ヘッド・ショット(Headshot、インドネシア・2016年)

かつて壊滅的だったインドネシアの映画界を復興させた存在でもあるティモ・ジャヤントとキモ・スタンボエルのコンビ「モー・ブラザーズ」。その2人とイコ・ウワイスがタッグを組んだ。インドネシアお得意のゴア描写もたっぷり。そしてあらためて思いました。アクションは編集と音楽的センスが大事。最後はギャレス・エバンスの話。ごめんなさい。

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これを観たあと、『ザ・レイド GOKUDO』が観たくなってしまい速攻観直してしまいました。1作目の『ザ・レイド』は自分の中で経典入り作品なので別格として、今作とGOKUDOをついつい比べてしまうのはよろしくないと知りつつ、どうかお許しください。

イコ・ウワイスといえばザ・レイド。若いうえ主演2作目にして代表作ができたなんてなんつー幸運なお人でしょう。最初から主演とアクションコレオグラファーを兼ね、すでに自らのスタントチームも持っている。それだけ彼には力があるし、ギャレス・エバンス監督とのケミストリーが衝撃的でした。

ザ・レイドシリーズの代名詞となったゴア表現。

実を言えば、その流れは2000年以降にジョコ・ワンクル監督と今作の監督のモー・ブラザーズが、スプラッター要素を前面に出したホラー映画を相次いで製作したことに端を発します。彼等は近年のインドシア映画を語る上では欠かせないキーパーソン。

そこで壊滅状態にあった国内映画復興の兆しを作ったという下地があったからこそ、『ザ・レイド』という世界的ヒットを記録した映画に繋がったことは事実。モー・ブラザーズに関しては残念ながら私は今作と『KILLERS/キラーズ』しか観ておりません。

この『ヘッド・ショット』では、主演のイコ・ウワイスと監督の1人ティモ・ジャヤントがアクション監督としてクレジットされています。

映画界ではアクション監督やスタントコーディネーターといえば、ほとんどをスタントマン出身者が占めております。インドネシアでは本編の監督が名を連ねることがあるんですね。当然、ザ・レイドのギャレス・エバンスもしかり。

中華圏だと、スタントマン出身でない著名アクション監督といえば、ブルース・リーとドニー・イェンくらいなんじゃないでしょうか(ドニーさんの場合、スタントマン参加したと言われるのは1作のみで、デビュー前の肩慣らし的スタンス。なのでスタントマン出身というカテゴリーに入れるには無理がある)。

他にはジェット・リーのデビュー作『少林寺』組にもいるかもしれませんね。スタントマンや俳優でもない有名な人だと、香港のダンテ・ラム監督と大陸のシュー・ハオフォン(徐浩峰)監督位しか私には思いつかない。

かつて一世を風靡したショウブラの巨匠チャン・チェ(張徹)監督が撮る台本のアクションシーンには、一文字「打」としか書いてなかったとか。そのエピソードに代表されるように、昔の香港映画はアクション撮影が始まると監督は武術指導に丸投げして、さっさとスタジオを出ちゃうのが普通だったそうです。

さて、話を『ヘッド・ショット』に戻しましょう。

気に入ったアクションシークエンスがあれば、かなりのことに甘い自分でもあの場所至近距離での看守VS受刑者の撃ち合いはどうかと思う(笑)。そんな風にひどく現実離れしすぎた部分と、目の覚めるようなゴア満載アクションがないまぜになった映画でした。

一番面白かったのは警察署襲撃。

アクションはやっぱ色んなものがゴチャゴチャある所で戦うのが面白い。ペーパーカッターは勿論、タイプライターも武器。いいですねぇ。それにしても中華圏の机に比べインドネシア製は頑丈だ。

後半でイコとタイマン張るのが、GOKUDOの”ハンマーガール”ことジュリー・エステル。彼女登場のナイフアクションは超クール!美人だし動けるしハンマーガールに心ときめかせた人は必見。

