盗聴犯 死のインサイダー取引(09)/狙われたブローカー(11)

ギリギリになって六本木シネマートでやっと観ることができました。
監督・脚本、荘文強(フェリックス・チョン)と麥兆輝(アラン・マック)の盗聴犯1,2。
プロデューサー爾冬陞(イー・トンシン)、出演、劉青雲(ラウ・チンワン)古天樂(ルイス・クー)呉彦祖(ダニエル・ウー)いやっほう、両方ともおもしろかったああああ。

まずは、2009年の「死のインサイダー取引」。

タイトルバックは裏路地にうごめくネズミの長々としたショット。あまりご丁寧にネズミを撮るので「こいつらは香港の動物プロダクションのネズミだろうか」と考える時間の余裕があったほど。

その後主役3人が真夜中のオフィスに忍び込む導入部分も、掴みとしてはかなりスリリングで優秀。監督2人はここでもまたネズミばりに脱出劇をねちっこく、これでもかと時間をかけて描きます。

あまりのその緊張感に、これはこの調子で映画が続くのかと思いきや、そこは香港映画。
登場人物のそれぞれの事情をざっと紹介すると、どんどんハイスピードでものがたりは展開してゆくんですね。

この盗聴器の性能や仕組みって多分フィクションじゃないんだよね?現実なんだよね?ね?と背筋を寒くしながらも、主人公たちが抱える弱みや気の迷いからハマりこむ、まさに「無間地獄」、なんて愚かで哀しい男たち(涙)。
観ながら香港映画って、やっぱ役者ありきだよなぁとしみじみ思ってしまいましたよ。

ラウチンは親友の嫁さんと不倫しながら、一方でその親友の愚痴を聞く男。警官としての正義を説くもいつしか犯罪に加担してしまってからの振り切れ方などかなり力技な役だったと思います。が、ラウチンの魅力がすべてをカバーしました。あの唐突なプロポーズのシーンで膝まづいて涙浮かべても許せる男は世界中に、ラウ・チンワンただひとりだけ。ブラボー。

ルイス・クーは本当になんとなく人生に流される役がとっても似合う。自分が一番好きなルイスはジョニー・トー監督の「柔道龍虎房」なのですが、この作品もそんな彼のチャームが溢れてました。
よき夫、よき父、よき友人。なのに流れてしまった先が破滅とは。
「オレに何かあったら誰が心配してくれるんだ」と脱ぎかけたズボンのまま、つぶやく姿は真骨頂。

ダニエル・ウーもまた彼らしい役どころ。あんなに美しいのに、すんなりとしたイケメン役なんかでは物足りない。やっぱ薄幸というか運命にしてやられるキャラが一番光るのかもしれません。そんな彼を愛する監督やプロデューサーはほんの少し目を離した隙にもすぐ彼をいじめようとする気がするんですが。またそれが似合っちゃうんだから仕方ないか!

そして彼らとともに印象的に残ったのが90年代のD&Bフイルムでその姿をよく見たツ黴€王敏德(マイケル・ウォン)。

日本だとミシェル・ヨー(当時はミッシェル・キング)と真田広之さんの「皇家戦士」や、シンシア・カーンとドニー・イェンの「クライム・キーパー」アンソニー・ウォンと共演した「BEAST COPS 野獣刑警」なんかが有名でしょうか。
あのいかにもハーフな顔の濃い彼が、巨悪である一大企業の会長というキャラクター。昔よりうんと恰幅が良くなって英語と相変わらずあまりうまくない広東語を喋るこの男の存在感たるや。久しぶりに観た気がするけど似合ってるいい役でうれしかったですよ。
特に、パーティの席上でジョークを交えながらする挨拶のセリフは、その直前のバスルームでのリハーサル風景といい彼の二面性をよく表し、その後の伏線にもなっていて、さすが。うまい、と唸りました。

愚かで哀しい男たちにハッピーエンドなど訪れるわけもなく最後は想像通りの結末。
その人生は煙草の煙のように香港の空にたゆたいながらやがて消えてゆくわけです、屋上の記憶だけを残して。最後のラウチンの涙が切ない。

 

そしてその第2弾として2011年に制作されたのが、「盗聴犯/狙われたブローカー」。

続編といっても役柄ストーリーは全く別もの。
ここで盗聴するのは退役軍人のダニエル・ウー。ラウチンは盗聴されちゃう側のやり手ブローカーでルイスはダニエルを追う刑事。

冒頭のフェラーリの無謀運転やマウンテンバイクとのカーチェイスは興奮したわ!
この飛車特技、さてブルース・ロウかそれとも呉海堂かと一瞬考えたのですが、プロデュサーはイー・トンシン。そりゃ間違いなく呉海堂(ン・ホイトン)だな、と思ったら想像通り銭家班でした。ビンゴ。
ブルースの猛龍特技はとにかくシネマトグラフィ的にオリジナル機材とかが、もんのすごいのが特徴で結構スタイリッシュな絵を作り、銭家班の方はどちらかというと画面はそれよりもっと荒削りでカースタントのテクニック重視なところがある。最近、少しずつその差が分ってきたような気がします。
イー・トンシンのカーフェチぶりと呉海堂のドラテクはどのシーンでもいかんなく発揮されておりました。スゲー。
それにしてもフェラーリをグワシャ!!!とぶっ潰すのは気持ちがええね~、大満足。

1作目より、こちらのほうが脚本は綿密で伏線の回収の仕方が一段と良く出来てる。
認知症の母親の好きな映画アラン・ドロンの「サムライ」すら、息子に与えた影響として考えれば伏線のひとつだったのは良かったです。
ただ、あの母親はともかく超絶イケメンの父親が胡楓(ウー・フォン)さんてのはどうよ、と(笑)。ピンとこないもんだから、なかなか親子って分らんかったよ自分。ま、そんなことはさておき、株の仕組みを上手く利用したその復讐の手口は見ていて爽快。

その分、俳優に過剰に頼らなくても成立したのか、ダニエル・ウー以外の2人は結構演技としては地味めなのかもしれません。(前作はキャラ的に2人に押され気味だったダニエルさん、今回はめちゃめちゃいい役でした)の、代わりかどうか、ここでは悪役商会みたいな「地主会」という70年代から香港の株取引で暗躍してきたジーサマ連中がわさわさ登場。この人らの佇まい顔つき、なにをとっても非常に見ごたえがあり感心、ほんっと憎たらしいったら。
特にそのトップの曾江(ケネス・ツァン)が素晴らしくイイ。

「男たちの挽歌」シリーズや「ポリスストーリー3」でもお馴染みのこの方、ひさびさ見ましたがよかったわ!いやいやいや、荘文強と麥兆輝は悪役を描くのが上手いですね~。

あまりのダニエルの不幸っぷりに「やーめーてー」と言いたくもなったりしたのですが、最後にかすかな救いもあって、さすが香港映画、ある意味胸のすくような1本でした。

「盗聴犯/死のインサイダー取引」、「盗聴犯/狙われたブローカー」、株のことなんか何も分らなくても没問題!香港映画好きは勿論、男達のものがたりについ目頭を熱くしちゃう人なら必見の2本です。

 

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