蔵出し その4

裏切りのサーカス(2011年・仏、英、独)


監督はスェーデン出身のトーマス・アルフレッドソンだけど、衣装、空気感、美術、役者とすんごくイギリス映画でした。原作を読んだ自分の想像とスマイリーは少し違ったけど、原作自体、はるか昔に読んだので大きな違和感なし。

とにかく大層加齢臭の漂う絵ズラに心の中で大喝采。好きだ、イギリスのオヤジども(映画やドラマ小説限定)。

これを派手なスパイものや謎ときとして期待して見るとまったく違うでしょうね。実は職場がそうだというだけで(←すごい極論)、ある意味とても人間を描いてる。重要なファクターは冷戦時代という事になるわけですが、この作品の最大の魅力は普遍的な人間の心理や姿だと申し上げてよいでしょう。その舞台である当時の情報部は、人間の猜疑心を顕在化し自身の弱点すら文字通り命取りにするという環境としては非常に最適です。
スパイがわんさと登場するといっても派手なシーンはなし、そもそも誰もビジネスバック以上の重いものすら持たないし。あるのはひたすら心理戦。しかもそこには愛憎やプライドや哀しみが入り乱れております。よくぞ、ここまで絞り切りました。

それにしてもゲイリー・オールドマンとジョン・ハートの老けたのには驚いた。けどあれは多分老け演技だったんですよね?あのシド・ヴィシャスが二十数年後にこうなるぜ、と教えたら当時の自分なら怒ったかもしれません。

しかしオールドマンの演技はすごかった。どのショットも完全無欠。当然、他の役者衆も(子役すら!)ハイレベルでめちゃくちゃ見応えがありました、さすがUK。

あの演技力に支えられているからこそ、常に緊迫感あふれる無駄のないカットの連続になったのでしょうねぇ。こういう世界観は禿げしく、いや激しく好きです。よくぞ今映画化したものです。

全員スパスパ吸う煙草とか、登場する車だとかレーニンなのかブレジネフかの格好をしたサンタがやってきてソ連国家を歌うクリスマスパーティの風景。そしてラストにかかるフリオ・イグレシアスの曲が強く印象に残りました。センスいい。イントロからハモンドオルガンですもんねぇ。すごく・・・70年代です。
そして、なんといっても冷戦中の空気感がヒシヒシ伝わって来て(ジョン・ル・カレの原作なんだからそこがミソなんだけれど)痺れましたわ。結論、UKオヤジさいこう。最後に、ギラムのあの変更した設定は必要なのでせうか?

メン・イン・ブラック3(2012年・米国)

2を見た覚えはあるけど記憶がまったくない。観に行く決め手はやはりジョシュ・ブローリンがKの若いころを演じるという一点。
そういう意味では満足。大変よござんした。今までのシリーズのなかでは少しエイリアンにインパクトが欠けていた気もしますが、そのぶんジョシュが頑張った印象。似てました。
途中Jが若きKに「あんた若いころから老けてんだな」と言いますが、あの頃の若者はほとんど老けてましたよJさん。
洋の東西を問わず当時のドラマや映画を観ると驚くもんなぁ、その年齢設定に。デビッド・ジャンセンのTVシリーズ「逃亡者」とか観てごらんなさいよ、キンブル医師があちこちの街で出逢うアメリカの人はハタチ過ぎたらそこそこみんな立派な大人でしたよ。
今のように見た目年齢がグッと下がったのは、ちょうどこの時期フラワーチルドレンとかヒッピー文化とかが流行ってからじゃないですかね、なんてぼんやり考えたりして。まぁこの映画では時代背景をあまり活かすつもりはなかったらしいのでいいのか。

とはいえ69年という年にも最後なんとか意味を持たせて、JとKの友情と申しましょうか今風に言うと少々のブロマンス風味もあり、あまり過度な期待はしてなかったぶん、小ネタが全開で楽しかったす。
一番ウケたのは、ニューラライザーがやたらとデカかったこと。ですよねぇ、と笑ったら実は携帯用のバッテリー式のもありました。

