お豆腐の和らい’12動画撮り放題狂言会

GWのある日、狂言師の茂山千三郎さんからお招きいただいて新宿紀伊国屋ホールにて狂言会を見てまいりました。
この茂山千五郎家は狂言界に新風を吹き込むようなユニークな試みを様々していることで有名ですが、これもそのひとつ。「お豆腐の和らい’12動画撮り放題狂言会」と銘打たれたタイトルの通り、観客が動画や写真を撮り放題してもいい、いや、むしろドンドンしてください、という会。

おもしろいもので、動画撮り放題というとグッとくだけた雰囲気になるものでして。隣の友人とちょっとしたところでヒソヒソ声をかけあったり出来て実に楽しいものです。その日の模様はネットでもリアルタイム配信をしていたそう。

曲目は「腰折」と「無布施経」、ダイジェスト狂言として「墨塗」と「呼声」「文山立」「佐渡狐」。
なかでも「文山立」は山賊ふたりが登場するのですが「一瞬なのでお見逃しなく」と解説の茂山逸平さんがおっしゃるとおり、「やれ、やれ」「やるまいぞ、やるまいぞ」と声を掛けながら登場した山賊はその調子で舞台を一周して、あっという間にそのまま袖に。
えええええええ、そこだけかよ!
これには会場も大爆笑。狂言で「アンコール」の拍手が起こったのを初めて見ました(笑)。

千三郎さん出演の「墨塗」では「いつもより多く塗ってしまいました」とばかりに笑いを誘います。それにしても昔から男女の営みや駆け引きは変わらないんだなと笑いの中の裏側にある人間模様には共感してしまいますねぇ。

そういえば、前回狂言を観たのは1月に新宿文化センターで行われた「新春名作狂言の会」。
この時は、茂山逸平さん野村萬斎さんのトークとともに、茂山千五郎さん逸平さんの「千鳥」、野村万作さんの「鬼瓦」萬斎さんの「弓矢太郎」を拝見しました。
こちらは東西トーク合戦(笑)、じゃなく、東西狂言合戦とでも申しましょうか。東の和泉流の野村家、西の大蔵流の茂山家合同の狂言会。
「千鳥」という一曲の和泉流と大蔵流の違いについて逸平さんと萬斎さんの語りが非常に興味深い会でございました。

逸平さんのお子さんはよく、萬斎さんの出演しているEテレの「にほんごであそぼ」を見ているそうで、千鳥の「ちりち~りや、ち~りちり」を謡うといつの間にか和泉流の節回しになっていて驚いちゃいました、と言うじゃありませんか。萬斎さんそれに対して「それは由々しき問題ですね(笑)」と返答するなど、ふたりのトークがめっぽう面白かった。

そして、いよいよ「千鳥」曲中の「宇治の晒」の小舞を2人が連れ舞で披露。歌詞は同じですが、流派の違いから節回しと動きが少しずつ違います。こういうところが、この狂言会の楽しいところですよねぇ。

実は、自分、桐朋学園の演劇専攻出身なので在学中は狂言を少し習う機会がありました。先生は大蔵流。残念ながら卒業後はそれきりになってしまいましたが、たまに「もう一度習ってみようかな」ということが頭をよぎったりすることがあります。でも、あの正座に果たして自分は耐えられるだろうかと考えるとひるんだりもするわけでございますよ。足についた贅肉のせいでしょうか、昔はあんなに平気だった正座が今は案外苦手。とほほ。

さて、この茂山千五郎家の狂言、動画録り放題という試みをしているだけあって結構YouTubeにも動画がアップされております。ご興味がある方は「茂山千五郎家」で検索して是非一度ご覧ください。

 

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捜査官X 迷走江湖

捜査官Xの初日に新宿ピカデリーに行ってきました。
さすが初日、さすが金城武さま、東京で人気のある映画館ということもあってかほぼ満席。
考えたら、ついこの間までドニー映画を新宿ピカデリーなどというシネコンで観ることが出来るなんて、ちらりとも想像したことがなかったよ!
試写を見た時に「一番大きなスクリーンで観たい」と言いましたが客席数としては丸の内東映の方が多いみたい。でもなんとなくメジャー感漂う新宿ピカデリーで観たかった自分(笑)。
席について初めて思いました、これはひょっとしてドニー映画を一番いい音響で観るのかも、と。

ああああああああああああ、すんばらしい。
映像ももちろん美しいのですが、音響がほんと素晴らしい。音楽は当然のこと(サントラ発売してくれぇ!)ずっと後ろで聞こえる鳥のさえずりとか、雨音とか、人の心を秘かにささくれ立たせる蠅の羽音とか。もちろん家を震わせるジミーさんの咆哮「什麽ー!」とかマジ怖いんですけど(笑)。
劇場で観るこの映画、最高です。見られる環境にある方は是非、ぜーひー、映画館でご覧ください。

自分、初日と2日目、そして先日も知人2人と一緒に観ました。しかも先日おごって頂いたお礼と称しての秘かな布教活動、アホや・・・完全にイカレてる。多分、自分丸の内東映でも大阪でも観ると思う。それくらい何度観てもいいし、何度でもスクリーンで観たい。
と、ここからネタバレ。

毎回、なんだかんだ輸入版を観てドニーレビューを書いては「やっぱ、劇場で観た方がよかった」とあとから記しておりますが、これも判で押したような感想。やはり映画は劇場だ。
今回あらためて観て、金城武くんの声は本当にいいなぁとしみじみ実感いたしました。さすがピーター・チャンがナレーション王子と言うだけのことはある(あれ?これって本当にピーターが言ったんだっけか、それとも武ファンの方の言葉だっけか?ま、細かいことは気にしない!)。四川語の響きがすごく新鮮。訛ってるよ、しっかり。
初見で観た時すでに、「辛苦你€了」とか、あの劉金喜と徐百九ふたりが焚き火を囲みながら仮死状態を説明する最後の台詞のラストの言葉、「真死」とかに笑ってしまいました。むこうの観客はさぞあの響きにドッカン大爆笑だったのでしょうねぇ。結構シリアスな場面なはずですが。

つか、金城くん以上にすんごい訛ってたのが、あの知事さん。村民の前で劉金喜を称える台詞なんかびっくり。あの台詞を中国向けのトレーラーの最初にもってきた意味が良く分る(笑)。

あと何度観てもいいのが、仮死状態の劉金喜を必死で起こそうとする徐百九の姿と、覚悟を決めたドニーさんが腕を切るシーン。ふたりの演技とあの緊迫感は見事です、男たちの信頼がより一層顕在化する場面。キモです。

ちなみに劉金喜が腕を切る直前に左腕の付近をドス、ドス、ボスッと自らの手で3度衝きますが、あれは恐らく「点穴」ということでいいのですよね。
昔から、武侠映画では点穴を衝いて人を動けなくする、などという分りやすい技が出てきたりしますが、あれのようなものです。多分、痛みを抑えるために一種の麻酔の役割を果たす左腕のそばの点穴、いわゆるツボを衝いたのだと理解。
(点穴はこの映画の前半でも、強盗閻東生を殺す際にこめかみに一撃、その威力を見せました)

また、親子の壮絶な闘いの中で、ジミーさんが同じ場所を衝き、その点穴を解除(こういう表現で果たしていいのかな?)してから切った腕の断面をガッチリ掴むというのも凝った動作です。いわば麻酔が一瞬にして切れた状態、そらドニーさん意識朦朧とするくらい痛いわ!

