追龍(原題、2017年・香港中国)@HK①- ドニー・イェン 甄子丹 ネタバレなし

実にドメスティックな映画でした。王晶やったね。ドニーさんもアンディ・ラウも、他のキャストもすんごくよかった!!!これは返還前の香港映画ファンも必見。スタイリッシュにあの時代の香港映画が蘇ったよ。ネタバレなしのつもり

王晶(ウォン・ジン)が92年の金像奨作『跛豪(原題)』(レイ・ロイ主演)とアンディ・ラウ主演の『リー・ロック伝』前後編を合わせてリメイクした黒社会もの。監督は、王晶と關智耀(ジェイソン・クワン)。

一足早く香港行って観てきました。前評判でかなり往年の香港映画してるということだったので観客もその辺りの期待が高かったのか、朝8時の回はもちろん昼間は年配率が非常に高し。一方夜9時台にもなるとそこに若い衆も寄って場内満席でございました。

原題の『追龍』と英名の Chasing The Dragon とは、もともとヘロインをあぶって吸引する行為、しかもその最初の瞬間を表す広東語のスラングが語源。そこから英語もその意味を示すようになりました。龍は架空の動物でいくら追い求めても見つけることはできない、やがて飢餓感ばかりをつのらせ決して満足することはない、という解説をどこかで読んだ覚えがあります。

さてその作品ですが、レビューを読むとみんなこぞって「王晶はやっと本気を出した」とか「やればできるじゃん王晶」とか「どうしちゃったの王晶」なんて書いていて、んな大げさなと笑ってたんですが、いざ観てみると第一声が「王晶の本気、とくと見た」だったので人のことは言えない。

というか、昔からおバカ映画を監督することが滅法多くそれが悪目立ちしてしまう王晶ですが、実はこっそり(ご本人はこっそりのつもりではないと思うんだけど)シリアスな映画を撮ったりもしております。2009年にはこの作品の前身ともいうべき『金銭帝国』という映画もあるんですよ、ただヒットせずにそれほど知られていないというだけで。

雨の中捨てられた子犬を抱くヤンキーをほんとはいい奴じゃん!と持て囃すのと似たような現象が、まさに今起こっていて(笑)この映画の宣伝に大いに役立っている部分もある。日ごろの行い(作品)がいい意味で効いてますわ。

さて、この映画の売りのひとつが、ドニーさんが広東省潮州出身の役のためにクランクインの何か月も前から潮州話のレッスンを受けたというエピソード。劇中広東語はなまりどころか義兄弟達との会話はそのまま潮州話だったりする(んだと思う)。

台詞もおもいっきり粗口(スラング、多分日本語では想像もつかないレベルのもの)オンパレード。劇場ではその粗口に反応した笑いが結構起きておりましたが、私には難しすぎて字幕が脳を上滑りするばかり。何回か観たのですが、流れを把握したら最後はもう字幕を追う事もやめました。

大陸では当然普通話吹き替え(配音演員:陳浩)で潮州なまりはなく、その辺りの台詞は結構マイルドになってるかも。どころか、役の設定自体潮州出身ではなくマレーシアのペナン州出身に変わってる!と嘆いてるファンがおりました。なので中国大陸のドニーファンの合言葉は「広東語版を観た方がいいよ、てか観ろ!」

なかで印象的な台詞として「生死有命、富貴在天」というのが繰り返し出てきます。これは孔子の論語から顔淵第十二の五・子夏の言葉として綴られている言葉。ほんま中国人論語好きゃなぁ。解釈としては「人間の生死も貧富も天命によるものやさかい、人の力ではどないもできへんのや」ということでよろしいかと。

以前、この映画の情報としてアクションは少なめと書いたと思うのですが、いやいやちゃんとアクションしてました。ただ、いつものしっかり計算され尽くしたドニーアクションとは毛色が違うというだけで。大丈夫、これはアクション映画のカテゴリーに分類されますよ。今回はマーシャルアーツの達人でないので、ほぼ喧嘩殺法、ドニーさんいわく「カンフーじゃない、マチェーテ・スタイル」とのこと。銃撃戦も多いです。ショットガンをぶっ放すドニーさんはかなり新鮮。

アクション監督はドニーさんで、動作指導に元彬(ユン・ブン)、イム・ワー(厳華)、ユー・カン(喻亢)の名前。メイキングではタイでのシーンにジャック・ウォン(黃偉亮)の顔もあったので、ノンクレジットでお手伝いしていた模様です。

いや、面白かったわ。そりゃ返還前のものと比べると多少ぬるい部分はあるにせよ、想像以上にドメスティックな映画でした。主要キャストがね一部の女優を除き、そんなこと出来るんだ!?と思うくらいほとんど香港俳優。どのくらい香港度が高いかと言うと、ドニーさんの兄弟分3人のうちの喻亢(彼は広東語が喋れない)なんか別人吹き替えなんかしねーよと唖設定にしちゃうぐらいの本気度。

とにかくこの義兄弟たちがよくってねぇ。特に姜皓文(フィリップ・キョン)。彼の演じる大威が表情豊かでちょっと弱い部分もあって秀逸。私のなかではすでに金像奨助演男優賞に決定しております。

