伊藤若冲の墨絵

友人と老舗の文具店に冷やかしに入ったら、彼女が書道用具を眺めてる。珍しいなと思っていたら、その気配を察したのか「いや、ちょっと書道を始めようかと思って」という返事。
そういえば、別の友人も母親へのプレゼントに筆でも買おうかなと言ってたような。

つい最近もテレビを見ていたら、最新書道グッズとやらの紹介がありました。
書き上がったものを乾かすことなしに巻き込んで仕舞える商品とか、墨ではなく水で何度も利用できる半紙とか。
最近、どうやら書道がブームらしい。

子供の頃は書道の時間がすごく苦手だったのを思い出します。
まあ、字が上手くないというのもありましたが、なんといっても書き始めるまでに墨を磨らなきゃいけないというのが、とてつもなく面倒な気がしました。

陳列棚に並ぶ硯や墨を彼女と一緒に見ていたら、その造形の繊細さや美しさに改めて驚かされます。
もちろん素晴らしい逸品になればなるほど、その値段にも驚かされるわけですが(笑)。

書き始める前にゆっくりと墨を磨る様子を想像すると、そんなに悪いものではないはずだと歳を重ねた今なら思えます。
子供の頃ならなんの必要もなかった、「心を無にする時間」が実はとても大切なのだと理解できるようになったから。

墨といえば、先日千葉市美術館で行われた<伊藤若冲―アナザーワールド展>に行ってきました。

伊藤若冲というと今や若い人たちに一番有名な日本画家ではないでしょうか。
いたるところで展覧会が開かれ、宇多田ヒカルのPVにも使用されたことで一躍ひろく知られることになった<鳥獣花木図屏風>の見事なモザイク画が有名ですが、そういったユニークな技巧のほかに動物植物をじっくり観察してその生態を写し取る「写生」の画家としても名を馳せました。
白い線で繊細に描いた鶴やオウムや鶏の羽の描写と構図の素晴らしさは今でも驚くほど新鮮です。
そんな彩色画の印象が強烈な若冲ですが、実は墨絵も多く手掛けていて、この展覧会はそんな彼の水墨画がたくさん集められていました。

何度も若冲の展覧会には足を運びましたが、今回のように大量の水墨画を目の当たりにしたのは初めてです。
その作品の数と自由な筆運び、そして水墨画のもつ無限の広がりと創造性に圧倒されてしまいました。
<花鳥蔬菜図押絵貼屏風>の梅の枝の力強さと先に行くほど細く曲がりながら上を向く生き生きとした姿。
墨というたったひとつの素材の濃淡や大胆な筆の運びで、これほどまでに生命力を感じることができるとは。本当にその場に立ちすくんでしまったほどです。

俄然、水墨画に興味が湧くとともに、なんだか自分でも描いてみたくなりました。これは友人を誘ってまた、あの老舗の文具店に行くべきでしょうか(笑)。

 

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