€一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その1- ドニー・イェン 甄子丹

王寶強という説得力と一個人的武林というタイトルの絶妙さ。

凶悪だよ、ワン・バオチャン、いいよ、ワン・バオチャン!
『一個人的武林』の王寶強くんは最高によかった。最凶。

kungfujungle-01kungfujungle-02
(ネタバレなし、のつもり)
上手い俳優は一杯いる、あんなに空にむかってヤー!と何度も叫ばなくても狂気を発する俳優や鬼気迫ったシリアルキラーを演じることのできる俳優は一杯いる(香港俳優だと年齢はだいぶ上がっちゃうけど)、でもこの役は寶強くんでよかったと思います。彼だからこそ、ほんとの「武痴(武術キチガイ)」に見えました。

香港映画の常で脚本にちょいと甘いとこやゆるいとこがあるだけに、観客の好感を得るためにはキャラが真に迫るか、客が「待ってました!」となるかが分かれ目。その低いんだか低くないんだかのハードルはやはり低そうで高い。
彼はアドバンテージがない分、うまくいけばとても新鮮、ヘタすれば「誰?こいつ」で終わってしまう。でも結果彼でOK、いや、どころかこの人っていつもどこか薄っすら狂気を孕んでいたんだなぁと気付かされました。勝因のうちの50%は王寶強をこの役にしたこと。推薦したのはドニーさんらしいのですが、さすがです。

同時に武術指導したユン・ブン(『柔道龍虎房』『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』)と、トン・ワイ(『男たちの挽歌』『ブレード/刀』『パープルストーム 紫雨風暴』『孫文の義士団』)もそれぞれのアクション班を引き連れて1作中連名で指導するもんだから「ここは俺のやり方で!」とばかりに非常に素晴らしいコレオを発揮。そして少林寺で修業した基礎があるとはいえ、ドニーさんは自分が推薦したんで本気で寶強くんのリミッター外しにいきましたね。
なにせ最後のバトルは30日以上かかったそうで、ドニーさんの映画でかなり長いほうですね。
ウー・ジン、ニコラス・ツェー、コリン・チョウ、アンディ・オンと彼が外したリミッターは数あれど、正直、今まで外したリミッターの中で一番振れ幅はでかかった。「ほら、この人はやっぱ世界最高峰のアクション監督じゃあないの」とちょっと喝采を叫びたい気分。

功夫映画と武侠映画の差ってなんだろうと最近の映画で思うことがあります。近年になるに従いその境界は曖昧で、武侠というタイトルの功夫映画があったり、その逆もしかり。これは功夫といいつつ武侠の色合いが濃い。発端は怨讐でないにしろ、武林世界一決定戦は武侠の世界のお約束でもあります。
当然現代アクションであるからにして、いきなり内功で鉄布衫(『捜査官X』でジミーさんがこれだった。鉄の身体ね)になったりはしないんだけれど、武侠映画お得意の竹林を屹立したアパートに変えそこを跳び移るのには「おお」と思い、また続く主人公がそれを追って飛べずにギリギリで躊躇する様には「これが対になってんのか、お見事」と唸ってしまいました。

テディ・チャン監督は現代に「功夫」をリアルに融合させるという快挙をしてのけましたよ。今まで多くの映画人が手を出したくても出せなかったこの偉業。
それに応えた指導の皆さんの素晴らしい設計はちょっと感激もの。自分が感じただけでも、ブルース・リー、ジャッキー・チェン、サモ・ハン、ラウ・カーリョン、ワンチャイシリーズ、『イップ・マン 序章』、『フィスト・オブ・レジェンド』(ジェット・リーの方ね)そしてドニー・イェンへの(その設計はユン・ブン)オマージュがあったようにお見うけいたしました。いや、この映画を大きなスクリーンと素晴らしい音響で観ることが出来て本当に良かった。

オープニングクレジットから、すべての映像音楽も含めが逆回しってところがもうね、「功夫」を現代に蘇らせるというコンセプトを暗示させてニヤリとさせてくれますよ。
映画はセントラルの警察署に血まみれの男が入ってくるところから始まります。男は傷だらけの顔をあげ警官にこう言うわけですよ。「私は夏侯武、人を殺めました」
ドニーさんは、雌雄を決するプライベートバトルであやまって対戦相手を殺害してしまった元警察の武術インストラクター。懲役5年の判決が下り刑務所に入って3年目。

ストーリーは武痴の寶強が「俺が天下一やああああ」とそれぞれの流派のチャンピオンに挑戦し、しかも「昔ながらの」生死をもって勝負を決めるためにシリアルキラーとなり、同じ武術家ゆえにその意味と次の犠牲者を唯一推理できる立場として受刑者のドニーさんが、警察から逮捕協力の要請を受け仮出所する、という展開。

まずは最初の掴みとして、刑務所内でのドニーさん対17人との戦い。葉問より7人多いこの設計はググっと観客の身を乗り出させるスピード。鮮やか!相手のボスにはマン・ホイ。彼が落とした金属製の椅子の座面が床でクルクル回る音なんかすごいアクセントになっていてセンスいい。あっという間に17人をやっつけちゃうドニーさんの手腕は、わかっちゃいるけど「こいつは高手だ」と印象付けるには充分。

