精武風雲 陳真 / (邦題) レジェンド・オブ・フィスト怒りの鉄拳 香港BDにて鑑賞、のちに日本語字幕を試写室で―ドニー・イェン 甄子丹

昨日の朝、いつものようにカプチーノを飲みながらネットでニュースを確認して、最後にキーワードニュースを覗いたらば、ドニー・イエンの武術写真集「甄功夫」が発売されると香港文匯報に記事が。
なんと少林寺(!)や、広州の西関でロケをして写真を撮ったんだそうな。わわわわ。
そして、その印税はすべて慈善事業の寄付にまわすとか。
彼はこれについて「内陸の図書館や学校にも本を寄付して、たくさんの子供たちに功夫とは何かを知ってもらいたい」という抱負を語っています。
また「武術の訓練には近道はないし、それで作りあげた身体は、整形しても決してお金では買えないもの。そのうえに体調管理も重要で、食べたいものを我慢するのは大変」というコメントも。

おお~、ビシっと功夫ポーズを決めたドニーさんの姿が写真集になるのですな。
できたらその型の解説文とかもつくといいなぁ。「北派、蟷螂拳とは・・・」とかさ!
当然、彼のベースである太極拳も披露してくれるんでしょうねぇ。楽しみです。

ファンとしてはちょいとコスプレにも期待してしまいますが(笑)ちょこちょこ漏れてくる写真を見る限り地味なトレーニングウエアといった服装のようです。あ、上半身裸は別にいらないっすからね!(実はあれ少し苦手)

と、喜んでいたら、ウォン・カーウァイ監督、ユエン・ウーピン動作導演、トニー・レオン主演で新たに葉問師父を描いた「一代宗師」の予告編も一緒に見つけてしまいました。見てくださいよ、この痺れるポスター。


これはドニーさんの「葉問1」(2008年)よりず~っと前から企画されていたのに、例によって超スローペースのウォン・カーウァイらしく、ここまで完成が延びてしまったという作品。

予告見ると、かっこいいです!スタイリッシュな映像はさすがカーウァイ監督。アクションもユエン・ウーピンらしく派手で壮大。高いカメラ使ってはるな~。

自分はトニー・レオンも大好きなだけに、どんな葉問師父を観せてくれるのかすごく楽しみ。
こちらはすでに日本の配給会社が購入を決定したそうなので、無事に日本の映画館で見ることができそうです。うれしい。

・・・と、前振りが長くなってしまいましたが、そういうことを自宅で細々やった後に、午後、渋谷に出かけました。
はい、9月17日から東京で公開されるドニー・イェン主演「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」の試写を観るためでございます。

毎日毎日、まぁ~ようこんだけ甄子丹のことばっかり書けますなぁ、と呆れている人もいるかもしれません(少なくとも私のマネージャーの田崎は思ってるはず)
だって田崎さん、今年2011年はマジでドニーイヤーなんすから!毎月何かしら祭りがあるんですよ、ほんとに!

1月は「イップマン」2月は「イップマン序章」日本公開、3月には香港で「最強喜事」ソフト発売(当然すでに購入済み)、4月には「孫文の義士団」公開、5月は「関雲長」観て「処刑剣」公開、6月は日本版「イップマン」シリーズと「導火線」ソフト発売、で7月に入って「導火線」は公開されるわ、すでに中国内陸で「武侠」が公開されて予告だのメイキングだの、どんどん出てくるわ、で今日は「精武風雲・陳眞(原題)」の試写。

もうね、それまでの日本での無音状態からのギャップが激しすぎて、ついてゆくのに必死です。もう少し分散してくれればよかったのに・・・。
いやいや、そんなことを言ってはバチが当たる(笑)。関係各位には、本当に感謝しておりますよ。

さてさて、今年のドニー・イヤーの最後を飾る(いや、まだ9月に1989年制作のチャウ・シンチーと共演したTVドラマの唐突なDVD化が控えていたわ)であろう、「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」。
実はすでに香港BDを持っています。

これは間違いなく「ドニー・イェン プロモーションフイルム」(笑)。
なので、正直に申し上げると、普通の映画ファンにお勧めしていいものかどうか、迷う物件であります。

元ネタは、74年に日本で公開されたあのブルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」。
で、それを95年にドニーさんがリメイクした「精武門」という全30話のテレビドラマがありまして。
今作は、その両方の主人公、陳真が生きていたら、という発想で(その割に、ちょっと年代の整合性は怪しいんだけど)後日譚を撮ったものです。
監督は早撮りで有名な「インファナル・アフェア」のアンドリュー・ラウ。

