座頭市地獄旅(1965年・日本)前編

勝新太郎・座頭市映画シリーズで一番好きな作品。このシリーズの重要な要素、ひな形が第1作目にすでにあるのは間違いない。なのになぜそれでなく、これになるのかというと、単純に一番好きなシークエンスがあるから。成田三樹夫がとってもいい

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これと、第一作目の『座頭市物語』はとてもよく似ていると言われる。監督三隅研次とカメラ牧浦地志は同じ。めっちゃネタバレしております。

監督:
三隅研次

脚本:
伊藤大輔

撮影:
牧浦地志

音楽:
伊福部昭

キャスト:
勝新太郎
成田三樹夫
岩崎加根子  
藤岡琢也
須賀不二男
戸浦六宏
山本学
藤山直子

観終わって、ものっすごい傑作じゃん!と思ってレビューをいそいそ読みに行ったら成田三樹夫との勝負が唐突過ぎるという意見に多数あたってしまいびっくりしました。この驚きは成龍の『ラスト・ソルジャー』以来。まあ、自分が好きだと思ったものにそうじゃない人がいても別にいいんだけど、こぞって大絶賛とばかり(笑)。

シリーズ12作めともなれば劇中かなり人を斬っている座頭市だけど、今作の前半は殺さずお仕置き程度。そもそも、第1作ではほとんど人を斬らなかった市であります。それが回数を重ねるごとに敵の人数はどんどん増え、毎回キルカウントを更新する勢いでございました。

アクション映画の特徴として、シリーズが進むほど敵のスケールがどんどん大きくなってゆくという不文律に陥り易く、シリーズ途中で「いつか御三家や将軍様と闘う事になったらどうしよう・・・」と一瞬思ったこともあったりして。今作で勝新さんと三隅研次監督は一旦原点に戻る決断をしたのかもしれません。そう言う意味でもそこかしこに栄えある第1作目への原点回帰の意図が見え隠れします。

オープニングは夜。築地塀(ついじべい)の合間をゆっくり歩く座頭市の後ろ姿。祭り囃子が聞こえている。土塀の下部はきちんと石垣になっており、さすが大映美術といったところでしょうか。美しゅうございます。その壁の陰から、4人のヤクザが飛び出してきて市を囲む、と、そこに伊福部昭のスコアが禍々しく鳴り響いて「座頭市地獄旅」のタイトル。

最後に、5人目、松葉杖をついた戸浦六宏扮する栄太がゆっくりと登場。うお、なんか因縁あるねこりゃ!と胸が高鳴る。刀を抜いた4人の敵がぐるりと取り囲む中心で腰を落とし杖を両手に握った臨戦態勢の市。ロングショットで男どもを鮮やかに斬るが、顔に傷をおわせたりして珍しく殺さずに蹴散らしたのでした。

ヒーローものの肝はなんといっても悪役の魅力。悪役がかっこよければよいほど、映画は締まります。この作品は浪人・十文字糺(ただす)を演じた成田三樹夫が文句なしに素敵。彼のキャラだけで勝ったも同然。

座頭市シリーズの悪役と言えば1作目『座頭市物語』で天知茂演じた平手造酒が有名ですが、こちらは切羽詰まった雰囲気がなく、座頭市に負けず劣らず飄々としているのがとてもキュート。かと思えば、将棋の勝ちにこだわり、相手の待ったを許さなければ、自ら「たとえ将棋の場であっても時と場合によっては」斬ると公言する男です。それに「物騒な」とあきれ顔の市に対し、思い立ったようにこれは公平な勝負とは言えないなと、自ら目隠しをして「こっちも見ないで対等に指す」と頭の中で盤を浮べ対局を続けます。

度を過ぎた潔癖さを伴った理想の勝ちへの執念と、同時に十文で他人に殴らせる商売をするいい加減さのアンバランスさは「ああ、こういう人いるかも」と妙なリアリティがありました。一方の市は、そんな浪人を好ましく感じながらも、信用しきってない心情がふっと言葉に現れる。

たとえば目隠した対局中に襲われ撃退後の台詞。

「市、お前凄い早業だな、てっきり俺が狙われたかと思った。一瞬遅からず早からず、勝負は引き分けというところだ、俺も目隠しをしていたんだから」
「あっしの方が勝ってたら、次は斬られる番ですかい」
「好きな相手は斬らんよ、斬っちまったらこの世でせっかく好きになった相手がいなくなっちまうもんな」
十文字さんたら、狙われる立場で、その上もんのすごい負けず嫌いなのね。で、もって市さんの事は気に入ってる様子。

本作の市は、やむにやまれぬ場合を除きなるべく殺生したくないと考えている男です。それに対し肝の据わった姿と親切心持ち合わせていながら、いざ殺すとなったら何の迷いもない浪人は、ある意味キルカウントを増やし続けて来た過去作品の市の姿の鏡像めいた部分もあります。

加えてこの浪人をめぐる仇討の兄妹、そして冒頭市を狙った戸浦六宏演じる栄太一味の追跡、市が助けた少女と彼女を連れたお稲という謎の女との交流と、いつもより多めのエピソードが交錯します。これだけぶっこんできたら散漫になってもおかしくないところ、無駄な場面がほとんどないどころかかなり上手くまとまっておりました。

お種演じる岩崎加根子は微妙な女心の変化を繊細に表現していて実に上手い。こういうヒロインにありがちな「前触れもなく惚れちゃった感」もなく彼女が市に魅かれてゆく過程が丁寧に演出されておりました。さすが女性映画の監督としても名高い三隅研次。

恥ずかしながら、冒頭の船に乗り遅れたシーンで戸浦六宏一派が話していた「お種」「笠」「追跡」というキーワードをすっかり忘れてしまっていたものだから、途中までこのいわくありげな女お種がどんな人なのか分らずにかなりサスペンスを盛り上げてくれました。うふふ、怪我の巧妙。このボンヤリさも手伝って、この映画を必要以上に面白くさせたのかもしれません。

悪い癖でまたダラダラ長くなってしまった。ので続きは後編へ。

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