ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ2天地大乱  長年にわたり自宅で様々なソフトで鑑賞、その後劇場のデジタル上映で ―ドニー・イェン 甄子丹

まぁ、なんだ、本当に2011年はドニーイヤー。

葉問1,2が公開、孫文の義士団と錦衣衛公開、んでひょっとしたら9月に精武風雲も公開かと言われるなか、シネマート六本木でひっそり行われている香港電影天堂スペシャル。そこでも、あの不朽の名作ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナシリーズが1~3まで公開。まさか、今頃ラン提督をスクリーンで観ることが出来るとは夢にも思っていませんでしたよ。なんという怒涛のドニー波状攻撃!!!

で、さっそく第一回めの公開日にいそいそ行ってきました、ワンチャイ2天地大乱。

お客さん一杯かと期待したんだけど、案外そういうこともなく(笑)客層は見事に年配率高し(笑)。でも隣の初老のオバサマ4人組は昔にこのシリーズのファンだったらしく上映前のおしゃべりで「イ―さんと黄飛鴻は血がつながってないのよねぇ」とか、「シリーズ3まではこの俳優さんだけど、その後は違う人がやってたわ」などと、なかなか渋い会話をしておられました。

さて肝心の映画ですが、自分ン家のモニターでさんざん観た作品もこうやって映画館で観るともう全然違う。

なんといっても懐かしのゴールデンハーベストの「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、パパパパラ~」っていうクレジットがスクリーンに登場しただけで一気にアドレナリンが噴出(笑)。まさかこのクレジットを再びスクリーンで観ることが出来るとは。

デジタル上映は初めてで、おそらくBDかDVD上映みたいなものではないかと画質は期待してなかったけど、問題はそこではありませんでした。せっかくゴールデンハーベストのクレジットで胸を高鳴らせたのに、テーマソングの「男兒當自強」の音響のショボさに一気にガックシ。いやいや、そこは肝でしょうよ、ここでまず盛り上げてくれないと!劇場全体に男兒當自強が鳴り響くことを期待していた私はそれでかなり気落ちしてしまったのであります。

本編自体はそんなに音響悪いと感じなかったのに、クロージングの成龍の男兒當自強になったら、またショボくなってしまい、歌の部分だけ音響がガクっと落ちるのはソフトの問題だったのでしょうが、本当に残念でした。

しかし武打片はスクリーンで観るに限ります!そのひとつひとつの動きはやっぱり劇場で観るために作られているんだと言う事を実感しました。目の前のでっかいリンチェイが長袍の裾をぐっとたくし上げ、見得を切るだけで「おおおおお」と鳥肌。

白蓮教とのストリートファイトでの黄飛鴻師父の見事な扇子さばきやら無影脚やら、もうね、のっけから「至福の時」ですわ。我が家のモニターで観ていては気がつかなかったセットの細部とかエキストラの衣装とか佇まいとか、とても新鮮。

さすがゴールデンハーベスト作品。当時の香港映画としちゃ、めちゃ金かかってる!そのうえ、ロザムンド・クアンはいちいち可憐だわ、リンチェイは萌え死にそうなくらい可愛いわで、やはり観に行ってよかった。

しかし、こうして見るとツイ・ハークって才能ある。本編の始まり、白蓮教の少女のアップを観ただけでそう分る。混沌とした世界観を描かせたら天下一品やね。

私は雑多な人々が飯屋で食事しているところに流しの胡弓弾きの爺さんが歌う場面がとても好きなんだけど、その唄の内容とカットバックで入ってくる殺伐としたシーンは何度観てもいい。あれだけで充分、清朝末期という時代と広州という土地の混乱ぶりが伝わってくる。だからこそ、その後に登場する広東省の役人ラン提督の立場や考えが理解しやすいようになっていて、彼がただの乱暴者の悪役でない事を観客に知らしめることができているわけです。うまいなぁ。