レディ・ガガとかヤオ・ミンかな?(古すぎるのか)中国のバスケ選手もモニターの登場。ミック・ジャガーだけでなく、ストーンズ全員エイリアン認定でお願いします。
そういえば、あのアンディ・ウォーホルが実は・・・というくだりも笑いました。そうですか、あのキャンベル缶にはそんな理由が(笑)。

さて、このシリーズはなんと10年ぶりということで、観た後かならず胸をよぎることをまた考えてしまいました。
うーむ、エイリアンがいるなら今は誰だろう?
答えはひとつ。「寝てないんだよ」が現場での口癖で48歳にして三段蹴りを見事にかます、はい、あの方でございます。

ドライヴ(2011年・米国)

監督はデンマーク生まれのニコラス・ウィンディング・レフン。
あんまり決めつけちゃいけないだろうけど、アメリカ映画でもヨーロッパ監督の映画は割と安心して観られる気がします。この作品もシンプルといえばめちゃくちゃシンプルな話なのにキャラクターを絶対に押しつけてこないところがいいですね。
その距離感がたまらんのです、こっちの受け取り次第って距離感が。暴力的だけどファンタジーです。このふたつをうまくミックスしてくれれば、めっちゃ好物です。嬉しい。

主人公のライアン・ゴズリングとキャリー・マリガンが非常に良かったし、脇を固めるアルバート・ブルックスやロン・パールマン、ブライアン・クランストンなど味わい深い。オヤジがいい映画はまずおもしろい、ここでも法則があてはまりました。いやっほう。

どのくらいこの映画が好きかと聞かれれば、劇場を出た後、真昼間の大阪駅付近を歩く自分のジャケットの背中にはスコーピオンが刺繍され、ない爪楊枝を口にくわえたその脳内ではずっと「A Real Hero」が流れていたと告白するくらいには大好きです。自分的には相当なもんです、それ。

ロボット(2010年・印)

予告をひと目見た時から行こうと心に決めていた作品。
サイトを覗いてみるとユエン・ウーピンがアクション指導しとるという話。和平さん相変わらずワールドワイドやねぇ。

考えればこれもラジニカーントという御年62歳の大スターが主演。なんという最近のオヤジ率!

いやはや、ぶっとんでましたわ。お金かけてのこのバカさ加減、最高です。
もうのっけからね、あくまでも軍事用にロボットを作ったという、もうひとりの主人公天才科学者(ラジニカーントの2役!)の設定から笑えます、なんだ、その時代に逆行した志向は(笑)。

前半、インド大作なのにもっと踊れ~歌い狂え~と思っていたら、実は自分の観たのは日本用の短縮バージョンだったことが判明。しかもあとから177分の完全版が公開されるというじゃありませんか。んな、殺生な(涙)。世界遺産マチュピチュで美しさを放射するアイシュワリヤ様を大画面で観たかったぞ!

和平さんがコレオグラフしたシークエンスは多分、電車のアクションシーンでしょうね。世界中のバカ映画となんという相性の良さ。さすがでございます。

そんな映画なのに感情を持ったチッティが博士に解体されるシーンは悲しすぎるでしょ。しかも失恋したてなのに・・・ぐすん。愛を語って何が悪いんだ、そもそもアンタの軍事目的ってのには最初っから共感できんよ!自分がロボットでも別の博士の所に行ってやさぐれちゃうよ?

しっかしロボットが増殖するってコワイ。ほんと、この映画一体何人の人が死んでいるんだか。ここ最近で観た映画で一番死んでるかも。実感としては「バトルシップ」より多かった。
ラストのアクションは笑うしかない。またなんとなくチープさの漂うVFXが(いや、一流どころが手掛けたそうですが)その荒唐無稽さをこれでもかってほど後押ししてお腹一杯です。なにしろラストのアクションシーンだけで40分くらいはあるでしょう。もう少し短くても・・・と思わないでもないけど、もうね作り手が「必要なの!」と言うなら、もう誰にもなにも言えません。(短縮版ですら139分)だって元々インド映画は長いのが当り前なので。