40歳以下でブルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」という映画をどれくらいの方が観ているかは存じませんが、あれも相当反日色の濃い映画でした(の、割に当時の日本ではヒットしましたが)。
なので当然、今作も強烈です。
どのくらいかと言うと、「イップマン序章」は大丈夫だったよ、という人にもハードルは高いかもしれないくらい強烈。

ですので、上海租界で我が物顔をして非道にふるまう卑怯な日本軍とそれに対し命を賭けて抵抗する中国人、という構図だけでうんざり、という人は観に行かないほうがよろしいでしょう。行くほうが間違ってます。

よって、昔からの香港映画に慣れているアクション好きか、どんな話でも「ドニーさんのオレ様映画上等!」と言い切れる人にだけ、強力にお勧め。
むしろそういう方たちにとっては、胸躍るアクションシーンの数々が約束されています。
そしてそのうえで、ドニーさんがどれほど熱狂的にブルース・リーを敬愛してやまないか分っている人なら、より一層ニヤニヤが押さえられない映画でもあります。

で、ここからはネタバレ。

 

最初はベネチア映画祭のマークがうやうやしく登場。
そういや昨年2010年、67回めのこの国際映画祭のアウト・オブ・コンペでセカンド・オープニング作品に選ばれたんだよね。

オープニングはいきなり戦場のモノクロ記録フイルムから。
第一次世界大戦時、多くの中国人がヨーロッパの最前線で武器も持たずに荷物を運んだり武器を運ぶ仕事に就いた、とあります。
やがて空に複葉機の機影が見える。
両翼にはドイツ帝国軍航空部隊、鉄十字のマーク。
そこから次々に落とされる爆弾。それが着弾し爆発すると画面は、一気に白黒からカラーに。

そしてシーンは混乱するフランス軍部隊のいる建物の中。
「アレー!アレー!(行け、行け)」とフランス語で急かされてドニーさん扮する陳真がいる中国人労働者が弾薬を運ぼうとしているところ。
主人公陳真はパニックになっている仲間を励まし、全員で丸腰のまま戦場の最前線を駆け抜けてゆく。
しかし、肝心のフランス兵は撤退しており、彼らは同盟軍に囲まれて一斉銃撃を受けて万事休す。

おお、戦争映画だ、戦闘シーンだ。
まさかドニーさん動作導演でこんな場面が観られるとはついぞ思ってなかったために最初っから驚かされました。陳真で、こんなシチュエーションがくるとは!
相手は銃だよ~、クンフーでどうやってこの局面を乗り切る!陳真!

と、思う間もなく仲間のいる塹壕にドイツ兵が襲いかかる。
その兵士たちを鉄拳と奪ったナイフで片づけると、そのまま敵が機関銃を構える建物に向かって走り出す!
一斉射撃をかいくぐり、ドニー陳真は戦場のパルクール。
「孫文の義士団」に続いてのこの動きは、まだドニーさんの中でパルクールブームが終わってないことを示しています。
しかし彼以外、誰がこんな超人的なパルクールを考えつくというのか(笑)。
いやね、もうびっくりして口開いたまんま。
奇襲と己の肉体とナイフ2本で次から次へとドイツ兵をなぎ倒してゆく、陳真。
いやっほう!スペクタクルだわ~。

と、同時にこれはかつて彼が制作したTVドラマ「精武門」とは違うものなのだと理解。同じ役名、続編と謳われているけれどまったく別物なのだと。

場面は変わり大戦後の1925年、欧米日本が治外法権を持つ租界を擁する東洋一の魔都、上海。
その最大のナイトクラブである「カサブランカ」。
日本兵のリクエストに応え歌手キキがきらびやかな衣装で日本の唄を歌っていると、突然ピアノのメロディがインターナショナルに変わる。

それを弾いているのは、クラーク・ゲーブルのような髭と出で立ちの我らが・・・・陳真!?

このドニーさんのストレートなダンディズムぷんぷんのコスプレ(コスプレじゃないつーの、役柄役柄)やキキとの微妙な恋の成り行き。
これはファンによっては、素敵~、もしくはちょっとこっぱずかしい、ま、色々な反応があるとは思いますが、多分そんな個人の感想なんかはどうでもいいのです。
だってひたすら「オレを見ろ」という「オレ様全開映画」なんですから!誰が何と言おうとドニーさん本人が格好いいだろ、と思ってやってなんぼですから!

