上海ドラゴン英雄拳(1972年・香港)

監督
張徹(チャン・チェ)
鮑學禮(パオ・シュエリー)

出演
陳観泰(チェン・クアンタイ)
姜大衛(デビット・チャン)
井莉(チン・リー)
谷峰(クー・フェン)

武術指導
劉家良(ラウ・カーリョン)
劉家榮(ラウ・カーウィン)
唐佳(トン・ガイ)
陳全(チャン・チュエン)

世界を変えた男、ブルース・リーの大出世作、「ドラゴン危機一発」。
それがゴールデンハーベストによって公開されたのが1971年。そして香港の歴代興行記録を塗り替える大ヒット。
その直後に作られたショウブラ作品がこの「上海ドラゴン英雄拳」。
それだけで、ショウブラがこの映画に賭けた意気込みが想像できそうです。
(事実、このブルース・リーの出現がかつて帝国とまで言われたショウブラザースの栄光に陰を落とす要因になりました)

などと知ったようなことを書いておりますが。
食い散らかすように色んな作品をアトランダムに観ていると、時系列が曖昧になったりするのだけれど、時折、詳しい先達の方々のお話を聞いたり、サイトを眺めたりしては「はぁ~、なるほどなぁ」と符合することに行きあたったりすることが多々あります。
そういう意味では先達の皆様には、非常に感謝の気持ちでいっぱいです。
この世にマニアな人がいて本当によかった!

さて、この映画の主役はこの作品が初主演となるチェン・クアンタイ。
脇をデビッド・チャン、チン・リー、クー・フェンが固めるというその布陣だけで、この新人をスターにしようとするショウブラザースの本気度を感じます。

原題は「馬永貞」実在した主人公の名前。
山東省から上海にやってきた男が、腕一つで暗黒街をのし上がってゆくという立身出世ものがたりです。

この男、貧乏で職もないのに野心だけは人一倍ある。
クアンタイさん演じる主人公の、上海に来て初めて目標となる人物が、若きマフィアの親分さん、デビッド・チャン。

出番は少しですが、このデビッド・チャンがとにかくイカしてる(死語の世界)。
颯爽と乗馬服に身を包みながら、(なぜか馬でなく)馬車に乗るそのスタイル。
手には象牙で作られた白くて長い煙管。
ファン必見のカッコいいお姿です。

そんな都会的でおしゃれな親分に心酔するのが、山東出身の武骨でいかにも田舎者のクアンタイさんという対比がおもしろい。

若き親分は、この滅法腕の立つ、そしてまっすぐな性格の馬という男を気に入り自分の配下にならないかと誘います。
いつもひもじい思いをしているクアンタイさん「ラッキー」とその誘いに乗るのかと思いきや、「彼の部下になったら彼と同じところにはたどり着けない」と断ってしまうじゃあないの。

ううむ、野心があるということは、そういうことなんだなぁ。
と、ひどく感心してしまうと同時に、自分ならさっさと子分になるな、と頂上(てっぺん)を取る人とそうでない人の根本的な違いを思い知らされる気分に。

この映画はとにかくラストのアクションが、あまりにも凄まじいため、その印象が強くなりがちですが、自分としてはこの成りあがる男のドラマ部分も面白かった。

いかにも山東人という粗野な男が、どうやって人の心を掴んでゆくのか、その過程がとても興味深い。(しかも肝心な惚れた女は「今のあなたはただのチンピラよ」とかなんとか言って去ってゆくのが、またよろしいですね。なんか妙に説得力があります)
そしてその男を遠くから助力するヤングな親分と、そのふたりに敵対する旧勢力ヤクザ組長の男気のカケラもない老獪さ。

んで、チャン・チェ監督ですので、最終的には復讐のバトルへと物語は雪崩れ込んでゆくわけです。
17分にも及ぶ、茶楼での斧刺さったまんま壮絶血まみれの1対100くらいの闘いは、初主演作にしてチェン・クアンタイという武打星の全てを出しつくしたと言ってもいいほどの、熾烈さにあふれていました。
まったくもって素晴らしい!
今際の果て、わははははは、と笑いながらその時を迎える彼の胸には、一体何が去来していたのでしょうか。

この映画は、時代を超え、大いなるリスペクトを生んだ作品としても知られています。これに限らず、チャン・チェ監督作品がのちの映画に与えた影響は数知れず。

しかし、立ち止まって考えると、少なくともアクションシーンに関しては70年代半ばまでお抱え武術指導とまでいわれた劉家良が、そのほとんどを担当していました。

監督にもよるのかもしれませんが、現代の香港映画での武術監督は、コレオグラフィーはもちろん、シーン前後の演出、役者の演技、カメラ位置、編集に至るまで、世界の映画界では類を見ないほどの権限を握っています。

当時のチャン・チェ作品群において、劉家良がそれらのシーンについてどれほどの決定権があったかはわからないので、めったなことは言えませんが、少なくとも、その後の世界的な影響を与えた魅力の一端を担っていた事実は間違いないことでしょう。

勿論前提として、それはチャン・チェワールドあってこその話ではありますが。

でも急に興味が湧いたので、そのうちにこの辺りの当時の事情を、つたない中国語で捜してみたい、そんなことをふと思ってしまいました。

上海ドラゴン英雄拳トレイラー1
上海ドラゴン英雄拳トレイラー2

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