さて、ここでアクションシーンの感想です。

あらためてこの作品を大きなスクリーンで観て思ったことは、この先映画でもうこんなアクションシーンは作れないかも、ということ。

特に感じたのは「くまきん」こと熊欣欣が机積み上げて「祭壇だ!」とか無茶ぶりするシーン。今ならこの場面ほとんどCG処理ですよねぇ。それをあのワイヤー処理だけで全部描き切るって、今、そんなことが出来るんだろうか。そんな人材がいるのだろうか。てか、そんなことが許されるのだろうか。そりゃ補助となるワイヤーは使いまくりっすよ、でもさ、机も人も何もかもみんな本物じゃないの。しかもグラつく机の足、一本一本から、すべてのものをちゃんとカメラで押さえてある。なんという気の遠くなる作業でしょう。そう思うとやっぱすごい作品なんだわ!

それを作ってる人達の心血を注いだ努力を考えると、こう、なんというか、この作品にかかわった全ての人へのリスペクトの念が次から次へと沸いてきてしまいました。

それにしても、ユエン・ウーピン、不安定なところでアクションさせるのホント好きやね~(笑)。あのグラグラの積み上げた机のシーンを見てて(しかもそのうえで美しい見得を切るところまでお約束)、その軸のブレなさに感服いたしました(笑)。香港アクションの真髄として、この「不安定な」グラグラは特徴的な要素のひとつだよね!

こうして20年の時を経て見ると、主演のリンチェイも共演のドニーさんも監督のツイ・ハークもアクション監督のユエン・ウーピンも、そして香港映画の持っていた勢いも、みんな、みんな、ある意味一番いい時に撮った作品なのかもしれないなぁ。

さて、そんなしみじみしてしまった流れの中ででてきたリンチェイとドニーさんのアクションシーンですが、このふたつのシーンについては普段からさんざんネット動画や自分のソフトなどで目を皿のようにして観ているせいか、むしろほかの場面より新鮮味に欠けてしまいました。しかしこれはひとえに自分の所業のせいなので文句は言うまい。でもさすがにラストバトルで布棍をはらりと出した際には「きた!」とつぶやいてしまいましたが(笑)。

ドニーさんの著書「ドニー・イェン アクションブック」(キネマ旬報社)で彼はこのラストバトルについて、衣装が豪華で動きにくく特に玉飾りのついた帽子はしょっちゅう吹っ飛んだりずれたりして苦労したと語っていますね。そしてチャン・イーモウ監督の『HERO』でリンチェイと彼のやったことは実はこのワンチャイですでにやりつくしていて、テンポとパワーはワンチャイのほうが優れている。当時ドルビーがすでにあり、撮影技術も現在のレベルならさらにすばらしい出来になっただろう、とも言っています。

ああああ、今の技術で撮られたらこのバトル、どんなことになるのか想像しただけで興奮してしまいます。

男兒當自強の音響にちょっとがっかりしちゃったけど、スクリーンでこの映画を観られたことには心から感謝します。やはり、たくさんの人がいて同じせりふや演技で一緒に笑うってすごく楽しいもんね。

帰りはなんだかとってもウキウキしてしまって、自分のi-podの男兒當自強を聴きながら六本木から40分かけて歩いて帰ってしまいました。私の功夫プレイリストにはこの曲の様々なバージョンが入っておりますが、実は一番好きなのは男性合唱団によるワンチャイ3のこのナンバー。聴きながら「この先、自分の人生にものすごい困難がやってきて死にたくなったら、絶対にこの曲を聴こう」となぜか強く決意してしまったのでした(笑)。

しかし、このシネマートの香港電影天堂スペシャル、何気にすごいライナップなんだよね。なんだか勢いでレスリー・チャンのチャイニーズ・ゴースト・ストーリーシリーズや男たちの挽歌シリーズも観に行ってしまいそうです。

やっぱ、この頃の香港アクション映画はいいなぁ!

 

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