ところで2009年に制作され世界中でヒットしたインド映画「3 Idiots」(日本の映画祭で唯一上映されたときのタイトルは「三馬鹿に乾杯!」)って日本公開しないんですかね?観たいです。このロボットで弾みをつけて是非公開して欲しい。こちらは完全でも164分と少し短め(笑)。公開こい!
追記:この作品は2013年、「きっと、うまくいく」という邦題で日本今回大ヒット。

Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち(2010年・独、仏、英)

いよいよ公開終了かというタイミングで滑り込みました。有楽町でのレイトショー。
映画とピナ・バウシュの関わりは何度かあり、なかでもペドロ・アルモドバル監督の映画「トーク・トゥ・ハー」で彼女が踊った「カフェ・ミュラー」は有名なシーンのひとつになりました。
ビム・ヴェンダースが3Dで撮ったこの映画のオープニングを飾るのはストラヴィンスキーの「春の祭典」。
映画、まして3Dということもあって少々不安もあったのですがあの生命力と原始的な衝撃はスクリーンを通しても充分伝わってきます。シートを引いて土を盛るところからすでにパフォーマンスの一部であるということをここでもちゃんと表現されていて、一気に安心してしまいましたが、思えばピナ・バウシュと長年の友人である彼に対してそんな心配は無用だったですね。

映画なので、舞台を離れヴェンダース監督は舞踊団のあるヴッパタールの街や自然のなかでのパフォーマンスを重ねていきます。道路の緑地帯、モノレールの中や工場の建ち並ぶ前や、川の中や森を背景に。自分にはこれがすごく面白かったし、新鮮でした。なかでも風の吹きすさぶ高台のオブジェを縫うようにして行進する長い列は、ピナという卓越した存在とそのスピリットが連綿と続いてゆくのを感じさせて圧倒されました。
悲しいことにこの先彼女のパフォーマンスを観ることは叶いません。けれど、この映画がある限り彼女のなお息づいている遺したものの煌めきに、こうして触れることができるのです。なんと素晴らしいことでしょうか。

マッスルモンク(2003年・香港)

昨年、アンディ主演の「新少林寺」を観た時に、そういえば未見であったと思い出した作品。
世にも不思議な映画でした。噂にたがわぬ凄さです。なんでしょう、映画5本分くらいのボリュームというか、色合いというか、とっちらかり具合というか。
でも最後までこう、グイグイじゃないんだけど(表現難しい)まるで太極拳で己の力を利用されて向こう側にグシャリと倒され「え、え、何が起こったの?」と驚いているうちに、その世界に引きずり込まれたような、そんな感じ。

しかし監督のジョニー・トーとワイ・カーファイには脱帽です。
あのテーマでこんな設定(その筋肉も含め)をよく思い付きますよね。そしてそれを演じたアンディも立派。

すごく可愛くて応援したくなるセシリアの恋心が、まさかあんな形で締めくくられるとは思いもよりませんでした、ひぃぃ~。香港映画マジっすか、としか例えようがない。

冒頭アンディの登場シーンはおいといて(笑)その直後はすごい緊迫感で、あのびっくり人間大集合なインド人やら、そいつを追う張兆輝(チョン・シウファイ)の痺れるようなキレっぷりと(この映画の彼大好きです)、カレン・トンの薄幸そうな顔つきといい、さすがジョニー・トーさん期待値マックス!!・・・だったのですが、その事件が解決するや誰ひとりとして再登場もしやしない。ちょ、ちょっと!

そして後半にむかっての展開にはひたすら唖然。
いや、それでもいいんですよ、別に嫌いとか、アホらしいとか、そういうわけじゃなく、心から唖然としたんです。
そしてもっと唖然とするのは、この映画が香港でヒットしたことに加え、最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞をあげちゃったという香港映画界。これにはいつものことながら驚きを隠せません。

本当になんと言えばいいのかちょっと言葉が思い付かないのだけど、少なくてもジョニー・トー、いや、香港DNAにしか(中国大陸の人にも無理だし、アメリカ、日本人ではあり得ない)作れない映画だったということだけは確かなことでしょうね。懐が深すぎる。

 

 

