マジック・ブレード(1976年・香港)

これもかなり以前に観たのですが、なんとなく書きそびれていました。
しかし、気に入ったのは確かで、その後すぐにDVDを買い求めたほど。

監督
楚原(チュー・ユアン)

出演
狄龍(ティ・ロン)
羅烈(ロー・リエ)
谷峰(クー・フォン)
井莉(リリー・リー)
李菁(リー・チン)

武術指導
鮟ヴ|基(ホアン・ペイチ)
唐佳(トン・ガイ)

この作品、金庸とともに武侠小説を代表する作家、古龍の「天涯・明月・刀」が原作。
ティ・ロン演じる傅紅雪は、その古龍の書いた何本かの小説の主人公です。
そしてロー・リエ扮する燕南飛はライバル剣士。

この時代、たくさんの数の武侠映画が製作されました。
そのなかでも武侠小説の世界を上手に表現する監督のひとりが、チュー・ユアンなんだと最近やっと分ってきました。
(この監督は、武侠映画以外のジャンルも多く撮り、また俳優として有名な作品に出演したりもしています)

のっけから、ティ・ロンさん、
「孤独な旅をするものは、真夜中に命を失う。道に迷うと死ぬのだ」
と文学的な台詞を言い放つ。

それを聞いたロー・リエは杯を地に叩きつけると、派手に繰り広げていた夜中の宴会を止めさせます。従者が全員全速力で逃げ去ったあとの、本来のその街の姿である廃墟で対峙する宿命の男ふたり。

「心の準備は?」そう訊くロー・リエに対し
「殺すのに心の準備は要らん。ただし、なぜお前を殺したいのか忘れた」
と答えるティ・ロン。

おお、ハードボイルド。かっこいい台詞だ~。
こんな調子でずっと続くのなら、一度武侠小説を読んでみたくなる、そんな始まりです。

やがてロー・リエが抜刀し、2,3度振るとそれだけで灯籠は倒れ、家屋の窓が崩れ落ちる。
それに負けじとティ・ロンが刀を抜いた。
まるで雙拐(トンファー)のような取っ手がついた特別な刀で、クルクルと刃が廻る廻る。
まさにマジック・ブレード。
これは原作において、速すぎて対戦相手がその刀が見えないという、彼の技の表現なのでしょうか。いや、たまげた。

そこで、思い出したのが「錦衣衛(邦題 処刑剣14BLADES)」(2010)で主人公、青龍が見せた手の平の刀くるくる技。
ああ、あれは、この映画に対する大いなるリスペクトだったのだな、と今更ながら実感した次第。

昔の香港武侠映画や功夫映画を観ていると、時折こうして「なるほど」と欠けていたピースが埋まる瞬間を迎えることがあります。
自分としては、そこもまた面白くて魅力的なんだな。

互いのデモンストレーションが終わったところで、やおら始まる剣戟。
音楽もないなか、互いの剣が「ひゅっ」と空を切る音と「キン!キン!」と打ちあう音。

と、そこへ、いきなり大木が動きだしその幹から、そして地面から手が出てその地中から、別の刺客どもが現れます。
何でもありィの超人技。これぞ武侠映画の得意とするところ。

そんな奴らを見事返り討ちにしたふたりは、なぜか仲良く酒を酌み交わすわけです。
そしてその店では、ティ・ロンがことごとく自分達をつけ狙う刺客を看破ってゆく。

「下にいるあの物乞いは本当は目が見える、刺客だ」
「その傍の女は殺気に満ちている、刺客だ」
「向こうにいる2人の客は、俺たちをいつ斬りかかろうかと相談している」
そして彼の言うとおり、楽しそうに通り過ぎようとした子供すら殺し屋だった!のには笑えました。

そう、この作品の素晴らしいところは、こうしてみんなが大真面目であればあるほど観ているこちらは笑ってしまうとこ。

特筆すべきは、次々登場してくる命を狙う刺客たちとの想像をはるかに超えたバトル。
「琴、棋、詩、画、剣」という彼ら(+鬼老婆)はその名の通りの闘いぶりを披露するわけですが、その凄さは言葉では言い尽くせないほど。
出で立ちやキャラ、武器や闘い方も、その存在意義すら怪しんでしまうくらいにブッ飛んでる。

これを観ていて、なぜか思い出しだしたのが「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」。

当然、チュー・ユアン監督がパイソンズを参考にしたとは到底思えません。だってこれは別にコメディじゃないし。

実は昔の香港コメディが苦手な自分は、デフォルメしすぎた演技に加え「ギャグがくるぞくるぞ」と予感させドッカンくる作風がちょいと不得意。(近作はあまり観る機会がないので保留)
一方、笑わせるつもりなど(多分)ない、香港功夫や武侠ものによく見られる唖然とする展開や登場人物や動きが出てくる作品は、ある意味コメディとして、もんのすごく大好物。

モンティ・パイソンの初期のこの映画から発する狂気的な熱(特にバカバカしさにおいて)は、どことなく60年代後半から70年代の真面目に作ったショウブラ武侠映画に通じるものがある気がする。(ショウブラ離脱後の、ジミーさんの映画もそうか!)

かといって、このマジックブレードには、そんな特別な熱気はありません。
むしろ、よくある商業的なショウブラ映画の1本とも分類できるわけで。
なのに、同じノリを感じさせてしまう香港映画の底力。

しかもパイソンズの場合は狙って作っているのに対し、香港のこの人たちは、まんま「天然」で作りあげてしまっていることに心からの驚愕と感嘆を禁じ得ません。

これは香港映画人の感性がそうさせるのか、それとも原作である武侠小説がすごいのか、どっちだ!

この作品を初めて観た際のメモを読んでみると、最初に「江湖の人ってヘン」と記してある。
その「ヘンさ」に魅かれ、ラストのティ・ロンの台詞に痺れることが出来たなら、立派な武侠ファンへの一歩になるのかもしれませんね。

続けて書いてあったのが、DVDを注文した理由。
「寂しくなったらこの映画を見よう」とある。
この一文がすべてを表しているでしょう。

ものすごくお気に入りの1本です。

おまけ
そういえば、今年2011年、北京電視台がこの「天涯・明月・刀」をテレビドラマとしてリメイク。
楚原(チュー・ユアン)監督作以降、4度めのリメイクです。
ちらりとも観ていませんが、このドラマを観ても恐らくパイソンズを連想したりはしないでしょう。
それだけは、なぜか確信があります。
↓ポスターはこんな感じ。

傅紅雪役は香港の歌手であり俳優の鐘漢良という方だそうで。
つか、よく見るとここに姜大衛(デビッド・チャン/ジョン・チャン)の名前と写真が!
以前はジョニー・トーの「エレクション(黒社会)」やアンディ・ラウのラブコメなどで懐かしいお姿を見せてくれましたが、最近は、内地のTVドラマにも頻繁に出ているようですね~。
あと香港の生命保険会社のCMでも見たよ!(60歳以上からでも入れる、みたいなヤツ)
ご活躍、なによりでございます。

The Magic Blade Trailer 1
The Magic Blade Trailer 2

Monty Python and the Holy Grail-Trailer

環球信諾保險「頤安保」- 姜大衛電視廣告 (音量注意)

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