挙句の果てにオレ様は敬愛するブルース・リーのカトーにまでなっちゃいます。

ストーリー上、映画のヒーロー「天山黒侠」なんて名前にしてありますが、いやいやいや、それはまんまカトーだから!
アメリカで当時制作を進めていた「グリーンホーネット」に思いっきり挑戦状を叩きつけるようなコスプレと、ハリウッドでは決して作れないアクションをかましちゃいます。

いいんです、この機会を逃すとドニーさんにカトーするチャンスは巡って来ないんですから好きにさせてあげましょうよ。

私はこの映画の中で、カトーのアクションシーンが一番燃えます。

雨の降るなか、水しぶきをあげて走るその姿。
黒革のコスチュームに身を包んだドニーさんの身体が、濡れてネオンの光を反射する黒いクラシックカーの屋根をひらりと飛び越えキックをかますシークエンスなんざ、息を飲みます。
ここでは、足技もたっぷりと。
お得意のワンジャンプスリーキックで3人の敵を一気に沈めたと思ったら、回し蹴りから踵落とし。
もちろん詠春拳+ジークンドー仕込みの肘打ちと連打に、お馴染みぐるぐるパンチもありまっせ!
このシーンだけ何度観たかわかりません。視覚効果もあいまって本当に美しくてセクシー。

そしてカトーの見せ場は新聞社の室内での闘いへと続きます。
ここでは椅子や梯子、本棚やテーブルを使ったアクロバティックでありながら骨太なアクションが、とにかくやたらとカッコいい。いかにも映画のヒーロー然としております。

ドニーさんはこの「精武風雲」の動作監督をするにあたり相当にプレッシャーがあったと告白していました。
本家「ドラゴン怒りの鉄拳」は、成龍、リー・リンチェイ、そしてかつては自らもリメイクした不朽の名作。ブルース・リャンなんか3度もTVで陳真を演じてるやん。
過去の作品と同じにならぬよう甄功夫を盛り込むことに大変苦心したとか。
その差を出すためのカトーなのです。
どうせならブルース・リーへのオマージュを思う存分、しかもドニーさんギリギリの範疇で漫画ちっくに描いたら、ああいうスタイルになった、そういうことではないでしょうか。

ラストファイトは虹口道場。
ここでは当然、ドニーさんにとって、陳真として押さえないといけないポイントがいくつかあるようで。
まずは白い中山服。ブルース・リーが着ていただけに、はずすわけにはいかんでしょう。
続いて道場ではたくさんの敵に取り囲まれなきゃいけませんが、10人程度じゃ葉問になってしまうし、違いを出すなら数で勝負!とばかりに80人くらいはいたような。
多分、今までで一番多い敵を相手にした陳真ですね。
そして絶対に忘れちゃいけないのがヌンチャクと怪鳥音(アチョ~ってやつ)。
で、必ずどっかで「中國人不是<東亜病夫>!!」と叫ばないとさ!

こうして書いてるだけでお約束が一杯だ。
15年前のドニーさんは今よりうんと若くてダサかったけど、思わず笑っちゃうくらいにブルー・リーに取り憑かれ完全にいっちゃったような、やみくもなパワーがみなぎっていて、そこが魅力でありました。
今作では一度やりつくしたドラマとの差別化を図るためか、それらの約束事を守りながらブルース・リーというよりは甄子丹スタイルの現代アクションの方向にベクトルはむかっています。
当時のやみくもなパワーは影をひそめ、代わりに長い年月がもたらした映画人としての経験と成熟度をそなえていたというわけですね。

その姿は、悲壮感にあふれ眉間にしわを寄せたまま道場に乗り込んだ若き日の陳真と、「ここは変わってないな」とパンツのポケットに手を入れたまま余裕の笑みを浮かべる15年後の陳真との違いになって現れるのです。
要するに陳真もドニーさんも大人になった、ということでしょうか。

自分はTVドラマ「精武門」で彼のファンになっただけに陳真には思い入れがあります。
田舎の農村から妹を連れ出てきた上海で、騙されてばかりいた文盲の陳真。
どんなに困難が襲っても、決して真っ直ぐさを失わなかった青年。

(一応、その頃の陳真をば。見よ、32歳にして堂々と20歳を演じたこの顔を)
霍元甲師父が毒殺される前までのドニーオリジナルの陳真を愛でていた自分としては、やはりこれは陳真であって陳真でない、別の映画だと思うことが一番いいのでしょうね。

