キング・ボクサー 大逆転(72年・香港)


↑2005年のカンヌ映画祭のリバイバル上映時のポスター、にしても悪人顔すぎる、ロー・リエ。

2012年夏、ニューヨーク・アジア映画祭のニュースを検索していたらこんな記事を見つけました。
タランティーノやエドガー・ライトに影響を与えた伝説の香港映画「キング・ボクサー/大逆転」(ニューヨーク・アジア映画祭)
この鄭昌和(チョン・チャンファ)監督は韓国映画界の重鎮という存在らしく、NYAFFで韓国の監督として初めて終生功労賞を受賞しました。写真を見て驚き、なんと84歳とな、すごくお若い。

「韓国アクション映画の創始者」と呼ばれる監督は60年代後半香港に渡ったのちも数々の映画を撮り、この「キング・ボクサー」はあのブルース・リーの「燃えよドラゴン」より前に全米で公開され大ヒットを飛ばしたことでも有名です。
この作品がどれほどその後に影響を与えたか、また監督がオリジナリティをだすためにどんな工夫をしたのかは上の記事に詳しくありますので、そちらをどうぞ。
で、わたしそれを読んで思い出しました。DVD持ってるけどそのままだったわ!いかんいかん、自分は一体何本溜めこんでるんだか。で、さっそく観ることに。

このソフトを買った理由はただひとつ、主演が羅烈(ロー・リエ)だったから。
ここでズーズーしくも功夫映画のことをもっともらしく書いておりますけど、正直言うと自分なんか、まったくのド・ド・ドニワカでございます。
人の名前もなかなか覚えられないし、手持ちの映画でも後から「あら、この人これに出てたんだ!」「はらま、この元ネタはあの作品だったのか!」とあらためて驚くこともしばしば。

このロー・リエだってショウブラザーズに触れ名前を調べるまではまったく知らない人でしたが、実はすでにその何年も前、甄子丹のTVドラマ「洪熙官」と「精武門」に出演しているのを観ていたのです。なのに恥ずかしながら当時はまったく認識しておりませんでした。とほほ。
特に「精武門」の張宗棠役が彼だと気づいたのは全30話を久々に見直した結構最近のこと。その時はマジでたまげました。(というか、実は『洗黒銭』にもいたのであります。さりげなさすぎっす!)

インドネシア華僑として生まれた彼は1962年にショウ・ブラザーズのオーディションを受け養成所「南国訓練団」の第一期生として入社。同期にはたしかあの王羽(ジミー・ウォング)もいたはずです。
ロー・リエといえば圧倒的にオリジナル白眉(パイ・メイ)道人のイメージが強いのかもしれませんが(自分も一番痺れたのは「続 少林虎鶴拳 邪教逆襲」の白眉道人)、まぁとにかくいろんな役でもんのすごい数出演している。
功夫映画全盛期の武打星だけあって、2002年に64歳で亡くなるまでに出演した映画は223本、それ以外にもたくさんのTVドラマにも出ていましたから彼のバイオグラフィーを眺めると、まずその数の多さに圧倒されてしまいます。

そんななか、この「キング・ボクサー 大逆転」は、悪役がほとんどだった彼の数少ない主演映画(ほかにもあるんですかね?)。だからゆえ手に入れたといっても過言じゃない。

監督は前述の鄭昌和。動作指導は、劉家榮(ラウ・カーウィン)と陳全(チェン・チュアン)。
まず、謙虚で朴訥とした役のロー・リエがめちゃめちゃ新鮮です。
だって恋仲の師父のお嬢さんと手とか握っちゃうし目なんか見つめ合っちゃうんですよ。「こいつ、いつ、この女をうはははははと笑って売り飛ばすのか」と慣れないこっちはドキドキしたりして(当然主役はそんなことはしない)。
有名な武術大会で優勝するために彼は子供の時から育ててもらった師父の勧めで泣く泣く別の有力な武館に入門することになります。しかし武術を教わるどころか、下働きを命じられ兄弟子にはいじめられる毎日。まさか黙っていじめられるこの人をこの目で見ることになろうとは。「こいつ、いつ、うはははははと笑って井戸に毒を仕込むのか」とこっちはやっぱり気が気でない(当然主役はそんなことはしないんだけど!)。