でも唇を真っ白にしてそれに耐える彼の顔を見ていて、つい、手を離しちゃうジミーさん。
ここは屈折した息子への愛情が垣間見えた気がしました。ま、もっともそのすぐ後に気を取り直したかのように強烈な連打をかましちゃうわけですが(ちなみに、このジミーさんも息子の唐龍と同じ豹拳使い)。

その一連の動きにピーター・チャン監督がどれほど関与していたかは分りませんけど、もし、この演出の隅々までを動作監督であるドニーさんが仕切っていたのだとしたら、やはりこの人の才能はスゴイです。なんというアクションにおける細かい心理描写、あっぱれです。

大抵人のいない劇場かミニシアター系で観ることの多い、ドニー作品。
今回の新宿ピカデリーは上映後、一斉にエスカレーターに乗ってロビーフロアまで降りるので、観た後の感想なんぞをみなさんが喋ってるのを耳をそばだてて聞いてみちゃったりなんかする(笑)。

ある若いお兄ちゃんが連れの男性に「捜査官Xって、ガイ・リッチーのホームズに影響受けてるよな」ときた。
まぁ、その映画に関しては同じテイストとしてよく名前がでてくるので仕方ないか。でも、影響を受けてるはないだろうよ、と心の中で反論。
ええと、クランクインはシャドウゲームよか早いんですけど?武侠。
せめて、みんな考えてることは似てるな、くらいにしておいてくださいまし(笑)。

すると一方の若い衆が「孫文の義士団も十三人の刺客にそっくりだった」と答える。
あのー、「孫文の義士団」の日本公開は2011年でしたが、原題「十月圍城」は2009年制作なんす。三宅監督のは2010年公開、しかも企画だけ言えば、何度も流れて実はもっともっと前からあったんすよ。そもそも三宅版十三人の刺客自体、リメイクじゃん!
そして畳み掛けるように「これはホームズ、つーよか、ヒストリー・オブ・バイオレンスのパクリじゃねーの?」と言い切った。
たしかにその作品名もよく聞くけど、谷垣さんのパンフのコラムによると、この作品元々はラウ・カーリョン監督主演のショウブラザース映画の名作「秘義・十八武芸拳法」(82年)リメイクという企画だったわけで。それを読んで私なんぞはああなるほど、と思いました。
それは雲南義和団の創始者の男が義和団の神打法力に疑問を持ち、支部を解散したために組織から追われ、身を隠して生きるというストーリーでした。
そんな風に言っちゃうと廻り巡って「ヒストリー・オブ・バイオレンス」は「秘義・十八武芸拳法」のパクリってことになっちゃうよ?よ?
そもそも、ああいう、組織から逃げて別の人生を送る男の話なんか、洋の東西を問わず昔っから掃いて捨てるほどあるじゃあないか!

特に武侠映画、功夫映画に対して、どこかで観た、何かに似てる、パクリだ、と言うことほど意味のないことはないわけで。(参照:飲む前にへパリ―ゼ
「そこが出発点なんだよぉぉぉ」と思わず振り向いて兄さん達に言おうかと思ったほど。同時に自分も発言には気をつけよ、と神妙に思ってしまったのでした。

また別の日には、カップルがエンドソングについて延々話している。
「あれ、絶対チンコに聞こえるよね~」と実に楽しそうだ。うん、聞こえるよ、もはや空耳でもないくらいだ、自分も心の中で相槌を打つ。
「なんであんな曲にしたのかな~、ヘンだよね~」と彼女の方は心底不思議そう。

これは「武侠」の時のレビューでは書ききれませんでしたが、実はこの窦唯の「迷走江湖」を聞いた時にすぐ思い出したのが、70年代のジャーマンプログレッシブバンドの(ブライアン・イーノとコラボする前の)クラスターだとか、70年代から80年代にノイジーミュージック、またはインダストリアルミュージックと呼ばれたジャンル(のちの90年代に流行ったインダストリアルミュージックは自分にとってはポストインダストリアルという位置づけ、自分はそっちはまったく分らない)。

おお、そういや西ドイツの実験的音楽バンドにアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンてのがいたな、と思い出してyoutubeに捜しに行ったらあった。
そこで彼らの50分以上もある動画1985年のHalber Mensch を、つらつら眺めていたらまさに「捜査官X」のオープニングクレジットみたいな血管の映像とか出てきて笑っちゃった。
まぁ、こういう体内映像ってのは昔からよく色んなところで使われてるから直接何か関係があるとは言わないけど、道理で自分はあの念仏みたいな曲に違和感持たないわけだわと秘かに納得してしまいました。(この動画に関しては、唐突に出てくる日本語とか暗黒舞踏テイストとか、別の意味でも突っ込みどころ満載)

しかも、この€アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、いまもちゃんと活動している現役バンドであることを知って二度驚き。えらい。最近の曲がまた遯ヲ唯の「迷走江湖」を思わせるテイストで。しかし、これだけ長い間、個性を残したままのバンドがあるのだということに激しく感激。

そういえば、7,80年代のインダストリアルミュージック、「工業生産される大衆音楽」へのアンチテーゼとしての意味合いがあった記憶。
映画の舞台となった1917年という中国の時代性や、素朴な人の営みと相反する暴力と、人の背負う家族という伝統。そしてその先にあった現在の中国という国が抱える拝金主義と、中国共産党の作りあげた工業生産のような一方的盲目的な大衆の気分。またよからぬ深読みをしてしまいそうになります(笑)。

窦唯にクレジットソングをオファーしたピーター・チャン監督。当時出発ギリギリまでカンヌ映画祭のためのポストプロダクションならび編集作業に必死こいていた時期に「エンドソングはロックで」と窦唯に未完成段階のフイルムを見てもらい依頼したのだそう。
あのような曲をイメージして頼んだわけではないかもしれませんが(笑)タイトルのセンスといい、窦唯と捜査官Xは非常におもしろい組み合わせになったと自分は思います。しかし、これまた少数意見なのかも。

捜査官Xエンディングソング「迷走江湖」遯ヲ唯
捜査官X 日本語字幕版を試写室で- 甄子丹 ドニー・イェン
捜査官X(原題・武侠) ― 甄子丹 ドニー・イェン
武侠 香港BDにて鑑賞-ドニー・イェン 甄子丹(超ネタバレ)

それにしてもサントラ、DL販売でいいからしてくれないかなぁ。
全部とはいわない、せめて、お父さんが朝ごはん食べて仕事行くシーンで流れるα波出まくりの冒頭の曲だけでも。大陸の映画音楽特集番組によると、タイトルは「安宁生活(安らかな生活)」、これ1曲だけでもいいから!お願い!