その大威の実弟役の細威を演じた劉浩龍(ウィルフレッド・ラウ)がまた可愛いのなんの。兄弟で柄違いのニットとか着ちゃって。この2人に喻亢(演技もとってもよかったよ!)含めた潮州チームが最高に愛すべき男達でした。もっと豪哥ふくめたこの4人の日常を見ていたいと思わせましたよ。


↑左から、啞七(喻亢)大威(姜皓文)伍世豪(甄子丹)阿平(世豪の実弟・李日昇)細威(劉浩龍)

そしてそんな彼等から兄貴と慕われるドニーさんね。当然実在した香港の有名マフィア呉錫豪をモデルにはしているものの、実像から随分改編されてるはず。レイ・ロイの『跛豪』も観ましたが、それともストーリーは違っています。黒社会のドン、しかも麻薬王ということで最初引きうけるかどうかかなり悩んだと言うドニーさん、彼の持つ素の天真爛漫さや真直ぐな部分を前半で活かしており主人公に好感を持てるようになっていたのがよかった。この前半のドニーさんがまた一段とキュートでね。ほんと、何度も言いますが、この潮州4人組の部分はもう少し見たかったわ。

それもある出来事が起こってから雰囲気はがらりと変わり、後半は主人公伍世豪が黒社会でのし上がるとともに内容もぐんとハードになっていきます。

そしてそして雷洛役のアンディ・ラウ。この役も実在の人物・呂樂がモデルで、かつて『リー・ロック伝』で同じ役を演じてから26年ぶりの再演となりました。登場時はまだ警察でも中堅どころ。上司の誕生祝いに黄金の福寿桃を持っていくのだけど、ずらりと並ぶ贈られた縁起物の置物を見ると薄給の自分のが一番小さい。でもそれを目立つ所に置いて、とユーモラスに始まります。

臭小子と上司にバカにされながらも、香港の大物・周爵士の娘婿に選ばれたことから人生が一変。このあたりの立場の逆転には胸がスッとしました。

とにかく全編、言葉がないくらいかっこいい華仔ですよ。最近流行りのツーブロックのヘアスタイルにタイトなスリーピース。スタイルがめちゃくちゃいいぞ!アンディ。

しかもそのアンディとドニーさんの男の友情を縦糸に、潮州兄弟の情とアンディとケント・チェンの信頼が横糸を織りなす。そうこなくっちゃ香港映画。そのうえ音楽がとびきりよくてね、陳光榮(チャン・クォンウィン)と雷有暉(パトリック・ルイ)が担当。劇中何度か主テーマとなるメロディのバージョン違いが流れるのですが、秘かに自分はこれを「愛のテーマ」と名付けてしまったほどにはブロマンス。

音楽もいいけど、カメラとセットがね素晴らしい。カメラはもちろん今作の共同監督の關智耀。よきにつけ悪しきにつけ目立ってしまう王晶なので、ちょっと影に隠れる格好になっていますが、この作品は彼の存在なしにはありえなかったと思います。

一番好きなシーンは、舞台となる九龍寨城を歩くドニーさんの背中越しにじっくりとカメラが追ってゆくシークエンス。

まずは九龍寨城の全景が俯瞰で映し出され、そこにスレスレの角度で旅客機がかすめてゆく。かつて香港に本当にあった風景。しかも!そのタイミングで流れるのが Donny HathawayThe Ghetto !マジでここで変な声でました。ぶはっ!かっこいいいいいい!!!ただでさえ映画で知ってる曲がかかるとテンションが上がりますが、この曲の入ったライブ盤は死ぬほど聴き倒しましたがな。エレピが唸りを上げるぜ!

その飛行機を九龍城の下から見上げるショットに切り変わると、幾層にも違法建築で積み重なった建物をカメラがゆっくりと降りていって中央部の薄暗い広場からぐるりと回りの店の様子を見せる、なかには犬肉専門店も。

そこへドニーさんがやってきて、コカコーラの瓶のふたを開けるアップ。階段を昇るとマージャンをする姐さんに声をかけ、ベランダで宿題をする少女にコーラを渡す。「多謝、哥哥」の声を背中に階段を下りると、半裸の女性が踊るストリップ小屋をすり抜け、手下がうやうやしく開けるドアの向こうは麻薬の小分け作業場。そこを通って弟分に「大威は?」と声をかける。そして扉を開けて食堂の奥にある賭博場へ入り、賭博に興じる大威の肩を抱いて外に連れ出す。

いや、よくぞこの場面に Ghetto を選曲しました。ゲットーというのはご存知の通りユダヤ人街のことですが、後にスラム街や汚いものという意味にも使われるようになりました。九龍寨城にこのダニー・ハサウェイのゲットーとは。センス良すぎっしょ!

ちなみに、ティーザー予告で使われていたかっこいいボーカル入りの曲は Chasing The Dragon というタイトルの陳光栄作曲オリジナル。パフォーマンスは Jeffrey Chu とありましたが、香港の音楽関係には疎いのでどなたの事か捜しきれず。知ってたら教えてください。

と、いう具合に色んな方面でオタクにはたまらんすぎる映画でした。音楽ネタもキャストネタもまだ書きたい事が一杯ある。後でもっとくわしく書きたいと思います。次回ネタバレに続く。

追龍ティーザー予告
《追龍》”跛豪”人物版預告片
【追龍】終極預告 梟雄篇

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