激戦 ハート・オブ・ファイト(香港・中国、2013年)

ノッてる男は違うぜダンテ・ラム、新しいステージに突入したねダンテ・ラム!

今香港で一番ノッてる監督、ダンテ・ラム。昨年の東京国際映画祭で上映されすごく評判の良かった作品がこの『激戦 ハート・オブ・ファイト』。来年1月に公開されますが、一足早く試写で観てきました。会場は満席で補助席が出るほど盛況。評判と期待の高さがうかがえます。

監督ダンテ・ラムがいつも描くのは何かが「欠けてる」登場人物。
まぁ自分に満足して生きている人は少ないでしょうけど、監督はその欠落したものを抱えた人物をこよなく愛しているようで、基本そこからさらに苛めたり酷い目にあわせたりしています。
しかしこの映画は一味違う。その欠けたものを埋め合わせようともがき苦しながらも希望を持ち続ける、そんな人間の姿を描きました。

極度の銃マニアでもある監督は、前作『ブラッド・ウェポン』においてヨルダンロケで本物の銃器や戦車を使い爆破や銃撃戦をしまくったことである種達成感があったのか、題材をガラリと変えてきました。今度は総合格闘技。エディ・ポンやニック・チョンのトレーニングシーンなんて、この俳優たちの作品に対する凄まじい努力と姿勢をまざまざ見せつけられて胸熱。
特にダンテ・ラムとニック・チョン、この奇跡のようなマッチングはもう誰に感謝していいのやら。本当にありがとうと言いたいです。

いつもなら男2人の話で終始する印象の強いダンテ・ラムですが、ここではもう一人「欠けた」女性が登場します。しかもその母親を支える娘が『ブラッド・ウエポン』にも出演したクリスタル・リー。もうねこの子が素晴らしすぎる。
ニック・チョンの役名「程輝(チン・ファイ)」を「賊輝(ジン・ファイ)」とわざと間違えるとこからクスリとさせられます。賊とは日本語と同じで「泥棒」とか「悪人」とかまぁそんな感じ。

最近の映画で多い北京語と広東語で会話が成立するというシーンも「いや無理して北京語話さなくていいから」などとさりげなく会話に折り込み丁寧な脚本でした。実はいつも「あ、この人は北京語なのね」と映画を見ていてどうしても思ってしまうのですが、本作に関してはまったく気にならなかったのが不思議。マカオが舞台という設定がそうさせたのか、それとも演技がよかったのでしょうか。

とにかくクリスタルちゃんとニックとのやり取りが可愛くてねぇ。2人が信頼を築いていく過程とか繊細でよかったです。劇中このお嬢さんに何度泣かされたか。試写室でもグスグスとあちこちで鼻をすする音が、気持ち分るよおお、私も泣いとるがな。

彼女はこれで2013年の第16回上海国際映画祭では主演男優賞のニック・チョンとともに最優秀主演女優賞を最年少記録(10歳)で飾りました。納得ですよ、素晴らしい女優です。

にしてもニック・チョンっていい俳優。演技の幅の広さもそうですが、彼の持つ説得力ってハンパないです。もちろん9カ月かけて身体をあそこまで絞りに絞ったその役者根性もそうですが、同時になにげない場面での演技がズバ抜けてます。特にクリスタルちゃんの母親を前に狼のお話をしてあげるシークエンスとかひとつ間違うとかなりわざとらしくて寒くなると想像するんですよね、それがこちらまで暖かい気持ちになる素敵なシーンになる。これって実はかなり難しいことじゃないでしょうか。

対戦相手のチャンピオンとしてアンディ・オンが金髪ヘアで出てきますが、彼の動きが別次元に良かったのがなんだか笑えちゃった、さすが本職。試合の場面では本物の格闘家も本人役で出演しておりますが、本当の格闘技と映画として見せる格闘技ってやはり違うでしょうから撮影は色々苦労したんだろうなぁと思いを馳せたりして。

マカオの街並みも美しく、行ってみたいなと思わせる構図が心地よい。
あの名曲Sound Of Silenceが流れるタイミングといい、ラストのクリスタルちゃんとニック・チョンの会話といいどこをとっても一切の無駄がなくすべてのシーンに情感が溢れている傑作。

公開は1月24日から新宿武蔵野館他全国順次ロードショー公開。

私は『クリミナル・アフェア 魔警』→『激戦』という順番で観たのですが、これはやはり制作順に『激戦』→『魔警』と観た方が監督ダンテ・ラムの凄味がわかると思います。幸い、『クリミナル・アフェア 魔警』もこの映画の公開後すぐ2月に六本木シネマートで公開されるので是非あわせてご覧ください。次回作は自転車ロードレースを題材にエディ・ポンと再び組みました。これもめっちゃくっちゃ楽しみです。一皮むけたダンテ・ラム、今一番楽しみな監督の一人です!

あ、最後にこの映画の冒頭、エディが自転車で訪れた雲南省のあの広場は『捜査官X』の成人式が行われたのと同じ場所ですよね?

激戦 ハート・オブ・ファイト公式サイト(予告あり)
シネマート六本木『クリミナル・アフェア 魔警』紹介ページ
香港版予告《魔警》首條電影預告

2014年も残すところあとわずか。みなさまよいお年を!

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