 

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掌門人(1983年・香港)

監督
劉家良(ラウ・カーリョン)

出演
劉家良(ラウ・カーリョン)
恵英紅(べティ・ウェイ/クララ・ウェイ)
劉家輝(ラウ・カーフェイ/リー・チャーフィ)
小侯(シャオ・ホウ)
江禹(ワン・ユー)
張展鵬(チャン・チェンポン)
麥徳羅(マック・タックロー)
王龍威(ワン・ロンウェイ)
谷峰(クー・フェン)
孫建(スン・チェン)
林輝煌(ラム・ファイウォン)
龍天翔(ツ黴€ロン・ティエン・ション)

武術指導
劉家良(ラウ・カーリョン)
唐桂(トン・ガイ)
小侯(シャオ・ホウ)

もうね、キャストを並べただけでワクワクしちゃいますな。
これが制作された頃はすでに成龍やサモハンがゴールデン・ハーベストでガンガンヒットを飛ばしていた時期。(ちなみに83年は五福星、キャノンボール、プロジェクトAが公開されている)

だからか、劉家良監督も様々な模索をしていたらしく、今作は初の現代劇。

お上から「ここ、高速道路にするからさ、立退きなさい」と言われてしまうほど寂れた武館の師父が劉家良。
その弟子が劉家輝(ラウ・カーフェイ/リー・チャーフィ)小侯(シャオ・ホウ)江禹(ワン・ユー)張展鵬(チャン・チェンポン)麥徳羅(マック・タックロー)の5人。おおお劉家班の若手勢ぞろい。
この人たち、華強國術會の門下なのだけど、そこへ、かつてアメリカに渡った掌門人(総師)が喝を入れに香港にやってくるという電報が。
兄弟子(谷峰)や弟子5人とともに空港に迎えに行くと、なんと総師の代理としてその娘(恵英紅)が来港したのでありました。

この恵英紅、たしかに功夫は強いのだけど、なんといってもアメリカ育ち。
上下関係はないわ、中華服なんてダサいとタンクトップに短パンで稽古しちゃうわ「もっと若者にアピールするプロモ展開しなくっちゃ」とディスコで生徒を掻き集めちゃうわとやりたい放題。

威圧感も厳しい訓練もないこのフレンドリーでキュートな師伯に男5人はメロメロです、80年代といえどもかなり奇妙な格好で、いそいそディスコにお供したりする様はかなり笑える。

↓これが

↓なぜか、こうなる(笑)

(左から、小侯、張展鵬、麥徳羅、江禹、劉家輝、恵英紅)

劉家良師父としては、このハチャメチャで強引なやり方についていけるはずもなく、かといって掌門人の娘、つまりは師妹。じっと我慢するしかない。
映画とわかっていても、なんだかとっても切ないです師父。

やがて、ある事件を巡って無謀にも彼女は黒社会を敵に回してしまうことに。
そこで登場するのが、王龍威(ワン・ロンウェイ)孫建(スン・チェン)林輝煌(ラム・ファイウォン)龍天翔(€ロン・ティエン・ション)という黒社会のみなさま。なかなかよろしい面子でございます。
しかもチンピラ役に、あの「ドラゴン危機一発’97」で甄子丹と「バババババ」という効果音とともに目が点になるほどの高速バトルを展開した麥偉章(マク・ワイチュン)の姿も発見。そういやこの人も劉家班だった。

話は逸れますが、以前、この「ドラゴン危機一発’97」に関する彼のインタビューを見たことがあります。あのバトルのラスト、キックを受けて回転して吹っ飛んでゆく動作はワイヤーなしだったそうで「あのバトルは一切ワイヤーがないんだよ、あれは自力で廻ってるんだよ、すごいだろ?」と大層誇らしげでした。
そして「現場がひどく暑かったことは覚えてる、冷たい飲み物もなくてさ、ひどいよなぁ」と何度もボヤいていたのが印象に残っています。ずいぶん時間が経ったあとのインタビューかと思いますが、撮影の思い出が冷たい飲み物がなかったこととは(笑)。よほど腹が立ったんでしょうね。おい、制作部!あとは劉家班にいたことの自負と劉家良師父へのリスペクト を、映画そっちのけで熱く熱く語りつくしたインタビューでありました。

話を戻します。
黒社会とトラブり、悪人どもに拉致された彼女を救出すべく立ちあがる師父と5人の弟子。
この作品、恵英紅の無茶ブリのワガママさと弟子5人の振り回されるアホさ加減がかなり笑えるのですが、そこは、なんといっても劉家良。
やはり彼女が主役であった「レディ・クンフー激闘拳」と同じで、最後は見事に監督自らが一手に美味しいとこどりをしております。

敵のナイトクラブに乗り込んでの大立ち回りなどは、それまで散々な目にあってきた師父だけに「やっとキタ―!」と、信じられないほどの解放感。

そしてラストの体育館でのラストファイトへとなだれ込むわけですが、平均台やあん馬、平行棒などの道具を使った力強いその設計と、動きが良く見えるシンプルなカメラアングルとカット割りに思わず血沸き肉踊ってしまう。
また劉家輝の「少林寺三十六房」(しかも相手は五毒の孫建)、小侯の「マッド・クンフー猿拳」(この人の身軽さは絶品)のセルフパロディもあるうえ、最後はとうとう劉家良対王龍威というファンとしてはたまらない対決で、たぎらせてくれちゃいます。うっひょ~いいよいいよ!

(谷峰さん、今作ではとてもいいオッチャンでした。この人が出るといつ裏切るかと最後まで気が抜けないったらありゃしない)

当時この映画はあまりヒットしなかったということですが、むしろ今見た方がうんと新鮮で、その高スキルに驚愕したり感激したりできるのではないでしょうか。とにかくラストバトルがすごい。師父がこの世で一番の男前に見えるくらいカッコいい。

劇終も期待を裏切らないオチとストップモーションで、どこから切っても劉家良印。
残念ながら日本では未公開未発売作品ですが、劉家良、恵英紅ファンだったら、世界中のネットショップを捜して買っても損はないと思う。

Lady Is The Boss, The (1983) Trailer

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後輩気質2

爆発低気圧が東京を襲った夜、会食の約束がありました。
ミヤネ屋でご一緒だった読売テレビ解説委員の岩田公雄さんと春川正明さん、そして映画監督の崔洋一さんとの4人。
前回年末に集まった時は丁度金正日が亡くなったばかりの頃で、その話が中心だったような。
その日の午後まで「さて、どうするよ」と連絡を取り合っていたのですが、忙しい皆さんのこと、これを流したらまたいつ集まれるか分らないので「とりあえず行くか!」と決定。
私なんか、持って出た傘がナイキのゴルフ用のデカイものですよ。別にゴルフをするわけじゃありませんが、以前戴いたものがこんな時に役に立つとは。

この夜は岩田さんが銀座の「懐食 みちば」を予約してくださいました。
ご存知、道場六三郎さんのお店ですが、予約を取るのが大変な店なのだそう。が、さすがにこの日はキャンセルが相次いだらしく非常にゆったりとしていて、気分としては「無理して来てよかったじゃないの!」というところ。

純粋な和食と言うよりは和洋折衷キュイジーヌといった風情でビール白ワイン、熱燗という飲んだお酒が、その内容を物語ってますな。美味しゅうございました。

いや、酔っぱらいました。
色々な話をしたはずですが、気がつけば春川さんの愚痴をみんなで聞いていたという(笑)。それにしても岩田さんと春川さんは仲がいい。
こういうと、おふたりはきっと「んなバカな」と互いのことを貶し始めるでしょうが、「やっとれんわ」と監督と私はその度にツンデレカップルを見るような顔を見合わせてしまいます。

食事も済んで通りに出た頃には、雨もやみ、ひと段落。
「またやりましょう!」と元気な声でみなさんとお別れしたのでした。
次回はいつになるやら、また行きたいですね!

 

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おはよう朝日です

今週から、大阪、朝日放送の「おはよう朝日です!」木曜日にお世話になっております。
番組に新参加と言うことで、朝早い時間の放送にも関わらずスタッフや出演者の皆さんが、お忙しいなかわざわざ歓迎会を開いてくださいました。感謝!

