感じの作品なのに、すでに知名度が高いとはいえ、これを劇場でフルにかけると決断した館主の心意気を大いに誉め称えたいと思います。配給クロックワークスさん、よくがんばりました。公式サイトもよかった!ありがとうございます。お客さん入ってるかなぁとその後タイムスケジュールを眺める度に気になりましたよ。この映画は絶対にスクリーンで観た方がいい。

とりあえず全編一人称視点ということしか知らずに行きました。オープニングからカッコイイ音楽と、なかなか痛い映像満載で期待が膨らみます。ストーリーはあってないだろう、と覚悟しておりましたが、結構面白い展開で始終ニヤニヤしっぱなし。特にシャールト・コプリーの使い方がよかった。途中まで「彼等」が彼であるということに気が付かないボンヤリさとその芸達者さに驚愕。

普段ゲームをやらない自分には、いい意味でも悪い意味でも新鮮な映像で、何度も「うわ」とか「ぐえ」とか声が出てしまったのことよ。長尺一人称のカーチェイス、めっちゃめちゃ楽しかったなぁ。カーアクションが落ち着いた後の戦車の登場と馬には久々声出して笑った。そういや枝雀さんがよう言うとりましたなぁ、緊張と緩和。使用したカメラはGoProのみ。GoProは今作を全面的に支援したとか。ええコマーシャルですな。

とにかく、監督がやりたかったことがぎっしり詰まってる。ある種これぞ映画のあるべきひとつの姿。溢れんばかりのパッションが放射する熱に身を晒す、それが滅法気持ち良くて楽しかった!

それも、まずは「こいつにこれ(MVで見せた1人称)で映画を撮らせたい!」と思い連絡を取ったティムール・ベクマンベトフがエライ。そのプロデューサーの一切ブレない姿勢は、「ビッグバジェットではないものの十分な予算があり、プロデューサーに理解してもらえたのは本当に幸運でした、これが30日間の撮影では絶対に作れなかった」という監督の言葉に集約されるのではないでしょうか。実際撮影は112日間で、1年半のポストプロダクション、半年のひとりでの編集と、完成までに3年間かかったそうです。

また監督は「私たちがロシアにいたということも幸運だった」とも。同時に資金をクラウドファンディングで調達できたということが最も大きかったのかもしれません。

こういった形のアクション映画を観ると、ふと思うのが日本の事情。

「日本のアクションはなぁ、俳優をふくめ人材が今はもういないし」という愚痴を時々耳にする事があって、そのたびにいやいやそれは違うと激しく思うのです。

「最近のアクション」は「カット割りが多くて」「ワイヤーやCGがあるとイヤ」そういう志向の観客はオールドスクールのアクション映画を観ればよいでしょうからこの際ちょっと置いとくとして、日本にはアクション監督やコーディネーターなど人材はちゃんといます(スタントマンは足りないそうですが)。

俳優も日ごろから体を鍛え何かしらの格闘技を習得している人も少なくありません。いや、別に格闘技をしていなくても、ダンスでもいい。ダンサーはアクションがうまい、これは過去の映画で沢山の俳優が証明しております。正直、アクション製作の人材とアクションに適した編集者を揃えられれば、格闘技やダンスすら経験がなくても、やったるで精神(と体力)と演技力のある俳優女優ならば素晴らしいアクションにすることはできるのでは、と考えます。

では、足りないのは何か。

プロデューサー、スタジオ、監督のアクションへの理解。それに尽きるでのではないでしょうか。

アクションシーンには人手と時間とお金がかかり、しかも危険が伴う。オファーの際には「すっごいアクションを作りましょう!」と固い握手を交わしながらも、いつの間にか「・・・そこまで必要ですか?」と同じ口で現場に言い放ち、どんどんアクションの時間予算内容を削ってゆく制作者たちの話はよく耳にします。で、いざ公開となると「見どころは俳優○○が挑んだハードなアクション!」などとキャッチが並んだりする。そう謳うならせめてスタントコーディネーターの名前くらいちゃんと公式サイトに載せてくださーい。

バジェットの規模ではなく、アクションを作るというブレない覚悟、これがトップになければ面白いアクションシーンには、なかなかならないのです。人材や俳優の優劣なんてそのうんと後のお話。

