TAICHI/太極 ゼロ TAICHI/太極 ヒーロー(2012年、香港中国)

うわわわわわああああん、おもしろかったよおおおお!!!太極ゼロと太極ヒーロー。

これはむこうのティーザー予告をひと目見た時から、絶対に観る!と決めてた映画。
もうね、世知辛い世の中でひっそりと単館系で公開されているこの作品のタイトルを知っていて「面白そうだなぁ」とチラリとでも思った人は今すぐにでも六本木か心斎橋のシネマートに行ってください。

太極拳というと、かつて中国のイメージ映像に必ず登場した老若男女がゆったりとした動きをみせる健康体操、そのイメージが強い方が多いと思います。あの早朝公園でやっているのは戦後中国政府がそれまで習得の難しかった武術である太極拳の基本動作を元に万人向けに簡単にできるよう新しく作ったもので(これは簡化24式とか制定拳などと呼ばれている)、実は古い歴史を持つ武術としての太極拳とはまた違うものだったりするのです。

さて、今回の主人公、楊露禅は、直系にしか相伝されなかった伝統的な武術「陳式太極拳」の弟子になり、その後改良を加え清朝末期に広く普及した人物としても知られる「楊式太極拳」の創始者。ですが、そんなことは理解してなくてもまったくもって無問題。

だってこれを観て即思い出したのが『スコット・ピルグリム€VS. 邪悪な元カレ軍団』と『アメリ』っすから。さすがスティーブン・フォン。さしずめ『楊露禅 VS. 邪悪な元村人と列強軍団』という趣。
なんかもうテンコ盛りで何から書けばいいのかわからない(笑)。あの勢いと底抜けに明るい感じは文章にするのは無理なので2本まとめて箇条書きにて失礼。

・予告で知っていたけど、まことにスチームパンク。しかもジブリ。決して大友克洋ではない。

・まさかのオスカル。もうねその時の自分の動揺ったら!

・と、いうことはエディ・ポンは・・・と、考える前にその尖った顎に目が釘付けに。顔についた傷の変化がよかった。

・登場する人物にいちいちつけるキャプションが一瞬すぎて半分以下しか識別できず。
「武術大会金メダリスト」とか「無間道」とか「功夫映画界の宝」とか「成家班」「黄飛鴻」「鬼脚」という単語くらいか、チッ。それによると相当数の武術チャンピオンと実際の陳家拳第12代傅人とかも出演してました。びっくり。こうなったら近々発売されるというソフトで、全部確認してやる~。

・アクションシーンにも技の名前とか、重心がどこにあるか、などキャプションがマンガ風に入っていてゲーム感覚?おもしろいおもしろい。これを本格的な功夫シーンでやっちゃうところに新鮮味がありました。このアプローチは絶対に長く武打片を作り続けた人では思い付かないと思う。

・かといって別に茶化しているわけでもなく、功夫映画へのリスペクトも感じられてカメオ出演者も大変豪華。ブルース・リャンとかフォン・ハックオンとかくまきんとか!それぞれに丁寧なキャプションもつき、見せ場もある。

・他にもスー・チーやアンドリュー・ラウ監督、ダニエル・ウーなど「お!」と思わせる顔ぶれ。最初誰だか思いさせなかった長老が途中『Mr.BOO アヒルの警備保障』の社長の一人息子だったフォン・ツイファンと思い出してやっとスッキリ。そういえば『アクシデント 意外』にも出てました。つかゴールデンハーベストの~星シリーズの方が有名かな。
なんて暢気な事言ってる場合じゃなかった、後から気がついたヒーローの方のクレジットにパトリック・ツェー(ニコラスの父)の名前。ああああ!あの陳氏十世!こっちの方が驚愕。

・レオン・カーファイ、素晴らしい!いい役でした。アクションも決まってる。彼は本当にいい歳の取り方をしています。

・アンジェラ・ベイビー、kawaii !!!彼女の新作『在一起』を持ってますが、断然こっちのほうがいい。ツンデレのキャラもキュートでツンデレマニアにはたまらない仕様。

・音楽がいちいちすてき。うお、そこでこの曲使う?という意外性に痺れます。担当は「西部警察」「大奥」の石田勝範氏、そういえば画皮2もこの方。

・こういう映画で西洋人が出てくるといまだにベイ・ローガンの姿を捜してしまう自分に笑った

・『グランド・マスター』でチャン・ツィイーが披露した八卦掌もふんだんに出てくるよ!カッコいいよ!