スタッフと色々話していると、案外同年代がいることが発覚。なんやかんやと話していたら、音楽や映画など、なんだか趣味が似ている人結構がいて、嬉しくて話が盛り上がってしまいました。
特に、市川雷蔵や成瀬巳喜男、小津安二郎、社長シリーズ、クレイジーキャッツなどの昔の邦画の話がやたらと弾んでしまいまして(笑)。これだけ長い間、一緒に仕事をしていても誰ひとり、その夜そんな話にならなければ、互いに好きな映画が似ている事とか知らなかったようで。
ああああ、なんかわかるわ~、その感じ。

話しながら、今度日本映画の夕べでもやろう!ということになりました。
いや、ほんと、そんなことが出来たら楽しいでしょうね!

そのスタッフの中にひとり、びっくりするくらいツイ・ハークにそっくりなお人がおりまして(笑)。お許しが頂ければ今度写真を一緒に撮ってアップできるといいのですが。ほんと笑っちゃうほど似てるから!

朝日放送「おはよう朝日です」

 

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2012年世界選手権男子シングル

2012年の世界選手権、男子はスゴイ試合になりました。
気がつけば、今年は4回転がSPからバンバン。なかには2種類飛ぶ選手もいたりして「なんだ、やればできるじゃないか!」と思わずつぶやいてしまったのは自分だけじゃないはず(笑)。
テレビ中継で解説の本田武史さんが興奮したように同じようなことを語っていらしたのに、ちょっと笑ってしまいました。さすが、4回転ジャンパー。

さて、このFSで自分の心臓が一番破裂しそうだったのはフランスのブライアン・ジュベール選手。SPで非常によい演技をしていい位置に。地元ニースのこの大会でなんとか笑顔で演技を終えて欲しい、そんなことを思いながら見ていたら、なぜだかこっちがめっちゃ緊張してきちゃった。
いやー、肩がこったわ。もうね、ひとつひとつのジャンプにただの観客の自分がそんなに力を入れてどうするってくらいに。
曲はお馴染みの「マトリックス」ですよ、なんという安心のジュベール印。スピンがすごくよくなってるのに驚きました、なんとかレベル取れてたりする!すんばらしい!努力した甲斐があったね!

本当に久しぶりのノーミス演技にテレビに向かって拍手。本人も驚いたような興奮した顔で思わず氷にキス。よかった、よかったよ!
順位とは関係なくても、その選手比でいい演技が出来て、こうして喜んでいる姿を見るのは本当に嬉しいことです。

この大会ではそんな男子選手を何人も見ることが出来ました。
たとえばイタリアのコンティステイ選手。ここ数年、ジャンプが決まらずに相当苦しんでいたようですが、今シーズンはそのジャンプの成功確率があがったみたいで。
この世選でも、それまでなら転びそうなくらいの場面でぐっとこらえて、素晴らしいプログラムを生かすことが出来ました、やったね。

一方、伸び盛りの選手には大きな経験ができた大会になったのかもしれません。
表彰台も狙える位置にあったはずのブレジナ選手やフェルナンデス選手。
普通にやれば上位争いに食い込む可能性もあるというなか出場した最終グループ、そのプレッシャーたるや想像だにできません。
そこで気持ちが空回りして、思わぬミスを連発し焦る気持ちがまた空回りして・・・。今までそんな選手の姿を何度見て来たことでしょう。
若い彼らには、苦い記憶になったかもしれませんが、とてもいい経験になったことと信じています。来シーズンに期待してますよ!

かと思うと、羽生くんのようにがむしゃらにやった演技が、素晴らしい結果を生むことも。
この日のFSで一番気迫に溢れていたのが彼でしょう。
また、このバズ・ラーマン版「ロミオとジュリエット」の曲が驚くほどお似合いで。17歳という年齢だからこその、選曲のズバッと直球153キロ具合は何度見ても感心します。
過去に何人ものスケーターがこの曲で滑ってきましたが、恐らくしばらくはこの曲といえば羽生結弦!と記憶されるのでは。素晴らしい、本当に素晴らしい演技でした。

それにしても、この人は本当に観客に愛されるスケーターだなぁと感じます。
いつ、どこで、なにを滑っても、いつも観客に愛される。こればかりはご本人の天性の才能でしょうね!すごいことです。まだまだ伸びてゆくだろう17歳、今後が心から楽しみです。初出場で銅メダル、心からおめでとう!

そして銀メダルの高橋大輔選手。おめでとうございました!
あの流れプレッシャーのなかでノーミス演技が出来たことだけでも感心しました。落ち着きすぎじゃないか?と思うほど落ち着いて滑っていて本当に頼もしかった。
彼を初めて見たのは、たしかスターウォーズを滑っていたので多分、今の羽生くんと同じくらいかそれより少し下くらいの年齢だったのでしょうか。様々な経験を経て、本当に素敵な誇らしい選手になりました。現役を続けてくれて心から嬉しいです。もう少し彼の競技演技が見られる、それだけでも感謝です。

パトリック・チャン選手に思わぬミスが出たので、本心では「金メダルくるー?」と期待してしまいましたが、プロトコルを見るとジャンプの質があまり評価されなかったのと(特に4回転)チャン選手の4-3のコンビネーションが貯金になりましたか、それとプログラムコンポーネンツでどうやら差があったようです。うーむ、厳しい。とほほ。
でも、高橋くんに4回転が戻って来たのは本当に嬉しいですね、来シーズンはおそらく2本入れるように頑張るのでしょうか。ライバルがいるから頑張れる、そんなギリギリの勝負が来シーズン展開されることを期待します。応援してますよ~。

とにかく、男子のみなさん今シーズンも本当にお疲れさまでした!

 

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おめでとう、高橋&トラン組!

ぎゃあああああああ、あたしゃ感涙です!
高橋成美さん、マービン・トラン君、フィギュアスケート世界選手権ペア、銅メダルおめでとううう!!!

すごいすごいすごいすごい、快挙ですよ、この種目で日本代表初!
なんていってもペアですよ、ペア、日本では選手もいない、練習場所すらない、そんなペアでなんと世界選手権3位とは。なんだか興奮してワケわからんことになりそうです。

本当に成美ちゃん、トラン君、よかった、おめでとう。素晴らしい演技でした!
今シーズンのプログラムはとってもいいもので、特にSPの「イマジン」は初めて観た時にあまりのよさに、身体が震えるほど感激しました。
全日本を観に行った時の感想にも書いたと思いますが、是非このプログラムの完成系が見たいと願っていたら来ましたよ、しかもこの大舞台で。
このところ、怪我の影響なのか、なかなかジャンプが決まらず苦しんでいた成美ちゃん。でもここでしっかり決まりました。すごいです。

とにかく最高のイマジンでした。
その努力や乗り越えてきたものは、あの成美ちゃんのガッツポーズとFSの最終順位が出た後の喜び爆発の様に全て込められていましたね。なんてかわいらしい!
別に親戚でも何でもありませんが、まるで親戚の子が銅メダルを獲ったみたいに嬉しいです。

でも、これで予想できることがひとつ。
ソチ五輪に向けて「トラン君を帰化させて五輪に出せ」と急に日本で騒がしくなること。
・・・そりゃ、自分だって彼らに五輪に出て欲しいです。