あ、別も何も、最初っからこれは大金を投じた壮大な「オレ様全開映画」でしたね!失礼しました。

さて、試写状を送ってくださった宣伝の方が「中国版にはないキキとの交流がこの日本バージョンには入っています」とあらかじめ教えてくれたのですが、観たところ私の購入した香港バージョンと同じでした。
反対に大陸バージョンではどこまでカットしたんだろう。
まさか2人のデートシーンとかまるまるカットしたんだろうか。それではたして話は繋がるのか?
日本人スパイと恋に落ちたからって、それがどうだって言うんだよ、検閲でズタズタにされたのだろう大陸版を思うとなんだかすごく気の毒です。
※分りにくいかもしれないので追記:大陸での公開時は日本でも公開された香港版をカットしたものでした・・・が、現在むこうで流通している物はちゃっかりノーカット版。(正規の大陸DVDは確認してないので分らず)そう思うと検閲の意味って一体なんですかね。いつも不思議です。

ちなみに日本公開版の音声は普通話。
まぁ上海が舞台だから、とはいえ、当然ドニーさんの声ではないのでかなりガックシ。
しかも葉問の普通語とは別の吹き替えの俳優らしく(日本公開の音声はドニー本人の広東語)、せめて大陸版の葉問の人ならなぁと残念だったことを付け加えておきます。
(※追記 のちに調べたところ、この普通語吹き替えの人はイップマンの時と同じ声優さんでした。
わわわ、嘘を書いてしまいました。ごめんなさい。くわしくはまた別の機会に

ついでだから書いておこう。
エロ髭ドニーさんが日本の歌に割り込んでピアノで弾く「インターナショナル」、ソビエト連邦の国歌として建国以来一時採用されていた曲としても知られていますが、もともとのオリジナルはフランス。
労働者階級による世界初の民主国家、1871年パリ・コミューンの蜂起の際に作られ、労働者、社会主義者に革命歌として愛されて、のちにそれぞれの国の言葉で歌詞が訳され世界に広まりました。今でも労働組合運動で歌われることが多い楽曲です。
フランス帰りでレジスタンス活動をしているドニーさんが弾くのにぴったりだし、(本当はクラブにいたヨーロッパの人間も当時の中国にとって立場は日本軍とあまり変わらないはずですが)喜んで彼らに合唱させることで、そのクラブにおいて日本の孤立感を際立たせるためにはちょうどよかったのでしょう。

中国でも、もちろん中国語で抗日闘争下で歌われ文革中には公式行事で必ず歌われた曲です。

ロシア語歌つきインターナショナル
レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳 日本公式サイト
精武風雲・陳真 公式サイト 繁体語/英語

追記:(おまけのおまけ)

このインターナショナル、実は中国のとても有名な曲の中で、そのモチーフを聴くことができます。それは、フィギュアスケートファンにとってはお馴染みの「黄河協奏曲」。

これはもともとカンタータとして1939年に蜀シ星海が作曲したもの。それを1963年にピアノ協奏曲として、中国中央交響楽団が新たに編曲しました。

当然中国人選手を中心として使用され、フィギュアスケートでは(おもに2楽章の一部と3楽章と4楽章)なぜか中国以外の選手にも使われる曲。
とにかく、フィギュアファンにはとても馴染みのあるナンバーであります。(反対にフィギュアファンじゃなくて知ってる人はどれくらいいるんだろ?)

その第4楽章の最後の最後に「ええええ、そんなんあり?!」というほど見事にこの「インターナショナル」が挿入されております。つか、その前に「東方紅」だし!なんやねん、それってくらいの仕上がりですわ。しかもその下世話さがドラマティックさを盛り上げる。
(それこそ、「空飛ぶモンティパイソン」TVシリーズでやり玉にあがっていた時代の中国です。多分文革まっさかりの頃か)

私は最近この演奏動画を見つけたのですが、そんなこんなも含めて、呆れるのを通り越してなんか笑ってしまいました。

あまりに時代をしのばせる、この映像をご紹介しておきます。
(本当はニコ動の方がコメントがおもしろい)
ピアノ演奏は殷承宗。当時の気合の入りまくったパワフルなこの演奏を興味のある人だけ、お楽しみください。

中国中央楽団創作 黄河鋼琴協奏曲 第4楽章 殷承宗(ピアノ)

 

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