その後の寶強くんのチャンピオンとの功夫も使う技が違い見どころたっぷり。
シー・シンユー(シン・ユー→シー・イェンレン→ シー・シンユー←イマココ)は北腿王。北派の足の遣い手ながら今は現代アートのアーティストとして活躍する彼を同じ足で圧倒する寶強。彼の必殺キックのカッコいいことったら。設計はトン・ワイ。
続いてはタトゥーショップのオーナー、擒拿術(きんなじゅつ)のユー・カン(甄家班のスタントマンから内トラを経て俳優になった人)、この擒拿術というのはよく知りませんでしたが非常に特徴が出ていたのではないでしょうか。設計はユン・ブン。
そしてアクション俳優として名を馳せながらその実態は兵器王のルイス・ファン(しかも役名が洪葉)。最初は剣同士の闘いでしたが、その剣が折れるやその場にあるものを武器にする、ジャッキーと同じ手法とも言えますけどテイストは違います。設計はトン・ワイ。
これらのチャンピオンを彼らの得意技で(これ重要)次々に殺害する寶強。その戦い方も個性が違うとともにセットがまた一々いいんですわ、特にタトゥー・ショップは秀逸。素敵過ぎてどこ見ていいか分らん!あんな内装のカフェがあったら絶対に通い倒すわ。美術監督は毎度おなじみケネス・マク。

この挑戦の順番にも実は意味があるのですが、それはまた次回に。

そして犯人を追いつめたランタオ島大澳での水上家屋を利用した警察対寶強、警察対ドニーさん、寶強対白冰さんの戦いもいい。(ドニーさんパート以外はユン・ブン設計)

ここまででもうお腹いっぱいですが、そのうえにメインディッシュのラストバトルがもっとすごい。
久しぶりに驚いて「わ!」と何度も声が出ましたよ。時間にして多分5分以上はあったと思うけれど、長さなんか全然感じない。途中2人が竹の棒を持って闘うシークエンスなんか『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』のセルフリメイクですよ、しかもリアリティ方面でバージョンアップ。ドニー・イェンというお人は本当に才能あるアクション・コレオグラファーだと叫びたい、いや、叫ぶだけじゃ物足りないから誰かの肩をガシッと掴んで思い切り揺さぶりながら叫びたいです。
もうね、隅々までスリリング。雨上がりの猛スピードで車が行きかう高速道路という設定が痺れます。このシチュエーションはテディ・チャン監督のアイディアですが、ありがとう監督!

正直、ストーリーにはそれほどヒネリはありませんが、こと功夫に関してはすごい伏線と意味がぎっしり詰まった作品です。現代における真功夫の姿として、それぞれのチャンピオンが武館を開いているわけではなく武術とは関係ない仕事をしているという部分ひとつとっても、いかに深く監督が功夫を思い理解しているかということがうかがえます。商売としてでない功夫、現代の武林はまさに『一個人的武林』なのです。そしてそのなかで狂気にというか原理主義に至った武術家が王寶強演じた封於修の姿です。
彼は、ドニーさんを守るため犯人に挑む妹弟子の白冰さんに「あんたの功夫はただの踊りだ、本当の功夫は殺人技なんだよ」と叫んで彼女に剣を突きたてます。そして劇中何度も「既分高下,也決生死(生死を以て雌雄を決する)」と言います。しかし、それはまたかつて対戦相手を殴り殺した主人公夏侯武の持つ一面でもあるのです。

封於修と対峙した王者達も彼の狂気を笑わずに結局は真剣に勝負するわけで。「誰が天下一なのか」それを見極めたい本能は武林に生きる者の宿命なのでしょうか。しかし現代においてはその本能は何の役にも立ちません。そしてその本能を超えたところにまた、功夫の本質は秘められている。
『一個人的武林』はそれゆえに極限に孤独で、それゆえに安寧である。監督の言いたいことは非常に伝わってきました。多分、観れば観るほど好きになる作品です。時間がかかってもいいから是非日本公開してください。

ところでこのページに貼ったティーザーポスターいいですよね、ポチるとかなりでっかくなりますが、よく見ると拳の後ろのドニーさんの横顔に○○拳とものすごい数の功夫流派の名前がずらりと並んでいる。知らん名前ばっかりや。一見シンプルですが凝ってるなぁ。

追記:アクション監督の名前はなんとなくドニーさんが代表した形になっていますが、そんな風に大御所の動作導演が寶強くんのアクションを分担するなか、ここでは甄家班の古参、イム・ワー(嚴華)さんの名前がこのベテラン2人に並んであります。本当は当り前なのかもだけど・・・よかった!(台湾金馬奨では、動作設計賞にノミネートされたこの作品の代表として彼はレッドカーペットを歩いたりもしました)武器を扱わせたら天下一品、高速道路でのバトルでもイム・ワーさんのアイディアはたくさん詰まっていることでしょう。

本作は、第34回香港電影金像奨において最佳動作設計を受賞しました。当然受賞した4人の中にイム・ワーさんも入っています。やった!ファンとしてもとても嬉しい事です!おめでとうございます!

さてこの『一個人的武林』書くこといっぱいあるよー!第二弾三弾と続く(はず)

関連テキスト
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その2- ドニー・イェン 甄子丹
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その3- ドニー・イェン 甄子丹

追伸:長い事、サーバーの引っ越しにかまけて放ってありました。すみません。
実は中国語が激しく文字化けしてまして・・・これ全部確認して直すのか・・・と思ったら凹んですっかりそのままに。自分でも直したりしたのですが到底追いつかず。
もう別に文字化けしたままでいいや!と開き直りました。そのうちちょいちょい直すことにします。
やっと再開することになったので、どうぞよろしくお願いします。
過去記事読んで文字化けしてる部分を見つけた方はよかったらお知らせください。自力で直します。

カテゴリー: film, 功夫映画, 甄子丹 タグ: , , , , , , , , , , , , , , パーマリンク