捜査官X 迷走江湖

捜査官Xの初日に新宿ピカデリーに行ってきました。
さすが初日、さすが金城武さま、東京で人気のある映画館ということもあってかほぼ満席。
考えたら、ついこの間までドニー映画を新宿ピカデリーなどというシネコンで観ることが出来るなんて、ちらりとも想像したことがなかったよ!
試写を見た時に「一番大きなスクリーンで観たい」と言いましたが客席数としては丸の内東映の方が多いみたい。でもなんとなくメジャー感漂う新宿ピカデリーで観たかった自分(笑)。
席について初めて思いました、これはひょっとしてドニー映画を一番いい音響で観るのかも、と。

ああああああああああああ、すんばらしい。
映像ももちろん美しいのですが、音響がほんと素晴らしい。音楽は当然のこと(サントラ発売してくれぇ!)ずっと後ろで聞こえる鳥のさえずりとか、雨音とか、人の心を秘かにささくれ立たせる蠅の羽音とか。もちろん家を震わせるジミーさんの咆哮「什麽ー!」とかマジ怖いんですけど(笑)。
劇場で観るこの映画、最高です。見られる環境にある方は是非、ぜーひー、映画館でご覧ください。

自分、初日と2日目、そして先日も知人2人と一緒に観ました。しかも先日おごって頂いたお礼と称しての秘かな布教活動、アホや・・・完全にイカレてる。多分、自分丸の内東映でも大阪でも観ると思う。それくらい何度観てもいいし、何度でもスクリーンで観たい。
と、ここからネタバレ。

毎回、なんだかんだ輸入版を観てドニーレビューを書いては「やっぱ、劇場で観た方がよかった」とあとから記しておりますが、これも判で押したような感想。やはり映画は劇場だ。
今回あらためて観て、金城武くんの声は本当にいいなぁとしみじみ実感いたしました。さすがピーター・チャンがナレーション王子と言うだけのことはある(あれ?これって本当にピーターが言ったんだっけか、それとも武ファンの方の言葉だっけか?ま、細かいことは気にしない!)。四川語の響きがすごく新鮮。訛ってるよ、しっかり。
初見で観た時すでに、「辛苦你€了」とか、あの劉金喜と徐百九ふたりが焚き火を囲みながら仮死状態を説明する最後の台詞のラストの言葉、「真死」とかに笑ってしまいました。むこうの観客はさぞあの響きにドッカン大爆笑だったのでしょうねぇ。結構シリアスな場面なはずですが。

つか、金城くん以上にすんごい訛ってたのが、あの知事さん。村民の前で劉金喜を称える台詞なんかびっくり。あの台詞を中国向けのトレーラーの最初にもってきた意味が良く分る(笑)。

あと何度観てもいいのが、仮死状態の劉金喜を必死で起こそうとする徐百九の姿と、覚悟を決めたドニーさんが腕を切るシーン。ふたりの演技とあの緊迫感は見事です、男たちの信頼がより一層顕在化する場面。キモです。

ちなみに劉金喜が腕を切る直前に左腕の付近をドス、ドス、ボスッと自らの手で3度衝きますが、あれは恐らく「点穴」ということでいいのですよね。
昔から、武侠映画では点穴を衝いて人を動けなくする、などという分りやすい技が出てきたりしますが、あれのようなものです。多分、痛みを抑えるために一種の麻酔の役割を果たす左腕のそばの点穴、いわゆるツボを衝いたのだと理解。
(点穴はこの映画の前半でも、強盗閻東生を殺す際にこめかみに一撃、その威力を見せました)

また、親子の壮絶な闘いの中で、ジミーさんが同じ場所を衝き、その点穴を解除(こういう表現で果たしていいのかな?)してから切った腕の断面をガッチリ掴むというのも凝った動作です。いわば麻酔が一瞬にして切れた状態、そらドニーさん意識朦朧とするくらい痛いわ!