そしてバットマンだった ベリー・トリ・ユリスマンがバットを警棒に変え暴れております。警棒にはロマンがありますな。ラスボスはシンガポールの俳優で武術家、スタントコーディネーターでもあるサニー・パン。渋いおじさまです。

困ったことに、この終盤のタイマン三番勝負が自分には長く感じてしまいました。ただでさえ撮るのが難しい広い場所での戦い三連発。実際の時間も4分以上、ラスボスに至っては10分近くもわちゃわちゃしちゃいました。特にアクションの合間に台詞やら入ってきてリズムが悪かったような。

もちろん動きは凄いし俳優自身がここまで出来るとかは、すでに前提です。

せっかく撮ったシークエンスをカットするのが勿体ないという気持ちが製作側にあったのかな。しかし、あえて短く刈り込んで編集をうまくすれば、もっともっとかっこよくなる余地があったんじゃないか、だからこそ残念でもありました。アクションシーンに編集って本当に大事なんだなぁ。

1作目は別格として、GOKUDOに絞ればギャレス・エバンスもアクションシーンはややもすれば長めではあります。しかしハンマーガール、バットマン、クランビット遣いのマスター・キラー3人のシークエンスをコラージュしてリズミカルに緊張感を高めていました。

くわえて長尺ラストバトルの直前のハンマーガール&バットマンvs.イコ・ウワイスをコンパクトにまとめたので流れとしてメリハリが生まれています。

そして何より彼はカメラワークが非常にいいし(長回しを活かすカメラワークと、それを支える俳優やスタントマンの技術の高さ!)、なんといってもアクションの途中で長々思い出話したりしない。

同じようにドラマ部分がちょっとかったるい(アクション映画に2時間越えはキツいっす)この2作に差があるとしたらアクションシーンでのリズム感というか監督の持つ音楽的センスが違うのかもしれません。単に好みの差かもしれませんが、これは編集に現れるところ大だと思ったりもする。

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最初からあまりに完成度が高いので、つい忘れてしまいがちですが、イコ・ウワイスという人はまだ発展途上にあると思います。彼に足りない物があるとすれば、カメラワークや編集、そしてキャラクター考察も含めたアクションワークの経験値という点なのかもしれません。

なにしろセンスあるギャレスが、イコのまだ未熟な部分をアクション監督としてカバーできちゃうもんなぁ。残念ながら、ギャレスのいない今作では、コレオグラフィに音楽的なセンスと戦いから見えるはずのキャラクターの感情が希薄でした。せっかくギャレス・エバンスといういい見本が身近にあるのだし、今後イコが経験を積んで、全体から逆算できる映画的体内時計や立ち回りにフレーバーを+αするような演出面で一皮むけてくれることを切に願いたいと思います。そしたらマジ最強になるよ、まちがいない。待ってるから。

それにしても、ギャレス・エバンスという監督は不思議な人ですね。

最初はシラットのドキュメンタリーを撮るつもりでイギリスからインドネシアに来て、そこでイコ・ウワイスやヤヤン・ルヒアンと出会い、あっという間に『ザ・レイド』という傑作を形にしてしまいました。2作目のGOKUDOはアクション撮影や工夫に関して飛躍的に成長しているのに驚くし、アクションの見せ方をすごい研究してるんだろうなということが分ります。相当オタクですよね。

メジャー映画に関しては、だいたい2年から3年のタイムラグがあるのでGOKUDOで「こりゃ本物だ」と思わせたギャレスがハリウッドに招かれるのもそろそろでしょう。来年にはアメリカの有名スタジオでアクション映画を撮っても驚かないし、むしろ次作のレイド3を優先させたので遅れてるのかも。

映画『ヘッド・ショット』予告

インドネシア映画の変遷については、洋泉社ムックの「アジアン・アクション映画大進撃」の岡本敦史氏のコラムが超お勧め。

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