L風暴(原題:2018年、香港)

ネタバレなし。今年の夏、ドニーさんの『大師兄』のために香港に行った際この映画を観ました。遅ればせながらのレビュー。

いまや出演作が目白押しで、一体いつ休んでいるのだ?と訊いてみたくなる古天楽(ルイス・クー)主演。

実はこの映画、香港の廉政公署(ICAC)の主席調査主任・陸志廉(英語役名William ルイス・クー)を主役にした『Z風暴(原題・2014年)』『S風暴(原題・2016年)』に次ぐ3作目というシリーズもの。

香港の映画やドラマをよくご覧になる方ならばお馴染み、廉政公署(れんせいこうしょ、Independent Commission Against Corruption,略して ICAC )。
英国人幹部も含めた香港警察のあまりの汚職の酷さにブチ切れた当時の宗主国イギリスが1974年に創立した警察に対する独立汚職調査機関であります。

つまりは香港警察を舞台にした汚職と金をめぐるパワーゲームがベース。

そこに、警察と税関が組織する香港政府のマネーロンダリング対策チーム、聯合財富情報組(JFIU)の張智霖(チョン・チーラム)がバディとして加わり、騙し騙されの頭脳戦が繰り広げられ、最後は派手にドンパチやる、というノリ。

今夏公開していた香港産映画の中で成績がよく、夜の上映回はお客さんがたくさん。一体どんなマーケティングで成功したのか、なかでも中高生といった年代の男子グループが多くてそんな彼らに囲まれての鑑賞となりました。

ところで、
ルイス・クーという人はかなり懐の深い俳優だと思う。
なにしろ香港映画を支えるそうそうたる監督からのオファーが絶えない。

コメディよし人情ものあり、情けないダメ男からチンピラ、表情を一切変えない黒社会の構成員やファンドマネージャー、鬼畜系のヴィランまで、演じる役の幅の広さはかなりのもの。

かといって、肉体改造や体重を増減するというアプローチはせず、特殊メイクもしないし、古装じゃなきゃ前髪を下ろすか上げるか以外ヘアスタイルさえ変える事は滅多にありません。画面に映るのは、どんな役でもいつもルイス・クーそのままの外見。形から役に入るということがないどころか拒絶してる感すらある。ここが一番ユニーク。

これは、ただの想像でしかありませんけど。
彼って、非常にニュートラルなプロ意識を持った人なのかなぁと。

どんな役も厭わず、自分の事よりまず作品全体を考える視野を持ち合わせ、そのうえあの謙虚な人柄ですもん、香港映画界で絶大なる信頼を寄せられているのかもしれません。

もううんと昔から「ルイクーはいつ影帝になるんだ?」と言われ続け、今年やっとやっとやーっと、第37回香港電影金像獎の主演男優賞を『SPL 狼たちの処刑台』で獲得。世界中の香港映画ファンが「おめでとう!」と祝福した瞬間でした。

さて、そんなルイス主演の『L風暴』です。

監督は1作目から続投の、林德祿(デイビッド・ラム)。彼は1980年代に廉政公署がプロモーションをかねて製作した廉政公署ドラマを長らく担当していたという経歴を持つ人で、いわば得意分野。

これがシリーズ3作目なんですけど、たしか1作目2作目ともに大ヒットしたというイメージもなく(日本では未公開)続編が作られたというのを不思議に思っていたぐらいなのに、こうして3作目にして香港のみならず大陸でもヒットさせたんですから想像以上にルイスやチョン・チーラム人気というのは根強いのかもしれません。すごいなぁ。

ここでのルイスは、シュッとした男前で冷静沈着キャラ、てか、題材がそれですからね。基本、スーツを着たかっこいい男女がわんさか。主演・ルイスのイメージとしては『ホワイト・バレッタ』からミステリアス濃度を薄めた感じ?
私個人的としては、もっとアクの強い役の方が好みなのですよね。

警察内部の汚職を調査する者と調査される者。
今作では罠に嵌められた主人公を今度は調査する側として、同じICACの「L班」主任役で鄭嘉穎(ケビン・チェン)が登場。はたして彼は敵か味方か。

このように立場の逆転やゲストキャラクターの見せ場をうまく演出できれば今後も主要俳優を入れ替えて続けられるよなぁと思っていたら、さっそく第4弾の『P風暴』が作られるかもと聞いて笑ってしまいました。さすが天馬電影のレイモンド・ウォン。

私は前2作を観ていないままの風暴シリーズ。
これは大陸との合作ではないので、予算的には少なかったかもしれません。アクション監督は袁家班の凌志華(リン・チーワー)。

銃撃戦などのアクションシーンが昔の刑事ドラマっぽい雰囲気もあり、どことなくノスタルジックな印象を持ちました。
が、一方で様々な経済用語や警察用語などの飛び交う台詞や人間関係が把握できずに面白さがよく分かっていなかったのでは?と残念です。

こういうのこそ、本当は日本語字幕がほしいよねぇ。

役者として多くの顔を持つルイス・クー。一糸乱れぬスーツ姿のシュッとしたヒーロー然としたルイスがお好きなら、絶対に見逃しちゃいかんシリーズです。

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L風暴(原題:2018年、香港) への1件のフィードバック

  1. 通りすがり のコメント:

    前作のZとSはnetflixで見れます。
    ご存知でなかったら是非

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