でも唇を真っ白にしてそれに耐える彼の顔を見ていて、つい、手を離しちゃうジミーさん。
ここは屈折した息子への愛情が垣間見えた気がしました。ま、もっともそのすぐ後に気を取り直したかのように強烈な連打をかましちゃうわけですが(ちなみに、このジミーさんも息子の唐龍と同じ豹拳使い)。

その一連の動きにピーター・チャン監督がどれほど関与していたかは分りませんけど、もし、この演出の隅々までを動作監督であるドニーさんが仕切っていたのだとしたら、やはりこの人の才能はスゴイです。なんというアクションにおける細かい心理描写、あっぱれです。

大抵人のいない劇場かミニシアター系で観ることの多い、ドニー作品。
今回の新宿ピカデリーは上映後、一斉にエスカレーターに乗ってロビーフロアまで降りるので、観た後の感想なんぞをみなさんが喋ってるのを耳をそばだてて聞いてみちゃったりなんかする(笑)。

ある若いお兄ちゃんが連れの男性に「捜査官Xって、ガイ・リッチーのホームズに影響受けてるよな」ときた。
まぁ、その映画に関しては同じテイストとしてよく名前がでてくるので仕方ないか。でも、影響を受けてるはないだろうよ、と心の中で反論。
ええと、クランクインはシャドウゲームよか早いんですけど?武侠。
せめて、みんな考えてることは似てるな、くらいにしておいてくださいまし(笑)。

すると一方の若い衆が「孫文の義士団も十三人の刺客にそっくりだった」と答える。
あのー、「孫文の義士団」の日本公開は2011年でしたが、原題「十月圍城」は2009年制作なんす。三宅監督のは2010年公開、しかも企画だけ言えば、何度も流れて実はもっともっと前からあったんすよ。そもそも三宅版十三人の刺客自体、リメイクじゃん!
そして畳み掛けるように「これはホームズ、つーよか、ヒストリー・オブ・バイオレンスのパクリじゃねーの?」と言い切った。
たしかにその作品名もよく聞くけど、谷垣さんのパンフのコラムによると、この作品元々はラウ・カーリョン監督主演のショウブラザース映画の名作「秘義・十八武芸拳法」(82年)リメイクという企画だったわけで。それを読んで私なんぞはああなるほど、と思いました。
それは雲南義和団の創始者の男が義和団の神打法力に疑問を持ち、支部を解散したために組織から追われ、身を隠して生きるというストーリーでした。
そんな風に言っちゃうと廻り巡って「ヒストリー・オブ・バイオレンス」は「秘義・十八武芸拳法」のパクリってことになっちゃうよ?よ?
そもそも、ああいう、組織から逃げて別の人生を送る男の話なんか、洋の東西を問わず昔っから掃いて捨てるほどあるじゃあないか!

特に武侠映画、功夫映画に対して、どこかで観た、何かに似てる、パクリだ、と言うことほど意味のないことはないわけで。(参照:飲む前にへパリ―ゼ
「そこが出発点なんだよぉぉぉ」と思わず振り向いて兄さん達に言おうかと思ったほど。同時に自分も発言には気をつけよ、と神妙に思ってしまったのでした。

また別の日には、カップルがエンドソングについて延々話している。
「あれ、絶対チンコに聞こえるよね~」と実に楽しそうだ。うん、聞こえるよ、もはや空耳でもないくらいだ、自分も心の中で相槌を打つ。
「なんであんな曲にしたのかな~、ヘンだよね~」と彼女の方は心底不思議そう。

これは「武侠」の時のレビューでは書ききれませんでしたが、実はこの窦唯の「迷走江湖」を聞いた時にすぐ思い出したのが、70年代のジャーマンプログレッシブバンドの(ブライアン・イーノとコラボする前の)クラスターだとか、70年代から80年代にノイジーミュージック、またはインダストリアルミュージックと呼ばれたジャンル(のちの90年代に流行ったインダストリアルミュージックは自分にとってはポストインダストリアルという位置づけ、自分はそっちはまったく分らない)。

おお、そういや西ドイツの実験的音楽バンドにアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンてのがいたな、と思い出してyoutubeに捜しに行ったらあった。
そこで彼らの50分以上もある動画1985年のHalber Mensch を、つらつら眺めていたらまさに「捜査官X」のオープニングクレジットみたいな血管の映像とか出てきて笑っちゃった。
まぁ、こういう体内映像ってのは昔からよく色んなところで使われてるから直接何か関係があるとは言わないけど、道理で自分はあの念仏みたいな曲に違和感持たないわけだわと秘かに納得してしまいました。(この動画に関しては、唐突に出てくる日本語とか暗黒舞踏テイストとか、別の意味でも突っ込みどころ満載)