・辮髪だ~~~辮髪、大陸のTVドラマをあまり観ない自分には映画での辮髪祭りはウェルカム、しかも美形揃い

・誰がなんといってもユン・ピョウだ!ユン・ピョウ!

主演の袁曉超(ユエン・シャオチャオ)君は2008年北京オリンピック武術トーナメントや2010年広州アジア大会の長拳部門金メダリストという輝かしい経歴を持つ本物。
監督がイメージしたのは誰が見ても分った通り、若き日のリー・リンチェイでしょう。
プレッシャーは相当なものだったと思いますが、頑張りました。今後の作品にも恵まれることを願います。なんとなくもう一皮むけるとスゴイ人になりそうな予感。

実は、予告やメイキングを観ていて一番心配したのは、これだけの武術家や武打星を使いながらワイヤーたっぷりの(いや実際たっぷりだったけど)ゲーム風やアニメ風に仕上がっている気がして果たして食い合わせはどうなんだということ。
しかし、そこはギリギリのラインでセーフ、どころかワクワクしました。
まず、キャプションは「!!」と思うほど使われてたけど、肝心のアクションは人物をVFXで加工したり不自然なカメラアングルなど多様せず、動ける人はきちんと、そして動けない人はちゃんとダブルを使っていてひと安心。
当然ファンタジックなシークエンスもたくさんありましたが、自分としては充分許容範囲。サモハンいい仕事しました!さすが!

で、ワイヤー使いまくりなんだろうなと結構心配だったユン・ピョウとユエン・シャオチャオとの不安定な場所でのアクション。豪華な宮中料理のインサートも効いていて、終わってみれば一番印象に残ったシーンになりました。ユン・ピョウ、素晴らしいいいいい!!またこんな素敵なユン・ピョウを拝めることが出来て心から嬉しいです。

もうね、凄く気に入りましたこの映画。なんといってもチラリとしか登場しない脇役までキャラがみんな立っててすごくいい。どうしても派手な絵作りや外連味のセンスに目が行きがちですが、実はその辺りに一番フォン監督の才能を感じた次第。すごいなぁ。この能力はチャウ・シンチーに近いのかも?とまで思ってしまいます。

結構な制作費をつぎ込み、三部作の予定として作られた映画ですが信じられないことに中国香港ではそれほどヒットしませんでした。とほほ、なんでや~。ものすごーく不思議です。
そのためにひょっとしたら三作目の撮影は難しいかもという噂もちらほら。ええ~、こっからが見せ場の連続じゃ?
なぜこれが気に入らないのか、自分にはよく分らないのですが、もしかしたら功夫映画慣れしてるだろう向こうの人達より日本人の方がうんとこの映画が気に入るかもしれません。
いや、むしろ功夫映画オタクよりアニメやゲームの世界に慣れ親しんだ人(自分はそこが弱いので元ネタがあったとしてもよくわからない)や、外連味のある絵作りに燃える人、ファンタジー映画好きな人にこそ観て頂きたい作品です。この魅力的な融合をぜひ体感してください!

《太極》前導預告片(國際繁體中文版)←この1分ちょっとの動画で絶対観たいと思った
Tai Chi Zero clip Tofu Fight!—太極,從零開始。 豆腐大戰。
↑実はこの陳家拳第12代傅人の申思というお人に、非常にスター性を感じました。
《太極1從零開始》幕後特輯:這不是太極
《太極1從零開始》幕後特輯:機械物語

 

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