映画 ブラッド・ブラザース 刺馬(1973年・香港)

ご存知武侠クンフー映画の巨匠、張徹(チャン・チェ)監督の代表作のひとつ。

監督
張徹(チャン・チェ)

主演
狄龍(ティ・ロン)
姜大衛(デビッド・チャン)
陳觀泰(チェン・クアンタイ)
井莉(チン・リー)

動作指導
劉家良(ラウ・カーリョン)
唐佳(トン・ガイ)

これは、07年にピーター・チャン監督で<ウオー・ロード/男たちの誓い>というタイトルで、ジェット・リー、金城武、アンディ・ラウ主演でリメイクされた作品の元ネタになった映画。

ショーブラザースの作品は00年以降、日本でもDVDが発売され、今まで噂にしか聞いたことのない映画もたくさん観られるようになりました。
私自身はそれほど多くのショウブラ作品を観ているわけじゃないけど、最近はなぜか無性に好きになってきました。これはハマっていると言っていいのかも(何をいまさら!)。

カメラはチェ監督に欠かせないと言われたカン・ムートー。
この人実は日本人。本名宮木幸雄。当時は何人かの日本人カメラマンが香港に渡りたくさんの映画を撮っていたことは有名なことなんだそうな。
当時あまりなかった手持ちカメラでの長回しは、闘いの緊張感を否が応にも盛り上げます。

2011年のカンヌ映画祭にて唯一の中国映画として特別上映された<武侠>を監督したピーター・チャンがこの監督について「自分は武侠映画のファンというより、チャン・チェの描くヒーローが好きだったんだ」と語ったように、おそらく男を描かせたら天下一品の監督のひとりだと思います(エグイ凄惨なシーンがお得意だけどね!)。
そんな監督の代表作ですからねぇ、この刺馬でも3人の個性の違う男を上手に描きわけています。

デビッド・チャンは相変わらずのニヤニヤ顔が活きている。
この人の魅力はなんといってもその笑顔。シリアスな表情と笑顔のギャップが大きくてそこに女性はまずやられちゃう。そのうえに、その笑顔も底抜けに明るいわけじゃなく、どことなく寂しさを感じさせるという。
当時、香港東南アジアで女性を中心にものすごい人気だったそうですが、さもありなん。見ていると所々、トニー・レオンに似てるなと感じる表情もあったりして、中華芸能界における人気男優の系譜を垣間見た気になりました。
彼は92年の、<ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ2天地大乱>にも孫文の同志である陸皓東役で出演していて、いい感じに年齢を重ねているようです。
んで相変わらずのニヤニヤ顔というよりは、なかなか味わい深い笑顔(笑)。自分はこの映画何度も観てるしソフトも持ってるけど、実は長い間、あの役が彼だと言う事に気がつきませんでした。その時は一切アクションしなかったしねぇ。不覚です。

チェン・クアンタイは、相変わらず非常に男くさい役どころ。
関係ないですが、Take2の深沢邦之さんは、この若いころの髭のないクアンタイに似ているのではなかろうか、と常々感じております。とくにちょっとした横顔なんかが。
何度かご一緒に仕事をした事もあるのですが、その度に「似ていますね!言われたことありませんか?」と話しかけたい衝動を抑えるのに必死です。
ですが、そういう話をしても、多分、「チェン・クアンタイ、誰ですか?それ?」ってことになるのだろうなと(笑)言うのを躊躇して未だにそのお話はしたことがありません。
いつか彼に言う日が来るのだろうか、いや、ないんだろうな、きっと。

この作品のクアンタイさんについては朝廷の兵士、しかも結構な上官になってもなお、出陣するのに上半身裸で盗賊テイストを残しているのに少し笑ってしまいました。
ワイルドで相変わらずかっこよいのですが、わかりやすい朴訥というか単純な人物として描かれていて、もう少しヒネリがあれば後半の悲劇性は高まったかなと思ったりもしました。
とくに私は<少林虎鶴拳>のアットホームなクアンタイさんが好きなので、このようなステレオタイプのワイルドさについては、ちょっぴり残念な部分ではあります。
これは多分監督の個性の違いですかね。

そして主役の中で野望と裏切りの男マーを演じるのは、ご存知ティ・ロン。
いやはや、お美しい!なんでしょうか、あの目の覚めるような美男子ぶりは。あまりのお美しさに、登場するシーンなんか思わずちょっと口あんぐり。

とにかく、彼が色気のある武打星のひとりであることは間違いありません。
男前の俳優というのは世の中、腐るほどおりますが、面白いもので、こういう色気というものは、あとから取ってつけることのきかない部分でもあります。
やはり持って生まれた才能なのでしょうね。まさに神様からの贈り物。
この撮影の助監督に、あのジョン・ウーがいたことは有名ですが、彼はのちに自分の監督作<男たちの挽歌>でこのティ・ロンを主演で起用しています。この作品から13年後のことですが、相変わらず色気のあるところを見せてくれていましたっけ。

さて、この作品では、チェン・クアンタイ演じるホアン・チュンの嫁のミラン(チン・リー)が重要な鍵になるキャラクター。
しかし、このチン・リーさんは当時一体何本のショウブラ作品でヒロインを演じているのでしょう。私の観た数少ない作品のほとんどは彼女がヒロインなような気がしてきたぞ。

ともかく、作中このミランとマーが互いの気持ちを知る場面があるのですが、これが結構押さえた感じで描かれていて大変よろしかったです。
いきなりガバっと抱き合ったりせずに、そっと顔に手をやる、それくらいの方がエロティックさは絶対に出るよなぁ、うん、うん、そうだよなぁ。
ハリウッド映画なら間違いなくキスしてるし、イタリアのマカロニウェスタンなら(Cイーストウッド除く)そのまま互いに洋服脱いじゃうようなシーンです。ここをこういう感じに描くのは、日本の映画か、まさしくクリント・イーストウッドくらいじゃないでしょうか。

武術指導は、ラウ・カーリョンとトン・ガイ。

ラストの復讐のバトルが非常にいけてます。まず、刺さったナイフを抜かずに闘うティ・ロンを見てると「そうかそうか、ここで抜いたらむしろ血がドバッと吹き出して致命傷になるのか」となんとなくそんな風に思えてくるから不思議。
いざ対決になった時に、総督の衣装をはだけて登場させるところなんざ、よくわかってます。
ワイドショットで延々にこの二人の闘いが丁寧に映し出されて、非常に見ごたえがございました。

ラストは、マーを暗殺したデビット・チャンが処刑されるところで物語は終わるのですが、その処刑した役人の嬉しそうな笑顔でフリーズするとこなんか、当時としては相当斬新だったんだろうなと想像します。

結局義兄弟の契りを交わした3人の男たちは皆死んで、あとには真実も彼らの生きた証も意味のないことと思い知らされる。
大きな歴史のうねりの中ではたった3人の男たちの生きざまなどは権力に対して何の影響力も影も落とさない、そんな残酷な現実を監督は上手に表現していて、さすが巨匠といわれるだけはあります。その主題は、ウオーロードでピーター・チャンにもきちんと受け継がれていましたね。

とにかくこの主役3人が非常にカッコいい。
もうね、嫌ってほど男くささにあふれかえっていている映画です。

ブラッド・ブラザース予告編

 

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