しかも、この€アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、いまもちゃんと活動している現役バンドであることを知って二度驚き。えらい。最近の曲がまた遯ヲ唯の「迷走江湖」を思わせるテイストで。しかし、これだけ長い間、個性を残したままのバンドがあるのだということに激しく感激。

そういえば、7,80年代のインダストリアルミュージック、「工業生産される大衆音楽」へのアンチテーゼとしての意味合いがあった記憶。
映画の舞台となった1917年という中国の時代性や、素朴な人の営みと相反する暴力と、人の背負う家族という伝統。そしてその先にあった現在の中国という国が抱える拝金主義と、中国共産党の作りあげた工業生産のような一方的盲目的な大衆の気分。またよからぬ深読みをしてしまいそうになります(笑)。

窦唯にクレジットソングをオファーしたピーター・チャン監督。当時出発ギリギリまでカンヌ映画祭のためのポストプロダクションならび編集作業に必死こいていた時期に「エンドソングはロックで」と窦唯に未完成段階のフイルムを見てもらい依頼したのだそう。
あのような曲をイメージして頼んだわけではないかもしれませんが(笑)タイトルのセンスといい、窦唯と捜査官Xは非常におもしろい組み合わせになったと自分は思います。しかし、これまた少数意見なのかも。

捜査官Xエンディングソング「迷走江湖」遯ヲ唯
捜査官X 日本語字幕版を試写室で- 甄子丹 ドニー・イェン
捜査官X(原題・武侠) ― 甄子丹 ドニー・イェン
武侠 香港BDにて鑑賞-ドニー・イェン 甄子丹(超ネタバレ)

それにしてもサントラ、DL販売でいいからしてくれないかなぁ。
全部とはいわない、せめて、お父さんが朝ごはん食べて仕事行くシーンで流れるα波出まくりの冒頭の曲だけでも。大陸の映画音楽特集番組によると、タイトルは「安宁生活(安らかな生活)」、これ1曲だけでもいいから!お願い!

 

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捜査官X 迷走江湖 への8件のフィードバック

  1. SPUTNIK のコメント:

    観てきました!

    いつもと違って女性客でほぼ満席の場内に驚愕。
    金城君の底力は凄いですね。
    思っていた以上にサスペンスの雰囲気が強くて意外でした!
    もちろんド兄ぃさんのアクションも大満足だったけれど、
    いつもと手触りの違う風格にグっと・・・・。

    この作品を絡めて、まさかノイバウテンの名前が出てくるとは思わず
    そう言う意味でも吃驚。(笑
    ブリクサ・ヴァーゲルド、懐かしい!(年代がバレる)

    • ケイコママ のコメント:

      わははははは、SPUTNIK さま、同年代っすね!!!
      なんかすごく(一方的ですが)安心いたしました

      いやー、捜査官Xいいっすねぇ~
      もう何回見ても飽きない、というより何度観てもその度に新しい発見があって
      本当に取り憑かれたような気分です
      あのジャンル分け不可能な色彩とバランスが絶妙
      最後いいとこ取りするドニーさんは、いつもの仕様でございますが(笑)

      さすがの葉問もここまでの取り憑かれようじゃなかった…
      非常に愛してます、この映画

  2. 岐阜の『ともっち』 のコメント:

    こんにちは。ママさん。
    個人的に嬉しいことがありまして。『捜査官X』、僕が住んでいる岐阜県でも上映決定しました!!しかし、6月後半なのでまだしばらくおあずけですけど、待つ価値アリですよね?
    ネタばれ部分もチェックしました。
    冗談半分に言わせてもらいますが・・ケイコママが何だか「2時のワイドショー」時代の浜村淳さんにみえてきた(爆)。そこまで言うか・・みたいな(笑)でもそこまで言わないと気が済まないっていう気持ちわかりますよ。
    では、また遊びに来ます!!