一応説明すると、トラン君はカナダ生まれのカナダ人。で、成美ちゃんはカナダに留学し、モントリオールに住んで練習している身。
所属は日本代表なので、グランプリシリーズや世界選手権などのISU(世界スケート連盟)主催の試合にはこうして日本代表として出場できます。が、トラン君の国籍がカナダなので五輪には出場資格がありません。

では国籍を変えればよいと、つい簡単に考えてしまいますが人間ですからね、そう簡単にはいかないでしょう。
特に日本の場合、ツ黴€外国からの帰化には大変厳しいという現実があります。

過去には長野五輪のアイスホッケーチームの代表選手の帰化や卓球選手、ソフトボール選手の帰化など、例がないことはないのですが、基本日系選手か、日本人の養子になるなど、なんらかの形で日本と縁がある、または長年日本に住んでいるなどの実績がなければ、日本への帰化というのは、なかなか認められないそうです。ちなみにマーヴィン・トラン君はベトナム人とカンボジア人のご両親を持つカナダ人。

もし、彼がすんなり日本国籍を取となると余程のウルトラCが必要で、その前にトラン君自身が国を捨て言葉も分らない日本人になる覚悟を持つことは非常に大きな決断になることと想像します。トラン君にカナダ市民権を放棄しなさいと誰が強制できるでしょうか。

簡単に「五輪に出たいなら日本人になれ」と言ってしまうのは、あまりにもトラン君に気の毒だし、なんといっても彼らが一番五輪に出たいという夢を持っているはず。

そんな現実を誰よりも重々承知で、でも自分は彼とペアを組み試合に出るんだ勝ちたいんだ、トラン君とでなければならないんだ、と心から思って練習に励んでいる成美ちゃんにも出来たら簡単に言ってほしくない、と親戚のおばちゃんみたいに心配してしまうのです。

銅メダルに心踊って書き始めたのに、なんだか最後はこんな水を差すような話題になってすみません。なんとなく、予想したら一言書きたくなってしまったのでした。

とにかく、すごいすごいよ2人とも。
エキシビション、楽しみにしています!よっ、銅メダリスト!

今回のペアの上位は見ごたえがありました、新鮮な表彰台でしたね。
他のペアの事も書きたいけど、それはまた別の機会に。

追記:以前書いたものは、どうやら自分の国籍、選手登録国についての認識が間違っていたようです。まことにすみません。親切な方からご指摘を頂いて、一部訂正してアップし直しました。間違った情報を読んでしまった方には、大変申し訳ないことをいたしました。 今後このようなミスがないようにしたいと反省します(汗)。ご指摘ありがとうございました。

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八星抱喜(2012年・香港)沖縄国際映画祭にて-ドニー・イェン 甄子丹

沖縄で行われている沖縄国際映画祭で上映された「八星抱喜/All’s Well End’s Well 2012」(原題)を観に行きました。本当はアン・ホイ監督の「桃姐」やインド映画など他の作品も観たかったのですが時間がどうしてもあわず断念(涙)。ほんま、那覇で映画1本だけ観てタッチアンドゴーですわ。1泊しましたがいつも東京で持ってるバッグひとつで行きましたよ。仕事だと「海外旅行ですか?」と同じマンションの住人さんに言われるくらいの大荷物なのに(笑)。

今作「八星抱喜」は、なんていってもドニーさんがいきなりギターを掻鳴らして、あのサミュエル・ホイのヒット曲を熱唱してるわけですよ。彼はこの映画のために指先の皮がむけるほど必死に一からギターの練習をしたそうです。この機会を逃がしたら一生スクリーンでなんか観られまい。

ひょっとしたら日本語字幕もないかも、なんて覚悟してたら、ちゃんとついてました日本語字幕。
しかもすごくマトモ。よかった!

それにしても会場にお客さんいなかったです・・・。全部で20人くらい?スカスカ(涙)。
せっかく陳慶嘉(チャン・ヒンカー)、秦小珍(ジャネット・チュン)ふたりの監督の舞台挨拶まであったのに、もったいない。とほほ。
以前、北京や香港で行われたプレミア上映の盛況ぶりをニュースで見たことがあります。自国とこの日本との激しい温度差に監督はガッカリしたかもしれませんね、ごめんなさい。
別に自分のせいではありませんが、なんだかとっても申し訳ない気分(汗)。

インタビューの内容でおもしろかったのは2人も監督がいるから、てっきり別班で撮影していたのだと思いきや、実は最後まで一緒に撮影していたらしいです。
で、陳慶嘉(チャン・ヒンカー)監督が女優担当で秦小珍(ジャネット・チュン)監督が男優担当という役割分担だったのだとか。

「この映画を観て自分の大切な人をあらためてハグしたくなるような気持になってくれれば嬉しい」と少ない観客に対してでしたが、ニコニコと話しかけてくれたおふたり。そのお顔を見てこっちは、一気にえこ贔屓モードに突入です。
↓左、秦小珍(ジャネット・チュン)監督、右が陳慶嘉(チャン・ヒンカー)監督

こういう映画は贔屓気分が一番。いや、むしろえこ贔屓でもないと正直キツイかもしれない。
なので、このレビューも「超えこ贔屓」モードですよ、念のため。

あらすじとか、たまには書いてみましょうか。多分、いやきっと、ううん絶対に、ネタバレしてしまうと思いますので、ご了承くださいませ。(長文注意!)

ある日、ひとりの女性が「世の中には男手を必要としてる女がいて、暇を持て余している男が一杯いる。じゃあ、そんな人達の橋渡しをするサイトを作ったらどうだろう」と思いつきます。報酬も見返りもなし。ただ最後にお礼にハグしてもらえるというボランティア。その名も「抱喜.com」
これは、そのサイトを通じて知り合った8人の男女のものがたり。

まず8人のスターの組み合わせ。
・古天樂 (ルイス・クー)×陳慧琳(ケリー・チャン)

ルイスはヘンな英語を喋る工事現場の親方。脳味噌まで筋肉でできているような男です。カメラマンのケリーが、そのサイトでモデルを捜しているのを知って応募しました。
いきなりヌードになれと言われ慌てるルイスがまず笑えた。相変わらず芸域広いわ~ルイス・クー、大好き。
しかし出来上がった写真を師匠(鄭中基/ロナルド・チェン)に見せたら「モデルはいいけど、デキがイマイチ。彼がもっとカメラを愛するように仕向けなきゃ、カメラを愛すると言うことはカメラの奥にいる君を愛するということだよ~ん、いっちょやってみたら?」と言われ、いい写真を撮るためにルイスを誘惑することに。

ただでさえ自信過剰のルイスはすっかりその気。
同じ工事現場の仲間で林雪 (ラム・シュー)が登場。もうねこのラムちゃんが可愛いのなんの(笑)。彼女をどうやって口説いたらいいかと相談されて「彼女とまだ寝てないなら、その気持ちを匂わせたプレゼントをしないと」などとアドバイス。
で、ルイスはケリーとのレストランのデートにマットレスにリボンをかけて持ってきちゃう。
ははは、ベタだけど笑った。

とうとうケリーの写真展で舎弟を(この時のラムちゃんがまた素敵!)引き連れたルイスはバラの花束を抱えて彼女に告白。しかしケリーに「ごめんなさい、いい写真を撮りたいだけだったの」と真顔で言われ、舎弟の手前面子丸つぶれのルイス。ああ、かわいそう。
でも、結局はケリーも自分の気持ちに気がついて・・・。

ちなみに白いジャケットを素肌に直接着る、というルイスの衣装のコンセプトは、ドニーさんのアクションブックの表紙にもなってる例の写真にインスパイア(笑)されたんですよね?ね?
素肌に白ジャケを直接着るナルはそんじょそこらのナルじゃありません。笑かしていただきました。

黄百鳴(レイモンド・ウォン)×楊冪(ヤン・ミー)

こちらはカップルじゃなく、疑似親子。
離婚専門のやり手弁護士レイモンド・ウォンは自分も離婚したばかりで娘から嫌われている身。そこで見つけた「父親募集」の文字。
相手は大富豪のひとり娘ヤン・ミー。死んだ父親の遺言で25歳までに結婚しないと莫大な遺産は全額寄付されてしまうという。候補は3人いるのに絞り切れない。間近に迫る誕生日、そこで彼女は父親代わりにその中から結婚相手を選んで欲しいと依頼してきたのです。
あの手この手で3人の男を試すレイモンド・ウォン。
2人は金持ちのボンボンで1人は普通の男。
最後彼女が選んだのは?ダメ親父はもう一度自分の家族に迎え入れてもらうことができるのか?

