『タイガー・マウンテン 雪原の死闘 』エグゼクティブ・プロデユーサー、ジェフリー・チャン(陳永雄)さんにお話をうかがう-その1

10月31日から開幕しました「京都ヒストリカ国際映画祭」。今年も及ばずながらナビゲーターとしてお手伝いさせていただきました。

今年のオープニングを飾ったのは、ツイ・ハーク監督の『タイガー・マウンテン 雪原の死闘 』です。そこで本作のプロデューサーのジェフリー・チャン(陳永雄)さんにトークショーでお話をうかがいました。

まずはじめに、このインタビューで衝撃的だったのは、広東語通訳として著名なソフィ(上川智子)さん。彼女には当然広東語の通訳として入って頂いていたのですが、ジェフリーさん、会場を見るや英語圏のオーディエンスがいることに気がついて「英語でQ&Aやってもいい?」と急遽英語で答えだしました。

なんとなんと、そんな信じられないような変更にソフィさん慌てず騒がず、涼しい顔で英語の通訳をやってのけてしまったのです。すごい、素晴らしい!!もうね、今回彼女のこのお仕事っぷりは英雄的ですらありました。ソフィさん本当に本当にありがとうございました、そしてお疲れさまでございました。

さて、エグゼクティブ・プロデユーサーのジェフリーさんは一体いつ休んでいるんだろうと思うほど世界中を股にかけている方です。各国の映画祭や映画市はセールス期間でもありますからね、京都の到着前も大陸、東京と各地を回ったそうで、このあとはLAそして大阪なんだそう。その間、新たな映画の企画の打ち合わせ、制作現場への配慮と、本当に大忙し。そのあまりの飛び回りように、お住まいはどちらなんですか?と委員の1人が尋ねたら「僕の今いるところが家だよ」と、自分がその場にいたらマーヴィン・ゲイの“Wherever I Lay My Hat (That’s My Home)”かーい!と突っ込んでいたかもしれない(笑)洒落た事をおっしゃったとか(こちらは女の子じゃなくビジネスだけど)。

このジェフリーさん、キャリアの始めは、トニー・レオンがテレビに登場したばかりの80年代、無綫電視(TVB)の事務方として働いていたそうです。弁護士さんとやり取りするお仕事だったといいますから制作現場とは無縁の職場でした。

その時に、シー・ナンスン(施南生)さんやツイ・ハーク監督と知り合い、その後、メディア・アジア・グループ(寰亜総芸集団)にゼネラルマネージャーとして移り、2008年にBONAフィルム(博納影業)にプロデューサーとしてヘッドハンティングされました。

期間は短いですが、出資者、プロデューサーとして関わったフィルムは数知れず。
有名なところでも
ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝
桃(タオ)さんのしあわせ
盗聴犯~狙われたブローカー~
ラスト・シャンハイ
大魔術師”X”のダブル・トリック
インフェルノ 大火災脱出
激戦 ハート・オブ・ファイト
『レクイエム 最後の銃弾』
『インターセプション -盗聴戦-』
SPL殺破狼Ⅱ』(原題)
などなど、日本でも公開された大作がいっぱい。そう、彼は名前こそ知られていないかも知れませんが、ご本人いわく「香港の監督でやったことがないのは、チャウ・シンチーだけ」という、香港中国映画界では超大物プロデューサーなわけであります。

おもにどんなお仕事なのかと尋ねたら「セールスマン、あとは現場のトラブル処理、監督が気分よく仕事できるようにするのが仕事、スターといえども不満を爆発させることもあるので、そういう時に出て行く係」と笑っていました。

もちろん、出資人でもあるため、制作に関してもアイディアの段階からその作品に携わり今回のタイガー・マウンテンではもうずーっと前にツイ・ハーク監督が「これいつか撮りたいんだよね」と話した時に同席していたそうです。

大発展を遂げている中国映画産業の中心にいる人物の1人ですし、その話しぶり佇まいはイケイケな勢い。

前日の打ち合わせを兼ねたディナーでは、こちらのひとつの質問に対しそれから派生する話題までも先読みして、決して途切れることなくもう話しまくる。翌日もこの調子なら、通訳を挟む余地がなく、観客の皆さんが困るのではないかと秘かに心配したほどです(しかし、さすがそこはクレバーな方だけあって、前日と本番は人が違ったように短いセンテンスでお話してくださいました、さすが)

ご自身をセールスマンと仰ってましたが、その喋り口は、ご本人のキャラもあるでしょうが、自信に満ちあふれておりましたよ。おお眩しい。

そして当然のことながら、中国での検閲をはじめとするデメリットについては一言も言わず、むしろいかに現在の中国が世界の映画界において重要な位置にあるか、ハリウッドもすでに中国市場抜きでは語れないということを力説していました。そりゃそうなりますわね。

中国大陸ではこうした映画製作会社のみならず、異業種の出資会社や出資人も年を追うごとに増え、年間、大陸だけで800本もの映画が作られているそうです。けれど、その半分は映画としては世に出ず、ネット公開されるもの、テレビコンテンツになるもの、お蔵入りなど。世間でタイトルを目にすることができるのはせいぜいそのうちの100本ほど。

しかし、その制作数の多さに、慢性的な人手不足に陥っているそうで、スターがいない、監督もいない、プロデューサーもいない、スタッフも足りない、映画のポスターをデザインするデザイナーさえ不足している、ということで今は韓流俳優だけでなく韓国の人達がたくさん大陸で(監督も含め)働いているそうです。

「日本人も思い切って大陸に行ったら仕事ができますか?」と聞いたら「中国語が話せればね」というお答え。いやいや、韓国人だって中国語話せる人ばかりじゃないでしょうよ、とも思うので、その気さえあればなんとかなる、というか、むこうで中国語を覚えつつ仕事してる日本人俳優達も沢山いるし、一方で北京電影学院に入学、チャン・イーモウ(張芸謀)監督やルー・チアン(陸川)監督の助監督をつとめた横山伸治さんのような方もいるんですもんね。まして、ゼロからではなく実績をもっていれば通訳を雇ってでも採用したいという勢いはあり、実際たくさんの日本映画人が中国からオファーをもらっています。あとは・・・監督が大陸に乗りこんで中国俳優を使って広く世界向けに大作の映画を是非!

谷垣健治さんが、カーアクション監督のブルース・ロウと「(香港映画において)俺たちは乗り遅れるギリギリのタイミングでなんとか乗れた世代だよね」と話すことがあると聞いたことがあります。「映画を目指すなら、今ここで!」と多くの外国人が様々な役割で中国大陸を目指しても不思議ないのかもしれません。そして彼等もいつか「乗り遅れなかった世代」として、大陸で、またそれぞれの国に戻って第一線で活躍する日が来るのでしょう。そんなことを実感しました。

と、いうわけで次は、映画『タイガー・マウンテン 雪原の死闘』についての具体的なお話です。まだまだ続くよ。

京都ヒストリカ国際映画祭 オープニング作品『タイガー・マウンテン 雪原の死闘』
【インタビュー】中国映画界で活躍する日本人 横山伸治さん(映像ディレクター)

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