    • ケイコママ のコメント:

      岐阜の『ともっち』 さま
      浜村純さん!ああああああ、たった今その名前を聞いて私に多大な影響を与えたお一人であると自覚いたしました(笑)
      私、大阪生まれの育ちなので、子供のころより「ありがとう浜村純です」という大阪毎日放送の朝のラジオをよく聞いてたんです。(この番組はなんと1974年から現在まで続いている)当然学校に行かなければならないので、すべては聞けませんでしたが、そのなかの映画紹介コーナーは幼少の頃よりとても楽しみにしていました。そういえば浜村さん、シーンのくどい説明(笑)とか名調子でやっておられました!
      ひょっとすると自分には「2時のワイドショー」のほうが馴染みはないかもしれません。けれど浜村さんのことなので多分、同じテンションだったのではなかろうかと想像します。
      ご指摘ありがとうございます、私としてはなんか目から鱗です。

      ところで岐阜で「捜査官X」公開おめでとうございます!!!
      6月後半は長いかもしれませんが、待つ価値ありかと存じます、どうかどうか気にいってくださることを願います。もし気に入ったら、また感想を書きにきてくださいね~。

  3. きんこん のコメント:

    ども!浜村淳です!昨日、ついに観てきました!「武侠」!

    ケイコママの気合の入った超オススメ度合いに、こりゃ観なあかん、という気になってしまい
    神戸国際松竹という三宮の映画館で、貸し切り気分で堪能してきました!

    (観客約20名、みなさん真ん中から後ろに固まって座っておられ、前から五列めくらいに座った僕の前には誰も座らず、視界に誰も居ないので貸し切り気分…笑)

    いやはや、羅生門的な前半部と、過去との決別を誓った男の苦しみが胸に迫ってきて、
    とっても面白かったっす!

    謎解きミステリー的な宣伝をされていたような部分もあったので、

    一般的な謎解きではなく、カネシロアニキの「妄想捜査」が謎を暴く展開に唖然とされた観客もいたことでしょう(笑)

    ドニーさんジミーさんクララさん、凄まじいファミリー(爆)誰でも逃げ出したくなる(笑)

    僕自身の注目ポイントとしては「チンコの歌」でした(笑)

    いつ流れるのか、気になって気になって。

    • ケイコママ のコメント:

      きんこんさま
      本当に色々とヘンで面白い映画ですよねぇ。
      自分は初見の際、冒頭の朝のシーンで一瞬にしてこの映画にしてやられたわけですが、良く考えると、ああいう家族の風景をくどくなくさらりと描けるのはさすがピーター・チャンと何度か観て気がつきました(遅っ!)

      私はこの作品のタン・ウェイがむちゃくちゃ好き。
      普通、あれくらいの分量だと女性は添え物みたいになってしまそうなところ、そうならないところに監督の才能を感じ、また彼女の演技力がそうさせなかったんだと思います。

      金城くんも素敵でした。造型がまたね、長袍に帽子と雨傘。ドストライクですわ。

      エンディングソング、お気に召しましたら幸いです。 と書いてる自分の後ろではマイケルの斷腸夢が聞こえてますが(笑)。

      • きんこん のコメント:

        ケイコママさま

        タン・ウェイって、あの「ラスト・コーション」のヒトなんですよね!知らなかった!ビックリ!

        確かに自然な演技で、完全に「あの時代」の世界に馴染んで見えました。

        僕は腸のフクロ(?)を洗ってる姿にどきどきして、ドストライク(←バカ)

        >マイケル

        サミュエル?

        • ケイコママ のコメント:

          きんこんさま
          あらら、おっしゃる通りマイケルではなくサミュエルです、とほほ。
          タン・ウェイさん、ほんとうにいいですねぇ。
          彼女の「レイト・オータム」も行こうと思っていたのに渋谷ではアッという間に終了してしまい、結局観ることは出来ず、残念。
          是非日本でソフトになって欲しいです。
          彼女、この映画に出演したこともあって韓国では凄く人気があるようですね~。

          最近では「極速なんちゃら」というカーレースものの映画にも出演しているみたいですが、あまり食指は動きませんでした。次回作に期待します。

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