・杜汶澤 (チャップマン・トウ)×熊黛林 (リン・ホン)

登場したチャッピーのビジュアルと仕草に笑います。もうね、ピーター・チャン監督に似すぎ(笑)。ピーターとサンドラ・ンの子供が彼を見て思わず「パパ!」と言ったとか言わないとか。

彼の役は恋愛小説家。しかもペンネームが「傾城武」て(笑)。
自分の容姿にコンプレックスを持っている彼は盲目の女性、リン・ホンの恋愛気分を味わいたいという願いをかなえることに。
色々趣向を凝らしてデートを重ねるうちに、自分の容姿を気にしない彼女に安心を覚えます。
そしていつも自分をバカにしてる友人たちに彼女をお披露目するのですが、売り言葉に買い言葉、アホな事に彼女が盲目であることを隠すのですね(この辺り、かなり無理があったかな?せっかくいいキャラだったのに勿体ない)。
当然、そんなことが上手くいくわけもなく、「ごめんなさい」と席を立つリン・ホン。彼女を失って初めて彼は本当に愛していたことを知る・・・。

やがて彼女にドナーが見つかり手術を受けて目が見えるようになったから大変。見えないのをいいことに、さんざん「俺はカッコいい」と吹いていただけに、こんな不細工な俺では嫌われる!と慌てるチャッピー(おい!いくらなんでも、それはピーター・チャンに失礼だろ!と観た人のほとんどが突っ込んだはず)。
さて目の見えるようになった彼女が彼の姿を見た結末は。

・甄子丹(ドニー・イェン)×呉君如 (サンドラ・ン)

↑右はチャッピーじゃなく、陣中見舞いに来た本物のピーター・チャン(笑)

譚冠栄(ドニー)は過去にモーメントというバンドで、ちょいとばかしヒットを飛ばした経験を持つ歌手。しかし今ではすっかり落ち目。
このドニーさんのビジュアルが思いっきし、若き日の歌神で俳優のサミュエル・ホイ。

サミュエルに似たマッシュルームみたいなウイッグが微妙です、カワイイです。
一応スッチー(死語)のガールフレンドもいるけど、彼女から一方的に漂う倦怠期の香り。「いっそボランティアでもやれば?」と言われて、ネットで検索したら抱喜.comに辿り着き質問事項に答えるドニーさん。年齢を訊かれて「う~ん」と唸った挙句「27歳!」とキーボードを打つ。ちょ!

このシーン、後ろの壁に自分の写真や記事が貼りまくってあるのにまず注目。なかには実際の昔のドニーさんの写真なんかもあってニヤニヤ。そのなかに地味にブルース・リーのトラックスーツがちらりと。お約束お約束。
部屋にはデヴィッド・ボウイのアラジン・セインといった懐かしのポスターがあったり、着てるTシャツがストーンズ、ビートルズやベルベット・アンダーグラウンドだったりと美術と衣装、分りやすすぎます。が、どこ見ていいのか、かなり動体視力を試されるこのアパートのシーン(笑)。

そんな彼が出逢ったのが、サンドラ扮する宋秋波。彼女はかつてアイドルコンビグループの歌手でした。
実は彼女、デビュー前にお世話になった歌の先生との食事会に出る予定だったところDV彼氏に追い出され、その会に一緒に出席する恋人役を求めていたのです。
「ボロ出さないでよ、あなたは富豪の男ってことなんだから」と釘を刺されるドニーさん。
彼女が見栄を張る理由はただひとつ。そのコンビの片割れで今や大スターとなった女へのライバル心から。
「女の幸せは、やっぱりパートナーよねぇ。彼ったら道を歩きながらも私にキスしたりするの~」
それを聞いたドニーさんの顔(笑)。

しかし、そこでドニーさんがそのスター歌手のバックボーカルで参加していた事がバレ、サンドラはとんだ恥をかくことに。高笑いの元相方。
傷心の彼女は行き場もなく、結局ちゃっかりドニーさんの部屋に転がり込むことに。

そこへスッチーが来ちゃったもんだから、まいった!
サンドラを隠すのに必死になってるうちに、彼女から「他に好きな人ができたの」と告白されてしまうドニーさん。ガールフレンドは冴えない落ち目の歌手を捨ててファーストクラスに乗ってくる他の男に乗り換えてしまったのでした。

そのうえ、昔のバンド仲間はすでに音楽を捨てバリバリのビジネスマン。飲みに行っても携帯やi-padを駆使してのお仕事に余念がない。
「いや、本当に人間らしくない生活で嫌になっちゃうよ」とは口先ばかり。裏では「アイツのあのカッコ、古臭ぇ、いつまでもガキみたいだなぁ、大人になったらやっぱ夢より金がいいに決まってんじゃん」と陰口を叩かれる始末。

いくらポジティブなドニーさんとて、このダブルパンチは効きました。
「彼氏と仲直りしたの」と出て行こうとするサンドラに「暴力男の元へか?」と引きとめようとします。
「いいのよ、元歌手って言ったってどうせ自分は負け犬、だって彼おこずかいくれるし。わざと殴られたりすることもあるのよ、その後モノ買ってくれるから」などと言うサンドラ。「君にはプライドはないのか?そんな生き方でいいのか?」と言う彼を残して部屋を出る彼女。
ぽっつり「今夜はひとりになりたくなかったのに」と涙を流すドニーさん。
と、ドアが開いてサンドラが戻ってきます。
「笑ってくんなきゃ、このまままた出て行くわよ」
その言葉を聞いて微笑むドニーさん、なかなかよい演技でございました。
そしてある日の朝、ドニーさんがサンドラを叩き起こして拡声器で叫びます。
「おい、ミュージカルの男女ペアのオーディションがあるぞ!」
嫌がるサンドラにハッパをかけて特訓するドニーさん。俺たちは負け犬じゃない。

いよいよオーディション当日。
若いミュージシャンに囲まれて居心地の悪い2人。とうとう自分達の番、と思いきや、審査員のなかに例の元相方を見つけるサンドラ。「やっぱ無理!」と楽屋に駆け込んでしまう。
しかたなく舞台に上がるドニーさん。
たった1人で歌い出す「My Friend 今天你如何難得一起齊高歌這歌・・・」
途中で歌うのをやめ、「どんなに負け犬と笑われようが、自分は夢をあきらめない」とその場にいない彼女に気持ちを語り終えたとたん、それを聞いていたサンドラがマイクを握り登場。
途中で自分、気がつきました、アレンジは変わってますがこの曲、映画「Fame」(80年、アラン・パーカー監督)のクライマックスに歌われる「I Sing The Body Electric」(でも歌詞は広東語)じゃないか!!!なんというドストライクな!!!!