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蔵出し その4 への5件のフィードバック

  1. かず虎 のコメント:

    こんばんは^^裏切りのサーカスでは母国のスパイに対する態度が鮮明で、これが本当の危機管理システムだと思います。が、我が日本の今回の中国のスパイに対する態度は国として恥ずかしいし、これに政治家が関与していて情報を抜かれていることはお粗末極まりないですね。この国はスパイからしたら天国なんでしょうね

  2. SPUTNIK のコメント:

    私は原作を読んでいないので(新訳はあまり評判宜しくないらしく・・・)
    相違点が解らないのですが、純粋に映画の作品としてとても楽しみました。
    目線の映画であり、台詞に頼らない役者同士の殺気が凄かった。
    ジムとビルの関係は原作通りなんですか?

    こないだロンドンへ行ってきたばかりなので、
    あの泥沼みたいな池で泳ぐイギリス人の変態ぶりを垣間みてきましたよ。(笑
    ギラム演じたカンバーバッチが、ダニー・ボイル演出の舞台
    「フランケンシュタイン」に主演してとても好評だったようです。
    帰国直後からスクリーニングが始まって、観る事ができず至極残念!!

    「DRIVE」は何と言うか、凝ったミュージックビデオ観てる感じがしました。

    「ロボット」に次いで「RA-ONE」と言う映画が間もなく公開されるんで
    ケイコ姐さんには是非観ていただきたいっ!!(笑

  3. 岐阜の『ともっち』 のコメント:

    ママさんこんばんは。
    僕も『ドライヴ』を最近観ました。
    もうなんと・・まぁ・・王家衛的な(笑)!!久々にサントラ欲しいと思いましたよ。
    輸入盤でしか買えないそうで残念ですけど。
    劇場を出たというくだりは・・なんだか当時「男たちの挽歌」を観て同じようにマネしたくなった香港の若者みたいで(爆)。
    あの映画、一つだけ疑問に思うシーンが。
    最後のほうで不気味な(?)マスクを着けて敵を襲いに行こうとしてましたけど、マスク着ける意味あったのかな?って。
    『俺は怪物だぜ~ワイルドだろ~』とでも言いたいのかな(笑)。
    なんだかんだ言いつつ、もう一度観よって気持ちあります。それくらい素晴らしかった!!
    『捜査官X』もうすぐこっちでも・・楽しみです!!

    • ケイコママ のコメント:

      かず虎さま
      映画ご覧になりましたか
      あのサンタ、レーニンだったかブレジネフだったか
      アホな自分は見逃がしたのですがどっちでしたか?

      日本のスパイ天国は今に始まったことじゃないでしょうねぇ
      が、この映画はスパイという職業を超えた人間の本質に非常に圧倒されました
      MI6といえどクズ情報を握らされていたりとリアルです。

      SPUTNIKさま
      原作でも直接的な描写はなかったと記憶していますが、もう少しほのめかしてあったような。原作はイギリスでは一般教養に近い小説らしいので、そう言う意味ではあまり詳しい説明とかしなくていいのかもしれませんね。

      「フランケンシュタイン」評判らしいですね。いいな~ロンドン。
      「RA-ONE」さっそく予告見ました、おもしろそぉぉぉぉぉ。

      岐阜の『ともっち』 さま
      マスクですが、前半彼が映画のスタントをしていた時に着けていましたね。なので多分俳優に似せたマスクを作る方がCGで加工するより安上がりなんだと印象に残ったシーンでした。
      なので彼はいざという時に一応面が割れないように撮影所のマスクを盗んだのだと思ったのですが・・・の割に返り血のついたジャケットでそのままウロウロしてしちゃ意味ないじゃん!なんですけどねぇ(笑)。
      捜査官X、いよいよですか。観て気に入ったらまた感想聞かせてください。

  4. かず虎 のコメント:

    こんばんは^^映画観ましたよ~記憶が正しければレーニンだったかと^^日本はずっと危機感なくきてますからね。終戦後ずっと主張したらあかんような負け犬気質を持ったままですからね。この映画のロシアに対する描写は流石ですね

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