そんな具合に、とにかくロー・リエのやることなすこと新鮮すぎて私は最後まで目が離せませんでしたよ。
と、同時に、この鄭昌和監督作品は、当時ショウブラを支えた有名監督の胡金銓(キン・フー)張徹(チャン・チェ)楚原(チュー・ユアン)などとも一味違う作風で、なんといえばいいのでしょう、全体的な印象としては非常にオーソドックスで地味といえば地味なのかもしれません。誰も脱がないしね。
でも自分にはその地味さが妙によかったんですよね・・・。最近「少林寺秘棍坊」をはじめ派手なショウブラ映画を続けざまに観たせいでしょうか、なんかこう、暴飲暴食が過ぎた週明けに食べるお粥さんみたいなもので。

と、いってもこのお粥さん、ただの白粥じゃありません。
アクションシーンになると、結構趣向も凝らし、なんといっても頭は割れるわ、血まみれだわ、両目はえぐるわ、切った首を持ってきちゃうわ、なんですけれど(笑)。ま、白粥ハンバーグのせ、デミグラソース添えといったところでしょうか。

なのに落ち着いた風に感じてしまうのはなぜかしらと思ったら、ひょっとしたらストーリーと登場人物のキャラが非常によくまとまっていて破綻がなかったからかもしれません。香港功夫映画の破綻はある意味パワーの源。「あれ、ちょっと変じゃね?」を大いなる力技で補うのが真骨頂なので、そこがまとまってしまうと案外こじんまりしてしまうのか。

さて、ここでの悪役は田豊(ティエン・ファン)。大侠みたいなフリをして心底卑怯なお人です。
彼の暗闇の中での闘いは個性的でおもしろかった。一筋の光があの田豊のギョロリとした大きな眼を捉え、緊迫感がありました。そのあとの因果応報や決着のつけ方も、ほかの監督では出せなかった味なのかも。とにかくいい意味で丁寧さを感じましたよ。
そういえばアンジェラ・マオ姐さんの傑作と呼び声も高い「破戒」もこの鄭昌和が監督なんですよね、これはなんとしても観なくては。

そして、作中敵対する武館が雇ったのはまたもや日本人(最近悪徳日本人のヒット率高すぎ)。しかしこの日本人3人のうちの2人のヘアスタイルと空手はともかく、着物と袴の着方と日本刀の扱いは結構まともだったような。あまりにまともだったのでボス格の「岡田」という人物を演じた俳優はひょっとしたら日本人なのかと思ってしまったほど。鑑賞後調べたら趙雄(Chiao Hsiung)という香港の俳優。
とすると、鄭監督のリサーチが余程よかったのか、動作指導の劉家榮(ラウ・カーウィン)と陳全(チェン・チュアン)が頑張ったのか、それともゴールデンハーベストという会社が(最近自分が見かけたデタラメな着物や袴はほとんどがゴールデンハーベスト作品)いい加減なだけなのでしょうか。いや、待てよ、ひょっとしたら酷いのを見過ぎて相当ハードルが低くなってるだけなのかも・・・。

ラストバトルはロー・リエVS日本人岡田。
裏切りやさまざまな試練を経て秘義「鉄掌」を会得し、大事な人達を殺され復讐に燃えるロー・リエの掌が赤く染まる時、鬼警部アイアンサイドのテーマ曲に乗せて、その怒りが爆発する!
やったれ、ロー・リエ、あんたがいい人だってのにもやっと慣れた、この映画は唯一あんたのモテキ映画かもしれん、あとは死ぬな、ロー・リエ、たまには劇終まで生き残ってみなさーーーい!