もうね、この瞬間、私の興奮はマックスに達してしまいました。
夢を捨てない中年男女の再起を図ったステージで歌う曲が、NYの芸術学校に通う若者たちの青春を描いた物語のハイライトのこれですか!
あかん、まさかこんなシチュエーションでFameが来るとは想像だにしなかったので、恥ずかしながらぐっときて、ちょっぴり泣いてしまいました。

2人の素晴らしいパフォーマンスに審査員はもちろん、楽屋にいた少年少女たちも出てきて大喝采。これは合格?と思いきや、実はそのオーディション、自分達の受けるはずだったものとは違っていた、というオチ。

ベタや・・・クラクラするくらいベタ展開で、全編ひたすらベタ道まっしぐらでございます。
でもこのオーディションのシーンは最高によかった。特にドニーさんの舞台での台詞。
ま、なんというか自分、実はドニーさんと同い年でして。いい大人なのにまさに譚冠栄みたいな格好してフラフラしてるし。山あり谷ありの人生も、半分以上はとっくに過ぎてるわけです。彼のあのポジティブさにとても勇気づけてもらいました。とにかくドニーファンは必見です。

昨年の旧正月映画「最強喜事」では例の葉問セルフパロディや、同じく葉問を演じるトニー・レオンのパロディを嫁のカリーナ・ラウと一緒にやってのける、など見どころは充分あったものの、なんとなくレビューを書きそびれておりました。

↓トニー・レオンの「一代宗師」ポスター

↓「最強喜事」のワンシーン(笑)

新作を撮る度に、毎回「今までの自分を乗り越えるために努力する」と話すドニーさん。「八星抱喜」はそれまでの自分を鮮やかに乗り越えました。
企画の段階では違う設定だったようですが、売れないミュージシャンにすると決めたのは自身だそうで。
香港コメディは得意じゃありませんが、ここまで振り切ってくれれば文句なし。それを観ることができただけで、えこ贔屓するドニーファンとしては満足です。ギターや歌など、忙しいなかの練習はさぞ大変だったでしょう。

とはいえ、ご本人はインタビューで「オレはもともとコメディセンスあるんだぜ!」と威張ってましたが(笑)。苦労したダンスシーンは、相当カットされたらしく残念がってると、どっかで読みました。ここは是非発売されるソフトのメイキングでフルに見せて欲しいところですね!

ストーリーはまぁ、なんだ、全体的に昭和のつまらない少女漫画みたいなキャラクターの記号化とノリで、合わない人には全然面白くなくても不思議はない。登場する人物の出で立ちや役名も歌も、元ネタが結構あるようで、それが分らないと一層キツイのかもしれません。自分も、ほとんど分りませんでしたが、気がついたのや調べて知ったことを少し。

帰って確認したところ、ラストで感激した「Fame」の「I Sing The Body Electric」、実は香港で1986年に陳潔靈と葉德嫻がカバーして大ヒットしたそうです。そのカバーのカバーをドニーさんとサンドラが歌ったというわけ。葉德嫻(デニー・イップ)といえば、まさにこの沖縄国際映画祭で観たいと思っていた「桃姐」で沢山の国のさまざまな映画賞で主演女優賞を獲ったお人じゃありませんか!こちらの2人のカバー曲「千個太陽」がアレンジを含めすごくいい。名唱です。

そういえばドニーさんの役名の譚冠栄は譚詠麟(アラン・タム)と許冠傑(サミュエル・ホイ)と張國栄(レスリー・チャン)を足したのだとか。微博(中国のツイッター)で読みましたよ。そんなのネタ明かししてくれなきゃ絶対に分らないよ。

それと冒頭の夢のシーン。
あれは陳奕迅(イーソン・チャン)のパロディだそうです、前にこんな記事を見つけました。

衣装までイーソン・チャンの完コピでございます。

名前といえば、サンドラ・ンの元相方の役名が黄丹菲。菲菲(フェイフェイ)とか呼ばれてて、もうね、どう考えても王菲(フェイ・ウォン)にあてこすってる(笑)演じるのはチャップマン・トウの奥さん田蕊妮(クリスタル・ティン)。
彼女がとってもよかったわ~。ちなみにこのアイドルコンビの歌っていた曲も元歌あり。

歌つながりだと、ヤン・ミーが選んだ男、劉子千(ジェレミー・リウ)。
彼は台湾の歌手ですが、劇中でも歌われる「唸你€」というナンバーのそのスゴイ歌い方と微妙なMVが人の心をとらえ、
瞬く間にネットによって中華圏で大人気を博したという迷曲。 2011年度の大ヒットを記録しました。 このMVマジヤバいです(笑)。5回も聴いたら頭にこびりつくこと必至。

スッチーのガールフレンド役はやはり台湾の女優、應采兒(チェリー・イン)。この人の御主人は陳小春(ジョーダン・チャン)。16歳くらい歳が違うカップルです。だからこそ40男のガールフレンド役のオファーが来たのかな。

突然登場して「エディソン、なぜ私を捨てたの?そしてどうして私の写真を撮らなかったの?」と例のエディソン・チャンを皮肉るのは余慕蓮(モーリン・ユー)。70年代からドラマに出ている超ベテラン女優。

そして冒頭、抱喜.comを考えつき、最後にレイモンド・ウォンの別れた妻だったというオチの女性は、中国の国民的歌手の龔琳娜(ゴン・リンナ)。前作の「最強喜事」でチャッピーが女装して歌った「忐忑」は彼女の2010年の大ヒット曲。神曲と中国で呼ばれているくらい超絶技巧の歌です。
翌年のこの映画ではその本人がいきなり登場したのでクスっとしてしまいました。

そうだ、元バンド仲間のキーボードに谷徳昭(ビンセント・コク)が。ひと目でわかる。あの風貌で携帯をかけまくる不動産屋は生々しくて可笑しかったです。

とにかくこの映画は好き。ドニーさんめちゃキュートです。
弾けきった彼がまさにこの映画を牽引したと言っていいでしょう。自分にはオーディションのシークエンスだけでお金を払う価値が充分にありました。同年代はホロリとくるかもしれません。
ドニーさんとサンドラのユニット名は90年代生まれの人を表す「90后」ということでしたが、どう見てもあなたたちのやってることは80年代(笑)。

この先、悲しい事があったら、何度もこのシーン観ようっと。

関連動画、すごい数になりそうだ。
八星抱喜トレーラー
八星抱喜メイキング
甄子丹演唱-天才與白痴
その原曲、許冠傑(サミュエル・ホイ)の天才與白痴(もともとは同タイトルの映画のテーマソング)
甄子丹演唱-天才白痴夢
その原曲、許冠傑(サミュエル・ホイ)の天才白痴夢
自分はこの歌がすごい好きでして。これをドニーさんが歌うと知って小躍りしましたよ。名曲だけに色んな人がカバーしています。
陳百強-天才白痴夢
SOLER天才白痴夢(めっちゃいい!)
張惠妹-天才白痴夢(この曲をスター誕生みたいな番組で歌って本当にスターになった歌手)
天才白痴夢-鄭中基(新世紀Mr.Boo!ホイさまカミさまホトケさま挿入歌)
農夫-天造之材(原曲天才白痴夢)
ある意味この映画、音楽劇とも言えるわけで
吳君如&田蕊妮 – 甜蜜如軟糖
その原曲、陳秀雯 甜蜜如軟糖 1983
劉子千-唸你€(怖いもの見たさでどうぞ、ギャグじゃないんす、真剣なんです!)
「八星抱喜」主題曲/抱喜-ケリー・チャン(粵語)
龔琳娜-忐忑€(これ古曲じゃありません、夫であるドイツ人作曲家の作った新曲)
おまけの女装チャップマン・トウ忐忑「最強喜事」メイキング
Fame(1980)トレーラー
Fame 1980 I Sing The Body Electric (当時このサントラを何度聴いたことか)
その広東語カバー、千個太陽-陳潔靈&葉德嫻