今作『ハードコア』は、ロシアのパンクバンドのメンバーであり、また人気MVクリエイターでもあるイリヤ・ナイシュラー監督の底知れぬ才能と執念にあてられるとともに、それをちゃんと形にしてあげられたプロデューサーのティムール・ベクマンベトフが偉い。

とにかくすんごく面白かったし楽しかった。ラストファイトは笑いっぱなしでしたよ。しかし、この映像はある意味早い者勝ちでそうそう何度も使える手じゃないよなぁと思っていたら、当然ながらイリヤ監督は1人称の作品はもう作る気はないと言います。映画と、カナダのThe WeekndFalse Alarmという曲のMVでやり切ったというお考えのよう。ですよね!

今後も、新たな技術やメディアの交わりにより新しい表現方法は増えるはず。それをワクワクしながら待ちたい。そんな期待に胸がいっぱいになった1本でした。最高。

公式サイト
革命的一人称視点映画『ハードコア』のイリヤ・ナイシュラー監督にインタビュー:「映画史上誰も実現していないことがいくつかある作品だと思う」/ GIZMODOジャパン
始まりはこのMV:Biting Elbows – ‘Bad Motherfucker’ Official Music Videoから
The Weeknd – False Alarm(2016年)

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過去記事の注釈と訂正 – ドニー・イェン

先月、谷垣健治さんとランチをする機会に恵まれました。ありがとう谷垣さん。最近のお仕事のこととか、香港中国合作に関する新たな情報とか、様々なお話をうかがいました。

そのなかで、以前書いた『トリプルX:再起動』での中国大陸でのドニーさんの役名の話になりました。実は谷垣さんが担当した『モンスターハント2』の日本語通訳さんもそのスラングについてご存知なかった。

そこで、ご親切にも谷垣さんは通訳さんに調べていただいたそうです。が、誰も聞いたことがないということで、ひょっとしたら南京の一部であるかも、というご返事だったとか。ただ、北京五輪で棄権し、その後ものすごいバッシングを受けたハードルの劉翔選手の名が同じ翔という字なので、それでバカにする傾向があるにはある、という話でした。

記事の中で私はざっくりスラングと書いてしまいましたが、ひょっとするとごくごく一部のネットスラングだったのかもしれません。私がそれを知ったのもネットでしたし。そこで過去記事をネットスラングと訂正しておきました。

「でも大陸ではシレっと役名変更しましたよねぇ」と谷垣さんに申し上げたら「そうなんだよねぇ」と。

↓変更の証
极限特工:终极回归xXx: The Return of Xander Cage(2017) – Mtime时光网
极限特工:终极回归 / 百度百科
极限特工:终极回归演员表
极限特工:终极回归 甄子丹“甄功夫”幕后特辑

うーん、ひょっとしたら翔というスラング、日本で例えれば2ちゃんねる用語とか、そんな感じだったのかもしれません。

役名は公開直前に急遽変更されたので、それ以前の大陸記事では翔となっていますし、香港台湾では関係ないので、当然「翔」のままです。思えば、ホーク(Hawk)→鷹 タロン(Talon)→猛禽類の爪 ときてジャン(Xiang)→翔だったんですから、本来は美しくまとまったはずなのに、わざわざ同じ音の項に変更したんですから、何らかの理由はあったのではと推測します。

そしてもうひとつ、谷垣さんからご指摘いただいたものがありました(汗)。
ローグ・ワン スター・ウォ―ズ ストーリー(小ネタ) – ドニー・イェン甄子丹の最後の文章。

“『xXxトリプルX:再起動』の香港プロモ会見したドニーさん、次の外伝『ハン・ソロ』に出演するのでは?という噂を否定しました。しかしこれによるとどうやら(ディズニーと)契約は交わしたようで別の企画だと言います。”

と書いたのですが、実は私、文中の「才」の字をちゃんと訳しておりませんでした(涙)。

正確には、契約を交わした、のではなく、「それは事実ではない、契約を交わして初めて事実になるんだよ」という訳になります。と、なると何らかのオファーっぽいことはあったのか?うはー、すみません、すみません!!これも書き直しておきます。

谷垣さん、こんな辺境のブログのチェックまでしていただき本当に助かります、重ね重ね感謝申し上げます。

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