初めてのロー・リエ作品としてはあまりお勧めできませんが、ある程度彼の極悪非道ぶりを堪能している方なら非常に楽しめること請け合い。あの「こいつ、いつ裏切るんだろう」というドキドキ感を是非共有してくださいまし。

そういえば自分、遺作となった「金魚のしずく」(2001年)というDVDも手元にあるんだった。今度観てみます。

最後に。
ショウブラ名物、無許可楽曲使用のこの「鬼警部アイアンサイドのテーマ」。作曲はクインシー・ジョーンズだったのね、これまた知りませんでした。うちらの年代には「テレビ三面記事ウィークエンダー」のテーマとしてもお馴染み。「新聞によりますと~!」

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キング・ボクサー 大逆転(72年・香港) への8件のフィードバック

  1. tera-chan のコメント:

    はじめまして。いつも楽しく拝見させていただいております。

    去年、「精武風雲」上映終了後、ロビーで某アクション監督のメイキングを貴方の真横で見ていたり、沖縄国際映画祭の「八星抱喜2012」では偶然にも2列後ろで鑑賞していた者です。今更ながらに、よろしくお願い致します。(笑)

    鄭昌和(チェン・チャンホー)監督に関してですが、龍八さん主宰の「KOREAN POWERHOUSE」と言うブログに素晴らしいインタビュー記事がありますので、(私が言うのも何ですが)よろしかったら、ご覧になって見て下さい。
    http://korewood.blog92.fc2.com/blog-entry-330.html

    PS:
    劉家榮は(ラウ・カーフェイ)ではなく、(ラウ・カーウィン)ですよね。

    • ケイコママ のコメント:

      tera-chanさま
      わわわ、ご指摘ありがとうございました!早速直しました、助かりました。

      鄭昌和(チェン・チャンホー)監督について貴重な記事のご紹介も重ね重ね感謝です。
      激動の時代のなかで大変な御苦労があったのですね、ほんとうに気骨のある方です、感心しました。

      それにしても、そんな身近にいらしたとは。お恥ずかしゅうございます。
      こちらこそ、よろしくお願いします。また色々勉強させてください!

  2. 梅造 のコメント:

    初めまして。
    ところで昨日の夜にフジテレビ近くの某居酒屋で
    男性1人と女性3人で飲んでたのは飯干さん?
    私はとなりで飲んでたものですが、
    あまりにも似てたのでそうじゃないかと思ってコメントさせていただきました。

    • ケイコママ のコメント:

      梅造さま
      はじめまして。昨日はお台場には行きませんでしたので、よく似た人では。
      世の中には似た人が3人いるそうです、私の知ってる所では飯星景子に似たのは中国雲南省、西双版納に1人、10年ほど前に大阪新地にいたホステス嬢が1人、その方が3人目なのかも。

      • 梅造 のコメント:

        飯星様
        残念! 違う人でしたか。
        ショートカットですごい美人でしたよ、ほれぼれしました。
        もう抱きしめたいくらいでした。
        私は残念ながら自分に似た人に出会ったことはありません、
        私も自分探しの旅で中国に行ってみようと思います。

  3. じゅん のコメント:

    こんばんわ。今日飯星さんが出てた
    youtubeの「ファンみんなで虎バン主義」をテレビと並行して見てました。
    なかなか楽しかったです。飯星さんの応援スタイルや、
    ジェット風船は膨らましにくいのが、よく分かりました。
    小さいことにゲンを担ぐ所などは、阪神ファンの特徴出てましたね(笑)
    23日の阪神対中日戦のyoutube中継も楽しみにしてます。
    ではまた

    • ケイコママ のコメント:

      じゅんさま
      ご覧頂いてありがとうございます!
      ジェット風船、本当にふくらませなかった(笑)実は普段面倒だから風船しないんですよねぇ、トイレ一番空いてるタイミングだし。23日も楽しみにしてください、朝日放送精鋭部隊も続々登場するそうです。

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