最後になりますが、会場となった桜坂劇場はとてもいい映画館でした。
なんというか映画に対する愛情が、ほんわか伝わってくるような 。
色々面白い企画とかもされてるようで。どんどん映画館がなくなっていく昨今、どうかずっと素晴らしい映画を上映し続けて欲しいな、そんな風に思いました。

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筋金入り

先日、古くからの仕事仲間と久しぶりに飲みました。
年齢はちょいと下だけど、ま、同じアラフィフというところか。

飲みながらいろんな話をしていたら、いきなり「なんで再婚しないんすか?」と148キロの直球がきた。それまで彼の危うくなった女関係の事情を聞いたりしていたので、はは~んと「自分が今したいんでしょうに?」と反対に質問。

「まぁ、やっぱりこういう年齢になると安心できる人が欲しいっていうか・・・」とゴニョゴニョと言っております。彼女とのことで色々心配事が多い時期なのかも。
自分の場合はね、縁があってしたくなったらすればいいじゃないと思ってるくらいかな、と答えると「寂しくないわけ?」とまだ真顔。

「うう~ん、そりゃ当然寂しい日も将来に不安な日もあるけど、そういう気持ちって私の場合毎日続くわけじゃないんだよね。むしろ考えない日の方が多いの。そういうのを繰り返してるとね、不安な気持ちは、やり過ごせば何とかなるって経験で分ってるもんなのよ。もし自分の中にニュートラルがあるとすれば‘なんとかなる’ってほうがニュートラルだから、それでいいんじゃないのかなぁ」

その私の返事を聞いて、言いかけた言葉を彼は止めました。
そしてハタと思い出したように
「昔、まったく同じ言葉を姐さんから聞いたことを、今、思い出したわ」だと。

「へぇ~いつ?」
「多分、ロケで蓼科に行った時だから15年前くらいか」
「15年前っていうと、30半ばか~。そんな時から同じこと言ってるわけだ」
「そん時からまったく同じ言葉を使ってるわけですよ、アナタは」
「じゃ、それに関しちゃ、わたしゃ筋金入りすね」
「そうらしいっす」

それだけの話です(笑)。
こんな一貫しない女に、そんな部分で一貫したとこがあったとは自分でも驚きです。

 

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技のデパートのピンクな瞬間

少し前、ラジオ番組で元小結、現NHK大相撲解説の舞の海秀平さんにお話を聞く機会がありました。
最近なにかと不祥事が多く、あまりいいイメージのない大相撲。

そういえば、若貴がいて小錦、曙が活躍し、それこそ舞の海さんがいたころが一番チケットが取れなかったような。
その時期に自分も大相撲の九州場所を取材したことがあります。
曙関と一緒に写真をとっていただいた際、隣に立ったらびっくりするくらい大きくて到底同じ人間とは思えなかった。山ですよ、山(笑)。

そんな大きな力士とガツンとぶつかるわけですから、小兵といわれた舞の海さんは正直怖くなかったのでしょうか?
「怖かったですよ、というか、まともにぶつかったらすぐに負けてしまいますから、どうやってそこを掻い潜ろうかとそればかり考えていました」とのお答え。

そういえば、今でも語り草になっている立ちあい直後、相手の顔の前でパチンと手を叩く「猫だまし」って実は思いつきで仕掛けたものではなく、秘かに稽古していたのだそうですよ。
素人はああいう動きのことをすぐに「技」という言い方をしてしまいますが、本来「技」とは「決まり手」のこと。なので猫だましの場合は動きという表現が正しいみたいで。

とにかくあの動きはタイミングが命。ご本人いわく「早くても遅くてもダメ、目の前、という位置がずれてもダメ」なのだとか。なので、相当稽古を積んだのだそう。
そのためには仕切りに手がつく距離では無理なので少し離れる必要がありますが、あまり離れ過ぎると「コイツなにかやるつもりだな」と看破られ警戒させてしまうので、その塩梅が非常に難しかったらしいです。

しかもその稽古は、秘密裏にしないと意味がありません。
なのでマスコミのいる前では決してせず、同部屋の力士たちの協力を得ながら何度も色々な動きを試していたのだとか。親方はそんな舞の海さんを見ながら「また何かやってるな」という顔で苦笑いしていたというわけです。

当然、その動きだけで勝てるというわけでもないので、とにかくまともにぶつかっては勝てない相手をどう揺さぶって、その懐に飛び込むチャンスを掴むか、その一心。
しかも、その動きは一度しか使えないと心得て、場所中は一番取り終えるとすぐに翌日の対戦相手を思い、立ちあいをどうしようかそればかり考えていたそうです。

まさにそんな研究熱心さと意気込みがあの「八艘跳び」や「くるくる舞の海」を生んだわけですね。

しかし、そうやって考えに考え抜いた動きもいつも通用するとは限らない。
失敗することもあったそうで、現在の貴乃花親方である当時の横綱貴乃花とのある一番では、立ちあい直後、両手で相手の右腕をとって脇をあけようとしたのに、渾身の力を込めても横綱の腕はびくともせず「あれは、めちゃくちゃ恥ずかしかったです」と振り返って笑っておられました。

また、山のような曙関の場合は蹲踞(そんきょ)しただけで、もう相手の足しか見えず、何度あの足の間をくぐって後ろに回り込めればと想像したそうです。
しかし、一瞬でも手や膝がついてしまうと負けてしまう相撲。さすがにそれはリスクが高すぎて断念。

今でも色々なスポーツを見ていて羨ましいなと感じることがたくさんあるそうで。
例えば体操選手の身体能力が自分にあったら、跳馬のように相手の肩に手を衝いて飛び越えて後ろに回り込めるのに、と真剣な表情。

うわ~一度でいいから見てみたい!そんな動きをお相撲で。

最後に、そうやって稽古した動きをいざしようと決めて迎えた一番は、すごく緊張しませんでしたか?と質問したら「なので自分は直前まで、リラックスするためにある色を思い浮かべてました」というご返事。

それは何色ですか?
「ピンクです」
ピ、ピンク・・・そのピンクは鮮やかなピンクですか?それとも・・・。
「薄いピンク色です、それを想像すると落ち着くんですよね」

たくさんのアスリートや芸能人など、様々な方にお話を伺ってきましたが、ピンク色を思い浮かべて緊張をほぐすという人の話は生まれて初めて聞きました。舞の海さん、おもしろすぎます。

最近、身体の大きなパワー系の力士が目立ち、なかなか舞の海さんのような身体の小さな人を見かけることも少なくなりました。技のデパートと呼ばれた彼のような小兵の力士が大きな人を倒すのをまた見てみたいものです。

 

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